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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第175話

 部屋に到着したのも、つかの間。

 話し合いを終えたリュートたちは、『壊れた時計』を出て、同じような看板もない、普通の民家の前に、立ち止まっていたのである。

 隣近所にも、店などない。

 普通の民家だった。


 言われるがまま、連れてこられたダンたちの顔が、顰めっ面だ。

 連携を図るための訓練と、情報収集をすると言われただけで、みすぼらしい民家の前まで、連れてこられたのである。


「何だ、ここは……」

 思わず、建物を見上げ、捉えているダンが呟いていた。

 他の剣術科のメンバーたちも、同じような顔をしている。

 ユルガとソルジュ、ミントは、興味津々と言った顔だ。


 ダンたち同様に、わからないで、この場所に立たされている。

 それでもユルガたちは、リュートたちのことだから、絶対に何かあると、確信を得ていたのだった。

 途方に暮れているダンたちを構わず、リュートやユルガたちが入っていく。

 家に入っていくと、すぐに、地下に降りていく階段があり、その階段を、平然と降りていくリュートたちの背中を、見つめているダンたち。


「そろそろ、行こうか?」

 立ち止まったままのダンたちに声をかけ、クラインが先に行くように促したのだ。

 促されるまま、慎重な足取りで、ダンたちも入っていった。


 後を追うように、地下に降りていく。

 家の大きさよりも、何十倍も、広く広がっていたのだ。

 ただ、ただ、圧倒されていた。

 あまりの違いに、あんぐりと口を開けてしまっている、ダンたちである。

「何だ……ここは」

「闘技場だよ」

 ダンたちの隣にいるクラインが、説明してあげていた。


 先に下りていたユルガたちは、興味津々と言った顔で、周りを触ったりして、確かめていたのだった。

 目の前に広がっている光景は、大きな観客席があり、戦うリンクが備わっていたのである。

 闘技場と言うこともあり、とても頑丈に、整備されていたのだ。

 初めて訪れていたユルガたちが、どういう構造なんだと、感触を楽しんでいた。


「何で、こんなものが、ここに?」

 ダンたちの双眸が、クラインに注がれている。

「勿論、戦わせて、賭け事をするためさ」

「……学院なんだぞ、ここは?」

 怪訝そうな顔で、クラインに、ダンが突っ込んでいた。


「学院も、知っているよ。ただ、正式に、認めてないだけど、黙認している程度だけど」

「いいのかよ」

「いいんじゃないのかな」

 首を傾げている、クライン。

 ダンたちも、首を傾げている状況だ。


 ローゼルやガルサは、最初戸惑いの顔を覗かせいたが、徐々に、血が高揚していく感覚を味わっていたのである。

 いつか、戦ってみたいと。

「だって、生徒や先生だって、エントリーして、普通に戦っているよ」

「「「「「……」」」」」

 剣術科のメンバーは、誰一人として、村に、このような闘技場があることを、把握していなかったのだ。


 ペケロ村には、観光客や冒険者たちが、楽しむことができる闘技場があったのだった。

 闘技場で、エントリーできるのは、腕に自慢がある者や冒険者だけではない。

 身分を偽って、生徒や学院の教師たちも、極たまにではあるが、エントリーして、戦っていたのである。

 知らない現実に、打ちのめされている剣術科のメンバー。


「生徒って……」

 呆然と立ち尽くしている、パウロが呟いていた。

 自分たちは、噂でも、そうした話を聞いたことがなかったからだ。


「カレンから、聞いていましたが、凄い場所だね」

「でしょ」

 カレンとアニスの間で、話が盛り上がっている。

 それを耳にしながらも、魔法科は、いろいろと知っているんだなと、遠い目をしているパウロだった。

 ビンセントやトレーシー、チャールストンも、同じ思いを巡らせていた。


「ビンセント。カブリート村にも、もしかしてあるの?」

 唐突に、ガルサが問いかけていた。

 放心状態が、まだ抜けないビンセント。

 頭を、横に振っているだけだ。


(……ある訳ないだろう。そんなものが……。でも、俺が、知らないだけで、あるのか……、親父に聞いてみよう)


 自信がない顔になっていく。

「ないよ」

 はっきりとした声音で、クラインが答えていた。

「あるのは、ペケロ村だけよ」

「「「「「……」」」」」


「もしかして、出たことあるの?」

 窺うような眼差しを傾けながら、ローゼルが尋ねていた。

 クラインだけではない、

 魔法科のメンバーにも、眼光が注がれていたのである。

「あるよ。でも、昔だよ。俺も、リュートも。でも、ブラークたちは、少し前まで、小遣い稼ぎに、エントリーしていたみたいだけど」

 何でもないような顔を、クラインが覗かせている。


 出たことがあると聞き、息を飲む、剣術科のメンバーだった。

 そして、リュートたちが、出たことがあるのなら、自分の実力を測るために、今すぐにでも、出てみたいと過ぎらせていたのだ。

 剣術科のメンバーたちは、舞台のリングに釘付けである。


「ここの場所を借りて、連携の訓練をするよ」

「ここで? いいの?」

 目を丸くしているニエルだった。

「顔馴染みだからね」

「「「「「……」」」」」」


 先に来ていたリュートが、話をつけたようで、奥から屈強な大男が、出てきたのである。

 リュートの顔を見るなり、顔を崩す大男。

 だが、リュートは、朗らかな対応をしていた。

「よっ」

「……」

 リュートの前で、立ち止まる。

「少し、貸してくれ」


 殺気を醸し出す大男に、気圧されることもない。

 そして、リュートは、飄々としているのみだ。

 剣術科のメンバーだけが、緊張感を滲ませていた。


「ロベルト」

 名前を言われ、殺気を霧散していく。

 さらに、五十代の男と共に、ロベルトよりも、若い女が顔を出していた。

「叔父さん。ソニア」

 面白くない顔を、ロベルトが滲ませている。


 ソニアと言われた女は、リュートの前に立つ、ロベルトの妹だ。

 彼女は、声を出さず、口だけで、バカねと動かしている。

 それに対し、仏頂面していたロベルトだった。

 叔父さんと呼ばれた男は、闘技場の経営者でハリソンと言い、ロベルトとソニアの叔父で、両親を早くに亡くした二人の親代わりとして、育てたのだった。

 だから、二人にとって、ハリソンは、頭が上がらない存在なのである。


「リュート。すまない」

「別に」

「話は、聞いている。時間までは、好きに使って構わない」

「ありがとう」

「リュート。剣術科に、移ったんだって」

 何気なくリュートに、ソニアが話しかけてきた。


「おう」

「久しぶりに、出てみる?」

「……時間があったらな」

「暇がないの?」

 目を丸くしているソニア。

「わからない」

「そう」


「カブリートの村のことは、任せてくれ」

 にこやかに、ハリソンが対応している。

「頼む」

 リュートとの会話を済ませると、奥に下がっていくハリソンだ。


 残っているのは、リュートたちの他に、ロベルト、ソニア兄妹に、いつの間にか、闘技場の警備している、屈強で身体のあちらこちらに傷がある男たちが、集まっていたのである。

 ロベルトも含め、彼らは、闘技場の警備をしつつ、リングの上にも上がって、観客などを盛り上げていたのだった。


 あっかんな光景に、剣術科のメンバーたちは、言葉もできない。

 場の空気を楽しんでいるのは、ユルガとミントだ。

 楽しんでいるユルガを、好奇心の瞳を隠せないでいるソルジュが、窘めていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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