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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第169話

 ラジュールの研究室に、顔を出している、カイルとグリフィン。

 何度も、呼んでもこないので、ラジュールの研究室に足を運んでいたのだった。

 いつ来ても、悪臭漂う部屋。

 微かに、二人が顔を歪めている。


 何年も、通っても、慣れることがなかった。

 グリフィンは、めったに、ここに来ることはない。

 悪臭を嫌い、足を運ぶことが、少なかったのだ。

 ただ、今回は、カイルだけでは、心配と周りから言われ、渋々と、カイルと共に、研究室にこもってしまったラジュールに、会いに来たのである。

 部屋全体を、見渡しているグリフィン。


(……相変わらず、訳のわからない物で、溢れているな)


 グリフィンの部屋は、数冊の本と、僅かなものが置かれていなかった。

 乱雑そうに置かれているものも、本人曰く、規則性を持って、配置されていたのだった。

 その規則性は、置いた張本人であるラジュールしか、理解できていない。


 だから、それらの物を動かさないように、二人は、慎重に部屋に入室していた。

 以前、数センチずらしただけで、物凄い剣幕で、ラジュールに酷い目にあったことがあったからだった。


 躊躇のない動作で、次々に、薬液を混ぜていくラジュールだ。

 いつ見ても、無駄のない動きに、目が離せないグリフィンだった。


(一切の迷いもない動きだな……。俺には、無理だな)


「何度も、呼び出しが掛かっているのに、たまには、顔を出せ」

 やや顰めっ面のカイルが、言い募っていた。

「忙しいと、伝えたはずだが?」

 喋っていても、動きが止まらない。

「伝言は、受けたが、出ないのが、多過ぎだ」


 眉間にしわを寄せているカイル。

 学院長から、何度も、顔を出すようにと、命じられているにもかかわらず、応じる気配がないことに、学院長らも放置することができず、同期であり、仲がいいカイルに連れてくるように命じたのだった。


「デュランだって、行っていないだろう」

「勿論、デュランも、連れて行く」

「そうか。なら、デュランを、先に連れて行け」

「「……」」

 ここを訪れる前に、二人は、デュランの元へ行き、同じ台詞を言われていたのだ。


「用は、済んだはずだ。さっさと出て行け。邪魔だ」

 また、同じ台詞を言われ、顔を引きつらせている二人だった。

 次第に、ムッとした顔を、カイルが滲ませていく。

「ラジュール。いつまでも、好き勝手するな」

 混ぜていた薬液から、視線の先を、苛立っているカイルに傾けていた。

「私が、どうしようと、カイルには、関係ないだろう?」


 雲行きが妖しくなっていく二人。

 グリフィンが、嘆息を漏らしている。


「お前な……」

「何だ」

 口角を上げているラジュール。


「どれだけの生徒が、お前が、仕出かしたことで、落ち込んでいると、思っているんだ」

「私の知ったことではないと、言ったはずだが?」

「言ったが、教師だったら、責任を取れ。もう少し、生徒に親身になれって言っているんだ」

「親身になって、どうしろと? それで、あれらが強くなるとでも、本気で、思っているのか?」


「誰も、ラジュールみたいに、強くないんだ」

「強くないなら、タフになるように、育てるべきではないのか?」

「お前は、追い込み過ぎだ」

 ヒートアップしていく二人の間に、グリフィンが入っていく。

 このままいけば、一悶着あるのは、目に見えてわかっていたからだった。

「そこまでだ。ラジュール、カイルのことを、少しは思いやれ」


「する必要が……」

「ラジュール。お前の優しさが、見え難いぞ」

「私は、優しくしているつもりはない」

「はいはい」

 不機嫌なラジュールから、顔を顰めているカイルに、視線を移していた。

「カイルもな、落ち着け。ここに来た理由を、思い出せ」


「……」

「お前のところの生徒のことは、気の毒だが、結局のところ、自分で気づかないと、ダメだろう?」

「……」

「とにかく、俺も、生徒のことは、手伝ってやるから、ここは、頭を冷やせ」

「……わかった」

 やや顔を伏せたカイルだ。


 もう一度、疲れた顔を覗かせているグリフィンが、ふんと、そっぽを向いているラジュールに、双眸を巡らせていた。

「ラジュール。学院長たちのやり方が、気に入らないのもわかるが、そう硬くなるな」

「……」

「学院長たちに、好き勝手に、ぶちまけてもいい。後は、俺たちで、何とかするから。だから、顔を出してくれ」


 微かに、不敵な笑みを漏らしているラジュール。

 だが、二人は気づかない。

「……わかった。デュランも、連れて行くんだろう」

「ああ。お前と一緒に、連れて行く」

「そうか」

 ようやく、話がまとまって、グリフィンが息をついている。


「新種の魔獣の捜索は、どうなっている?」

 ラジュールが、唐突に投げかけてきた。

「……見つからないようだ。そのうち、完全に、打ち切る可能性もあるだろうな」

 ばつが悪そうな顔を滲ませながら、カイルが答えていた。

 大まかな捜索は終了していたが、密かに、規模を小さくして、捜索は続けられていたのである。


「魔獣のことも、気になるが、カブリート村のことだろう」

 ラジュールとカイルに、眼光を傾けながら、グリフィンが口に出していたのだ。

 近々の問題としては、新種の魔獣のことよりも、カブリート村の方が重大だった。

「カブリート村のことは、前々から、胡散臭いと、申していたはずだ。それを放置していた、上が悪い」

 突き放したような、ラジュールの言葉。


「そうなんだが……」

 グリフィンの顔が、引きつっていた。

 ラジュールたちは、カブリート村を調べるべきだと説いていた時期があったのだ。

 だが、カブリート村と揉め事をしたくなかった上の者たちが、ラジュールたちの意見に、耳を貸さなかった経緯があったのである。


「上だって、ここまで、酷くなるとは、思っていなかったんだろう」

 カイルが、口を挟んだ。

「お前には、予測が立っていたのか」

 窺うような、グリフィンの眼光。

「当たり前だ」

「「……」」

 何とも言えない顔を、二人が滲ませいる。


(カイルは、知らないだろうな。リュートが、カブリート村に興味を示し、企てていることを。ま、そのことは、後で、教えるか。今は、あれたちに、掻き回して貰おう)


 いいことを思いついたと抱くが、そうした思惑は、顔を出さない。

 リュートたちを、動きやすくさせるためだ。

 そして、いろいろと、その段取りを巡らせていく。


「そうだ。学院長のところに、出向くのだ、その借りは、返して貰うぞ」

 身体を強張らせている、二人だった。

「私の代わりに、警備やれ。勿論、デュランの分もだ。デュランの説得も、私がするぞ」

「これ以上は、無理だ。授業がある」

「空きにすれば、いいだろう」

「勝手な」

 眼光が鋭くなっていくカイルだ。


「授業よりも、生徒を危険から守ることも、大切なのでは」

「「……」」

「決定だな」

「「……」」

 勝ち誇ったような顔を、ラジュールが覗かせていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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