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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第172話

 戻ってきたビンセントを捕獲し、学院を出たリュートたち。

 直接、カブリート村に行かず、学院にある村の中で、賑わっているペケロ村に足を運んでいたのである。


 人、人、人で、溢れている状態だ。

 そうした中を何の躊躇いもなく、進んでいるのは、魔法科のメンバーだけで、剣術科のダンたちは、戸惑いを隠せない。

 目的地である、カブリート村に行くものだと抱いていたからだ。

 あてが外れ、聞こうにも、何となく、聞けなかった。

 けれど、興味だけは疼き、あちらこちらに、視線を彷徨わせていたのだった。


 村に、遊びなどに繰り出している生徒は、ごく一部だけで、多くの生徒たちは規則を遵守し、許可が下りない限りは、村に遊びに出かける機会などなかったのだ。

 迷いのない、リュートたちの足取り。

 ダンたちは、行きなれているなと、掠めていたのである。

 だが、口にはしない。

 彼らにも、僅かな矜持があったのだ。


 ダンたちと一緒にいるビンセントだけが、ブスッとした表情を滲ませている。

 学院の出た途端、ビンセントが声ならぬ声で抗議し、ようやく、喋れるように魔法を解かれていたが、目に見える拘束はされていた。

 ビンセントが逃げられないように、ダンたちが近くで、構えていたのだった。


 一人蚊帳の外にいるビンセント。

 苦楽を共にしている班の仲間たちに、半眼している。

 女子のガルサとニエルだけは、痛くも痒くもない顔を覗かせていたが、男子のトレーシーとチャールストンだけは、申し訳なさそうに眉を下げていた。

 だからと言って、ビンセントを開放しようとしない。

 しっかりと、長いものに巻かれていたのである。


「裏切り者……」

 ここに至るまで、何度も聞いた、ビンセントの恨みがこもった声音だ。

「悪いと思っている」

「俺も」

 胸を痛くしている二人だが、行動を変えるつもりはない。


「なら、これは、何だ」

 ビンセントの両脇に、ダンとローゼルが、歩いている。

 これと称されても、二人の表情が歪むことがない。

 ローゼルは飄々と歩き、ダンは、ただ、小さく笑っているだけだ。

 他の者たちは、無視しているか、首を竦めているだけだった。


「「ごめん」」

「……」

 ムスッとしたままのビンセントである。

 二人が自分の方についても、逃げ出すことができないと理解しつつも、自分の方に味方についてほしかったのだ。


 ふと、ここに来るまでの出来事を思い返していた。

 喋ることが、ようやくできるようになったビンセントは、逃げないから拘束を解くように言ってきたが、リュートたちは、それを拒んだのだった。

 トレーシーたちは、勿論、誰一人として、ビンセントの味方に、回らなかったのである。


 フツフツと、湧き上がる苛立ち。

 今度は、リュートたちに向けてきた。

「何で、ペケロ村に、来ているんだ? カブリート村に、行くんじゃなかったのかよ」

 どこか険が含む声にも、リュートたちは、眉尻をあげない。


 悪態をつかれることに、慣れていたのである。

 これまで捕まえた諜報員たちは、甘い声や悪態をつき、何度も、逃げそうとし、手間がかかった経験を持っていたからだ。

 だから、仲間とは言え、甘い顔は見せない。

 それに、ラジュールの実験体にされた経験からも、緩めることはなかった。


 魔法科のメンバーは、いろいろと、経験豊かだったのだ。

 剣術科のメンバーも、魔法科との戦闘訓練のことが、鮮明に頭から離れていなかったのである。

「カブリート村には行く。だが、行くのは、大体、二日後ぐらいだ」

 珍しく、リュートが説明していた。

 そうしたこともあり、トリスたちは、誰も口を出さない。

「はぁ」


 拉致されたまま、直接、行くと巡らせていたビンセント。

