第174話
トリスたちが出かけた後、クラインから、剣術科のメンバーと、いろいろと話し合いが必要だからと、下でヒューイと話していていいと言われ、そそくさと、リュートが降りていったのだった。
ユルガやソルジュ、ミントを誘ったが、断られてしまっていた。
降りると、先ほどと変わらない位置で、ヒューイが魔導具を弄っている。
リュートの口が、ムニュムニュと動いていたのだ。
二年以上、ここに訪れていない。
ただ、遊び回っているブラークたちから、ヒューイの話を聞いていたので、久しぶりに会ったと言う気はしていなかった。
しばらく、リュートの双眸は、ヒューイが手にしている魔導具に、注がれている。
見られていると察知しながらも、ヒューイの口も開かない。
黙々と、慣れた手つきで、魔導具を直していったのだ。
ようやく、メドが立ったところで、伏せていた視線を、近くで見ていたリュートに巡らせていた。
「いいのか?」
「大丈夫。クラインがやっている」
「お前らしいな」
ニコッと、笑っているリュートだ。
そして、キラキラした瞳は、ヒューイが手にしている魔導具を捉えている。
「いいもの、見つけたな」
「だろう」
リュートと、後、二人しか、気づいていなかったが、ヒューイが手にしている魔導具は、古代の代物で、とても貴重で、生きている間に見ることは、不可能ではないかと言われるほど、とても珍しいものだった。
気づいていないメンバーの多くが、ただのガラクタと、巡らせていたのである。
縫い止められている、漆黒の瞳。
「ダメだからな」
「ケチ」
「これは、俺のものだ」
ヒューイが、手にしている代物は、売り物ではない。
個人の所有物だった。
「少しぐらい、貸してくれても、いいじゃないか」
「ダメだ」
「ヒューイ」
「お前に貸したら、壊される。別のものにしろ」
不満タラタラな顔で、口を尖らせていた。
以前にも、これはと言うものを、貸したことが、何度かあったのだ。
そのたび、壊したりしていたのである。
「これがいい」
「ダメだ」
せがまれても、ヒューイの意思は変わらない。
ぶつかり合う、眼光。
互いに、反らそうとはしなかった。
「……しょうがないな」
折れたのは、リュートだった。
「好きなものを、持っていけ」
ヒューイの双眸が、ぐるりと店内を眺めていた。
「そうする」
「後で、感想を聞かせろ」
「了解」
この店にあるものは、貴重な魔導具から、面白い魔導具、壊れている魔導具など、様々な魔導具が揃っていたのである。
見る目があるのならば、決して損がない店だった。
そして、好奇心をくすぐられたのだ。
そうした客の一人がリュートで、いつしか、遊ぶ際の拠点の一つになっていたのである。
「カブリート村は、どうなっているのか、知っているか?」
ムスッとしているヒューイに、注がれていた。
「カブリート村に、行くのか?」
「ああ」
隠そうともしない。
「だったら、『蒼き流星群』に聞け。あいつらも、カブリート村の洗礼を受けたようだ」
「わかった。で、ヒューイは、何か持っていないのか?」
目の前にいるヒューイを、捉えたままだ。
小さく、ヒューイが息を吐く。
「……カブリート村と言うことを伏せて、村人たちが魔導具なら、武器防具、薬草など、いろいろと仕入れていたらしい。それも、少しずつな」
「今もか?」
「そのようだな」
「ヒューイのところには?」
「いや。俺のところには、来なかった」
「以前から、いろいろと、揃えていたのか」
「そうなるな」
「学院の外からも、仕入れた可能性は?」
「ある。外の連中からも、聞いたからな」
「カブリート村であることは、伏せていたんだな?」
「そのようだ」
「学院の上の方は、知っているのか?」
「さぁな」
首を竦めていた。
「なぜ、カブリート村であることを伏せている? それに、大量に、武器や防具、薬草が必要なんだ? 長老たちは、絶対に、何かをやろうとしている。それも、学院側の者を排除しようとしても」
「知らん」
興味がないと、突き放すヒューイ。
基本的に、古い魔導具しか、興味を持っていない。
ただ、ヒューイの元にも、いろいろな情報が入り込んでいて、リュートたちは彼の情報を、いろいろと利用していたのだ。
「きな臭くなってきたな」
ほくそ笑んでいる、リュートである。
楽しそうに頬を緩ませているリュートに、やれやれと呆れていたのだった。
「あまり、無茶をするなよ」
冷めた目で、窘めていた。
「しないさ」
「そういう時の方が、危険だな」
「向こう次第だ」
「だったら、無茶をしそうだな」
「準備を、ちゃんとしているさ」
「見慣れない顔もあったが、大丈夫なのか?」
僅かに、ヒューイの視線が、上に傾けられていた。
その脳裏には、戦闘向きではない、ユルガやソルジュが浮かんでいたのだ。
ひと目見て、ユルガやソルジュが、激しい戦闘に向いていないことを、察していたのである。
「大丈夫だ。全部、トリスたちが、何とかするだろう。でなければ、置いていくだけだ」
「トリスたちが、大変そうだな」
「チビは、噂の妹か?」
ミントのことは、ここまで流れていた。
「妹だ」
「そうか」
「それに、セナやダンたちもいる。面白くなりそうだな」
「剣術科の連中か? 使い物になるのか?」
胡乱げなヒューイの眼光だ。
彼らのことも、ある程度、力量を見極めいていたのだった。
「……大丈夫だろう」
首を傾げている、リュートだった。
そんな姿に、盛大な嘆息を漏らしていた。
「訓練は、するからさ」
ようやく、リュートの言葉で、納得するヒューイだ。
「あそこに、行くのか?」
「ああ。情報収集と訓練を、兼ねてな」
「精々、使い物にならなく、するなよ」
「大丈夫だ。俺の回復魔法が、あるから」
「それはそれで、可哀想だな」
しわのある頬を、上げていた。
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