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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第171話

「遅くなった」

 保健室のテラスに、声をかけながら、グリフィンが顔を覗かせていた。

 テラスには、グリンシュとカイルの姿があったのである。

 テーブルの上に、三人分の手作りお菓子などが、勢揃いしていたのだ。

 そして、どれも、二人が好むお菓子ばかり。


 グリンシュに行くとは言っていないのに、きちんと用意されていることに、諦めの境地に入っていて、何も言わない二人だった。

 空いている席に、腰を掛けようとしているグリフィン。

 すでに、カイルは、ケーキを食べていた。


「スカーレットの様子は、どうですか?」

 お茶を用意しながら、グリンシュが、何気ない口調で尋ねていた。

「相変わらず、何で、俺たちの行動を、把握しているんだ……」

 気味悪そうに、微笑んでいるグリンシュを見つめている。


 カイルも、グリフィンも、逐一、グリンシュに、行動を話している訳ではない。

 なぜか、彼らの行動を、事前に把握していたのだ。

 まさか、学院に住んでいる幽霊たちから、情報を仕入れているとは思ってもいなかったのだった。


「考えるな。時間の無駄だ」

 カイルの言葉に、そうだなと、すんなりと諦めたのだった。

 学院の生徒だった頃からの付き合いである。

 素直に話すとは、決して思えなかったのだ。


「で、スカーレットは、どうしていたんだ?」

 カイルも、気になっていたので、もう一度、尋ねていた。

「相当、疲れているみたいだな」

「今回の研究は、相当ヤバいのか?」

 顔を顰めているカイル。


 そのうち、自分も、その餌食になるだろうと、巡らせていた。

 デュランやラジュールから、逃げることは不可能に近いと、身に沁みていたのである。


「ヤバいだろうな」

「……」

「面白そうな研究だと、思いますよ」

 胡乱げな眼差しを、送っている二人。

「……知っているのか?」

 口角を上げているグリンシュを、しっかり捉えているカイルの双眸だ。


「勿論です」

「何の研究をしているんだ?」

 追究するグリフィンだった。

 研究内容を、詳しく聞かされていない。

 デュランも、ラジュールも、説明するのは、時間の無駄だと言い、問答無用で実験体にしていたのである。


「直接、聞いてみては?」

「話すかっ」

 グリフィンが噛み付いた。

 隣にいるカイルも、頷いている。


「では、素直に実験体になった方が、早いですよ」

「それがいやだから、こうして、逃げているんだろう」

 不貞腐れている顔を、二人が覗かせていたのだ。

 最後には、捕獲されると理解しつつも、最初から捕まる訳にはいかない。

 彼らにも、それなりに矜持があったのだった。


「無駄だと思いますよ」

「「わかってる」」

「なら、最初から、なればいいのに」

「過酷なんだぞ」

 友人を熟知している彼らは、限界値まで、酷使していたのである。

 容赦なかったのだ、デュランも、ラジュールもだ。


「えげつなく、使って来るんだぞ。俺たちの身体を」

「丈夫ですから」

「誰のせいで、そうなったと思っているんだ」

「彼らですかね。それに、リーブたちもですよ」

 グリンシュの言葉に、ついつい、遠い目になってしまう二人である。


「諦めが肝心ですよ。同期になった時点で」

 二人は、盛大な嘆息を漏らしていた。

 そして、カイルの眼光が、グリンシュに注がれている。

「……何で、こんなに、いろいろなことが、重なるんだ」


「さぁ」

 涼しい顔を、浮かべているグリンシュ。

 それに対し、二人の顔は、疲れが溢れていたのだ。


 近年に比べ、各国の諜報員が入り込んでくる数が増え、近くでは、新獣の魔獣が現れ、その調査や、周辺にも、そうした傾向がないかも、並行して調べていたのである。

 それに加え、カブリート村での異変だ。

 生徒の指導もしつつ、それらの対処も行っていたのだった。


「グリフィン。カブリート村の方は、どうなっているんですか?」

 気だるそうなグリフィンに、グリンシュが顔を傾けている。

「酷いな。入ってくる冒険者たちを、村に入れさせないようにしているし、新しい住人には、一段と冷たくなっているぞ」

