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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第170話

 職員室の自分の机で、ぐったりとしているスカーレットだ。

 スカーレットの周囲に、曇よりとした空気が立ち込めている。

 そのため、誰も近寄れないし、声もかけられない。

 遠目で、見ているだけだ。


 スカーレット自身、そうした状況に気づいていない。

 それどころではなかった。


 疲労困憊の息を吐いている。

 ある程度、データが取れたとデュランに言われ、一時の休憩を貰い、職員室に戻ってきていたのだった。

 デュランからの呼び出しが掛かるまで、ここで待機していた。

 長年の経験もあるので、スカーレットとしても、逃げるつもりはない。


 ここで逃げると、もう一度、やり直しを喰らうことが、多々あったからだった。

 それはそれで、大変だったのだ。

 研究に付き合わされる前だったら、逃げるが、研究に入り、データを取り始めたら、人が変わるだけで狂うこともあるので、素直に、研究のデータ取りに付き合っていた。


 もう一度、溜息を漏らしている。

 頬に当たる机の冷たさに、心地よさを感じていた。


(気持ちいい……)


 適度に、休憩は挟んでいたものの、それは、デュランのさじ加減だったので、スカーレットとしては、もう少し、休憩の長さや回数を、求めたいところではあった。


(……私、何をしているんだろう……)


 遠い目をしている、スカーレット。


(……新しい職場でも、見つけた方がいいのかな……。でも……)


 何度か、職場を変えようかと抱くが、結局は、フォーレスト学院で、教師を続けていたのだった。




 誰も、デュランの研究に、付き合わされていたことを、把握していたのである。

 だが、誰一人として、餌食になっているスカーレットを、助けようとする気概がある者がいない。

 デュランに逆らえる者は、限られていたのだった。

 そして、多くの教師たちは、巻き添えを喰らいたくなかったからだ。

 遠くから、囁き合っている教師たち。


「大丈夫ですかね……」

 比較的に教師になって、日の浅い教師が漏らしていた。

「心配なら、デュランの餌食に、立候補するか」

 冷めたベテラン教師だ。

「「「「「……」」」」」


「スカーレットたちには、悪いが、デュランの餌食になって貰わないと」

 カイルたちが、生徒だった頃から、教師を務めている男だ。

 長年、彼らを見てきた者たちに取り、かかわるなと言うのが、暗黙の了解となっていたのである。

「「「「「……」」」」」


「そうでなくっても、俺たちが捕まり、餌食になることだって、あるんだからな。諜報員たちの相手もしつつ、デュランに付き合わされていたら、身体がいくつ合っても、足らん。私は、自分の身体が、可愛いからな」

 彼自身、デュランが生徒の頃から、餌食になっている身だった。

 どの教師たちも、頷き合っていた。




 仕事をひと段落させたグリフィンが、職員室に顔を出していたのだ。

 デュランの元から、戻ってくる頃だろうと、スカーレットの元に訪れていたのである。

 職員室に入ると、沈んでいるスカーレットを中心として、距離をとっている教師たち。

 いつもの光景に、グリフィンは、何の感慨もない。

 まっすぐに、スカーレットの隣の空いている席に、腰掛けていた。


「大丈夫か?」

 虚ろな瞳を宿しているスカーレットを、グリフィンが眺めている。

「……大丈夫じゃない」

 弱々しい、スカーレットの声音。

 限界スレスレのところまで、酷使されていたのだ。

 スカーレットの限界を正確に見極め、無駄なく、データを取っていたのである。


「元気出せ。何か、奢るからさ」

「いらない。裏切り者」

「悪い」

 苦笑している、グリフィンだ。

 ジト目で、睨んだままだった。


「ホント。悪いと思っている。だから、スカーレットの仕事を、俺が、代わりにすることにした」

 まだ、不満げな顔である。

 目の下に、隈ができるまで、組み込まれている警備の方が、まだ、ラクだと巡らせているからだ。

「……」

 さらに、困ったなと言う顔を、グリフィンが滲ませていた。

 無意識に、頭を掻いている。


「スカーレット。デュランに伝言を頼む」

「自分で、行けばいいだろう」

「データ整理している時に行くと、機嫌が悪くなるだろう? だから、データを取り始める際に、伝えて貰えればいいから」

 グリフィンも、素直に、近づきたくなかったのである。

 餌食になる可能性があるからだ。


「断る」

 そっぽを向く、スカーレット。

「頼むよ、スカーレット」

「いやだ」

「ただ、カブリート村が、また、変な動きを見せているって、言うだけでいいからさ」

 ちゃっかりと、頼む伝言を。口に出しているグリフィンだ。


 カブリート村と聞き、眉間にしわができ上がっている。

「……カブリート村が、変な動きって……」

「そう。カブリート村が、動いている」

 さらに、渋面になっていく、スカーレットだった。


「前に、デュランやラジュールが、調査した方がいいって」

「そう。上に、デュランやラジュールが、進言したのに、無視して、放置していたカブリート村が、動きを見せちゃっている訳」

「……」

「ま、デュランのことだから、冷めた顔で、ふって、鼻で笑っているだけだろうが、一応、耳には入れておこうと思ってさ」


(確かに、鼻で笑っている気がするが……。腹の中では、物凄く怒っている気がする……)


「……どんな動きなんだ?」

「いつも以上に、外部の者を、入れたがらない程度だ」

「……」

「そして、村の見回りの頻度が、上がっている。それも、異様にな」


(……不味くないか?)


「……デュランやラジュールが、進言した際に、もう少し、調査を行っていれば……」

「上としても、揉め事を起こしたくなかったんだろうよ」

 首を竦めている、グリフィンだった。

「けど……」

「取り決めがあるからな」


 どこか他人事のような、気が抜けたようなグリフィンの発言。

 訝しげているスカーレットだった。

 脳裏を掠めているのは、笑っているのに、目が笑っていないデュランの姿だ。


(……後が、怖いのに……)


「取り決めがあるからって、放置もできないだろう。預かっている生徒が、こっちにはいるんだぞ」

「わかっているさ。だから、密かに、こちら側の者も、侵入させている。ただ、あちらも、相当、勘がいいからな」

 以前から、学院側の者を数人、カブリート村に潜入させていたのである。

 けれど、海千山千の長老側も、そうした潜入者を探知し、村から追い出していたのだった。


「深くまでは、厳しいか」

「そういうこと。で、一応、デュランの耳にも、入れておいた方が、いいと思って、頼んだ訳さ」

「……わかった。伝えておく」

 先ほどまでの表情とは違い、僅かに、しゃきっとしている。

 僅かに、グリフィンの口角が上がっていた。

「ありがとう。スカーレット。カイルとさ、奢るから」


「絶対だからな」

「ああ。好きなだけ、飲んでもいい」

「金がないから。これ以上、飲むなとは、言わないな」

 眼光が鋭くなっている。

 何度も、飲みにいっていたが、酒豪のスカーレットは、底なし沼のように、酒を飲み続けることができたのだ。

 そのため、先に、カイルやグリフィンのお金の方が、底をついていた。


 黙り込んでいるグリフィン。

 段々と、スカーレットの目が細くなっていく。


「……悪い。ただ、懐は、できるだけ、暖かくしておく」

「……承知した」

「ありがとう。じゃ、行くわ」

 用件を済ませたグリフィンが、颯爽と帰って行った。

 デュランと出くわす前に、スカーレットの近くから、消える必要があったからだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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