 拍子抜けをしていたのである。

 それは、ダンたちやガルサたちも同じで、目を丸くしていたのだった。


 ただ、ダンたちは、ペケロ村に来たことに、何か補充するものでも、買い出ししてから、目的地のカブリート村に行くのかと抱いていたのだ。

 まさか、二日も、滞在するとは思ってもいない。

 一緒に行動することが多いセナは、何となく、そうじゃないかと、漠然と巡らせていたので、大した驚きがなかった。


 魔法科のメンバーも、いつもの段取りなので、平然としている。

 ユルガとソルジュの表情に、変化がない。

 ミント一人だけが、鼻歌を歌っていた。


「どういうことだよ」

 苛立っているビンセントが、噛み付いていた。

「情報収集に、決まっているだろう」

 当たり前の顔を、リュートが覗かせている。

 それは、魔法科のメンバーたちもだ。


「したんじゃないのかよ」

「したが、十分じゃない」

「……」

「大体、情報収集は、基本だぞ。ビンセント」

 ごもっともな意見に、何も言い返せない。

 そして、ダンたちも、僅かに、ばつが悪そうな顔を滲ませていたのだった。


 トリスやクラインだけが、首を竦めていた。

 ユルガやソルジュ、ミントは、素知らぬ顔を決め込んでいたのだ。


 普段、はちゃめちゃなリュートの行動を、目にしているダンたち。

 彼らの視線の先には、リュートの背中が、いつもよりも、大きく映っていたのだ。

 それと同時に、戦闘以外でも、リュートたちの優秀さを目にし、自分たちとの違いを、痛感させられていたのである。


 そうしたダンたちの心の揺らぎなど、気にした素振りを見せないリュート。

 本能が赴くまま、行動していた。


 徐々に、人の多い通りから、薄暗い裏道に進んでいく。

 誰も、リュートたちに、視線を向けてくる者なんていない。

 生徒らしき姿は、容易に見慣れていたのだ。

 いつしか、ダンたちも、見慣れない雰囲気に、さらに興味を惹かれ、ビンセントの見張りの役目も忘れ、視線を好き勝手に動かしていた。


 ユルガやソルジュも、初めて来る場所に、心を躍らせている。

 しかし、ソルジュの方が、僅かに冷静で、気分のまま動きそうなユルガを、服を掴み押さえ込んでいたのだ。

 そうしないとユルガが、勝手にいってしまう恐れがあったからだった。

 平然とした顔をしているミントも、来たことがない場所に、瞳を輝かせ、微かに瞳を彷徨わせていたのである。


 リュートたち以外の姿が、完全にいなくなっていたのだった。

 表通りとは違い、古い家が立ち並んでいた。

 そして、ボロボロの魔導具屋の前で、リュートたちが立ち止まる。

 トリスたちも、足を止めていたのだ。


 セナやダンたちが見上げると、看板には、魔導具屋『壊れた時計』と書かれていたのである。

 魔法科のメンバー以外は、困惑の色を隠さない。


(((((こんなところで、商売?)))))


 商売するような場所ではなかったのだ。

 それにもかかわらず、ボロい看板が掲げられていたのだった。

 ダンたちより、つき合わされていることが多いセナでさえも、ここに来た理由がみえていない。


(何で? 魔導具を買うの? リュートたちのことだから、変なもの、いっぱい持っていそうなんだけど。ホントに、何でこんな場所で……。確かに、ボロい店に、結構、掘り出し物とか、貴重な物が、売っていることがあるけど……。これ、酷くない?)


 店には、誰も寄り付かそうな雰囲気を、臭わせていたのである。

「買い物をするの?」

 眉間にしわを寄せたまま、セナが口を開けていた。

「いや。ここに宿泊するんだ」

 なんでもないような顔で、トリスが教えていたのだった。


 魔法科以外の顔が、様々な色を出している。

 面白そうな、心配そうな、いやそうな、一つとしてない色を示していた。

「宿泊って……」


読んでいただき、ありがとうございます。

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