 わかっている分の情報を、グリフィンが口にしていた。


 学院の警備や、周辺の調査を行っている五十人ぐらいの部隊を、グリフィンが指揮し、何かと、情報を集めていたのである。

 学院が組織している部隊が、いくつもあったのだった。

 そうした一つの部隊を、グリフィンが指揮していたのである。


 カイルは、そうした部隊を持っていない。

 身軽に、動き回っていたのだ。

 話している内容は、すでにグリフィンから聞いていたもので、徐々に、眉間にしわを寄せていたのだった。


「危機的状況に、なりそうですね」

「だろう」

「奥まで、入り込んでいるんですか?」

 渋面になっている、グリフィン。

「……いや」


「向こうも、伊達に、あそこで根を張っている訳では、ないですからね」

 他人事のように、笑っているグリンシュだった。

 指揮している一部を、カブリート村に送り込んで、グリフィンは密かに探っていたのである。

 だが、長老たち側に見つかったりし、さらに厳重な警備を敷かれ、村の奥に入り込むのに、難航していたのだ。


「どっちの味方だよ」

「勿論、学院側ですよ」

 グリフィンが、目を細めている。

 グリンシュの表情は、変わらない。

 無駄な攻防だと気づき、瞬く間に、グリフィンは肩の力を抜いていた。


「メドは、立ちそうですか?」

「まぁな。人数を減らそうと、思っている」

 聞いていなかった話に、カイルが怪訝そうな顔を窺わせていた。

「聞いてないぞ。減らして、大丈夫なのか?」


「撤退しても、いいんだけど。一応、何かあったら、対応しないと、ダメだろうと」

「ですね。その方が、いいと思いますよ」

 通じ合っている二人。

 徐に、カイルの表情が曇っていく。

「……どういうことなんだ?」


「カブリート村に、リュートたちがいっている」

 衝撃の内容に、勢いよく、立ち上がるカイル。

「なっ」


 リュートたちがカブリート村に行くことを、あえて告げていなかった。

 話したら、止めに掛かるだろうと抱き、話さなかったのだ。

 リュートたちの動きを掴んだ時点で、少しでも仕事を減らそうと、グリフィンなりに画策したのである。


 意識が飛んでいたカイルだ。

 瞬時に回復し、カブリート村へ行こうと、反応を示していた。

 だが、先に回り込んでいたグリフィンが、容易く止めていたのだった。

「ダメだ」

「グリフィン。何で、言わなかった」

「言ったら、止めていただろう」

「当たり前だ」


「手が回らないんだ」

 眉を下げている。

 次から次と、舞い込んでくる仕事に参っていた。

 だから、リュートたちの情報を掴み、それを利用したのだった。


「だからって言って、生徒を使うな」

「普通の生徒だったら、止めていたさ。だが、リュートたちだったんで、有意義に使わせて貰った」

「お前な……」

「大丈夫だ。そう思うから、いかせたんだろう」

 グリフィンの双眸が、小さく笑っているグリンシュを捉えている。

「えぇ」


「グリンシュも、かかわっているのか」

 低い声音だ。

「勿論です。カテリーナも、かかわっていますよ」

「みんなで、騙したのか?」


「騙していませんよ。話していないだけで」

 微笑んでいるグリンシュだ。

 それに対し、グリフィンは、申し訳ない気持ちも持っていた。

 けれど、背に腹はかえられなかったのである。


「悪いと思っているさ。でもな、何せ、人員が不足している」

「……」

 学院の現状は、十分なほど理解していた。

 だが、素直に、受け入れない。


「……カイル。心配するな。数は、減らしているが、カブリート村には、俺の部隊が潜んでいる」

「……」

「カイルだって、買っているんだろう? リュートたちのことを」

「……」

「何かあったら、すぐに、知らせることにも、なっているからさ」

「……どいつも、こいつも、俺に知らせないで。これで何度目だ」


 視線を合わせようとしない二人。

 勢いよく、カイルが、腰掛けていた。

「グリフィン。何かあったら、すぐに知らせろ」

「ありがとう。すぐに知らせるよ」

 グリフィンも、椅子に座り、三人でのお茶会を再開させたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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