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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第176話

 リングの上では、クラインやカレンが中心となり、剣術科との訓練に励んでいたのである。

 容赦ないカレンの声が、飛び交っていた。

 リングの外で、そうした様子を眺めているリュートだ。

 ロベルトの部下たちも、訓練に付き合っていたのだった。


「おとなしいな」

 声をかけるロベルトだった。

 リュートの隣では、ソニアが冷めた眼差しで、兄であるロベルトを捉えている。

 含むところが、未だに消えないのが、ロベルトだけで、当事者であるリュートは、何も抱いていないし、傍観者だったソニアも、未だに癒えないロベルトに対し、呆れた部分を持っていたのだ。


「クラインに、見ていろって、言われたからな」

「言われたからって、おとなしくしている、たまじゃないだろう」

「カイルにも、動きを見て、勉強しろって、言われているしな……」


 仏頂面でいるロベルトから、訓練が行われているリングに、視線が巡らされている。

 カレンの鉄槌が、剣術科に、落とされている最中だ。

 訓練に混じっている、ロベルトの部下たちが、アチャーと言う顔を滲ませていた。


 クラインも、カーチスやキムも、助けることをしない。

 困ったなと言う顔を、漂わせているだけだった。

 ユルガやソルジュ、ミントは、リュートたちから離れた位置で、ロベルトの部下に根掘り葉掘りと、興味のあることを聞いていたのである。


「カイルって、教師か……」

 ロベルトの頭の中に、以前、ここに出たことがあるカイルの姿を、掠めていた。

 カイルたちも、闘技場に顔を出し、訛った身体をほぐしていたのである。

 ただ、このところは諜報員との戦闘が多く、闘技場には訪れていない。

「知っているのか?」

 ロベルトやソニアに、顔を傾けているリュート。


「知っているわよ。何度か、ここに、出ていたから」

「カイルも、来ていたのか。でも、会ったことがないな……」

 過去の記憶を、呼び起こしていたのだ。

 その中に置いて、カイルの姿を見たことがなかった。

「上手い具合に、来る時が、噛み合っていなかったわね……」

「残念……」


「残念ね……、面白いことになって、こちらとして、儲かっていたのに」

 リングに出ていたロベルトとは違い、ソニアは戦闘向きではない。

 頭がいいソニアは、経営の部分で、ハリソンを助けていたのである。

 頭の中では、素早く、リュートとカイルの試合の、そろばん勘定を行っていたのだった。


(稼げる)


 ジト目で、ソニアを睨んでいるロベルト。

 ロベルトは、このところリングの上に、上がっていない。

 周囲の警備に、当たっているが、以前は、リングの上で活躍していたのだ。


 自分以外に、強い者がいないと振舞っていた際、十歳に満たないリュートたちが現れ、舞台の上で、こてんぱんにリュートにやられた過去があったのである。

 リュート自身は、何とも思っていないが、ロベルトは大きな矜持を折られ、未だに、リュートに対しては、素直になれなかったのだった。

 そして、リュートに負けた後、カイルたちにも、負けていたのだ。


「剣術科は、移ったんだってな」

「ああ」

「何でだ?」

「面白そうだと、思ったからだ」


「面白そうって……」

 渋面になっているロベルト。

 彼も、リュートの魔法により、打ちのめされた一人だったからだ。

 だから、魔法をやめることに、違和感を生じさせていたのである。


「勿体ないだろう」

「別に、魔法をやめた訳じゃない」

「そうなのか?」

 口を尖らせているリュートを、ロベルトとソニアが窺っていた。

 彼らはリュートが剣術科に移ったと耳にし、魔法をやめたのかと、巡らせていたのだった。


「一応、所属は置いているし、テストや言われたレポートだって、書いている」

「……そうか」

 ロベルトの口角が上がっていた。


「よかったわね、兄さん」

 ソニアは理解していたのだ。

 ロベルトとは、リュートとの再戦を熱望していることに。

 そして、魔法を繰り出して、戦っているリュートの姿を、見たいこともだ。

 ただ、闘技場の経営のこともあり、なかなか実現は、難しい話だった。


「うるさい」

 そっぽを向いていた。

 その顔は、僅かに赤くなっていたのである。

 二人の会話が、理解できないリュート。


 リングの上では、クラインやカレンによる、容赦ない訓練が続けられていた。

 倒れ込むダンたちに、休む暇なんて与えないで、次々に訓練をさせていく。

 無理やりに回復させられていく、ダンたちは、精神的に追い詰められていくが、一切攻撃の手を緩めない。


 アニスが回復魔法を施し、ダンたちを強制的に、回復させていたのだった。

 アニスが手に負えなくなっていくと、ロベルトの部下たちが、ダンたちに持っているポーションを飲ませていったのだ。


「相変わらず、えげつないな」

 そうした光景を眺めつつ、顔を顰めているロベルトだ。

 ロベルトたちの部下たちも、付き合っているが、ドン引きするほど、ダンたちを即興で鍛えていたのだった。

「そうか」

「そうだよ。少しは、やつらのことを、気遣ってやれよ」

「気遣っていると、思うぞ。ちゃんと、見てやっているんだからな」


((ご愁傷様))


 リュートたちとかかわったばかりに、今後の行く末が、案じてならない二人だった。

「訓練の方は、順調かい?」

 三人の元に、ハリソンが姿を見せた。

 ロベルトの脇に、腰掛けるハリソン。

「まぁまぁかな」

「そうかい。情報を伝えるよ」

「助かる」


 奥に下がっていたハリソンは、リュートに頼まれた、カブリート村についての情報を集めていたのである。

 ハリソンは、長年、ここで闘技場を生業としていることもあり、いろいろと情報源を持っていたのだった。


「カブリート村の長老側にいる者たちが、外に出ていることは、知っているかな?」

 ハリソンの意外な言葉に、リュートの目が見張っていた。

「驚いているってことは、知らなかったのかな?」

 ふふふと楽しそうに笑っている、ハリソンだ。

「知らない……」


「知られないように、何十年も渡って、やっていることだから、リュートたちも、知らないと言うことに、大した驚きもないんだが」

「……何十年も前からって。どういうことだ?」

「長老たちの一族で、わりと、能力がある者は、外で、冒険者などで、生活している者もいる」

「……本当なのか? あの閉塞的な村で?」

 意外過ぎる出来事に、フリーズしている。


「ああ。だから、極一部だし、そうした暮らしをしているせいもあり、歴代の村長たちも、気づいていなかったんだろうな。気づいていたとしても、長老たちについていけず、出て行ったと、思っていたんだろうな」

 ハリソンの脳裏には、カブリート村の長老や村長の顔が浮かんでいた。

「……」

「でも、彼らは、時折、連絡をし合っていた。それも、誰にも、気づかれないように」

 そして、いつの間にか、絶句しているリュートの双眸が、注がれていたのだ。


「……もしかして、今回も、連絡を取り合っていたのか?」

「その通り。それも、以前よりも頻繁にだ。そして、彼らの一部が、密かに、カブリート村に入り込んでいる」

「……」

「元々、そうした動きは、掴んでいたんだ」

「……」

「ロベルトが、見ていたから」

 ロベルトの名を言われ、ギュッとした顔で、ロベルトに巡らしていた。


「そうなのか? ロベルト」

「ああ。俺も、その話を叔父さんから聞いて、知っていた」

 そうした話を、ハリソンは掴んでいて、ロベルトに確かめてくるように、命じていたのだった。

「念のため、もう一度、調べたが、また、カブリート村に、入り込んだ可能性がある」

「そうなのか? 叔父さん」

「ああ。間違いない」


「……学院や村長たちに、気づかれないように、入り込むのは、難しいじゃないのか? 何度も、そうしたことを繰り返していると、気づかれるぞ」

 疑念を、リュートが口に出していた。

「学院も、村長たちも、知らないルートがあるんだよ」

「……ハリソンは、知っているのか?」

「正確なルートを知っている訳ではない。途中までと、地形から考えて、予測をしただけだ」

「さすが、ハリソン」

 ニッコリ笑って、リュートが賞賛している。


「形跡としては、五部隊ぐらい入り込んでいる。つい最近も、入り込んだみたいだ」

「大掛かりなことを、しようとしているのかしら?」

 何気なく、ソニアが呟いていた。

「だな。五部隊なんて、相当な数だぞ」

 同意している、ロベルトだ。


「まだ、わからないが、まだ、入ってくる可能性は、あるかもしれない」

 ワクワク感が、止まらないリュート。

 半眼しているロベルトだった。

「何で、笑っていられるんだ?」

「だって、面白そうだろう」

「「……」」


「そこで、面白そうって言えるリュートは、さすがだね」

「そうか」

「カブリート村に行くことは、やめないってことだね」

 小さく、ハリソンが首を竦めていた。

「勿論」


「こちらでも、人員を出そうか?」

 逡巡している、リュートだ。

「念のため、カブリート村から、逃げ出してきた連中だけ、頼む」

「了解した」

 ハリソンの双眸が、ロベルトを捉えている。

「叔父さん。任せてくれ」


読んでいただき、ありがとうございます。

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