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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第168話

 疲れきったビンセントが、ようやく、学院に戻ってきていた。

 五日振りだ。

 ハンナに話を聞き、そのまま、戻ってくる予定だったが、そうもいかず、カブリート村に密かに滞在し、いろいろと、ビンセントなりに探っていたのである。

 だが、結果は、何もわからず仕舞いだった。


 結果を報告した後のハンナの顔を思い出し、思わず、顔が曇っていく。

 落胆させたことが、心に、グサリと刺さっていた。

 余計に、身体の疲労が癒えない。

 重い足取りだ。


 何もすることができず、自分の寮へ、戻っている。

 授業を受けている時間帯でもあり、周囲にいる生徒たちは少ない。

 ただ、ちらほらと、見かける程度だ。


 いつの間にか、時折、見かけていた生徒たちもいなくなっていた。

 ここぞとばかりに、盛大な溜息を吐くビンセント。

「……早く、寝たい……」

 ベッドで横になりたいと、重い足を懸命に動かしていた。


 後、もう少しで、寮と言う場所で、ダガーが向かっているのを感知。

 身体が反応し、立ち止まる。

 そして、戦闘体勢を構えていた。


 突然の出来事に、僅かに、反応が遅れていたが、辛うじて、ダガーを交わすことができたのだ。

 けれど、突如、襲われたことに、頭が回らない。

 襲われる言われがなかった。


「な、何だ!」

「遅いぞ、ビンセント。待ちわびて、向かおうと、思っていたところだぞ」

 戸惑っているビンセントの前に、やや憤慨しているリュートが、立ちはだかっていたのである。

 ぞろぞろと、リュートの近くに、トリスやセナたちも出てきて、その後からは、同じ班のトレーシーたちも勢揃いしていたのだ。

 人の多さに、あんぐりと口を開けている。


(……何で、いるんだ?……。それも、あんなに大勢で……)


 剣術科だけではない。

 魔法科も、来ていたのである。

 衝撃的な出来事に、完全に頭が追いついていなかった。

 徐々に、顔が顰めていった。


 そんなビンセントを気遣うことなく、勝手に、リュートが話を進めていく。

 誰も、止めることはしない。

「いつまで経っても、戻ってこないで、何をやっていたんだ? 成果は、何か、あったのか?」

 矢継ぎ早に、質問していくリュート。


 瞬時に、応えられない。

 チラリと、助けを求めるように、同じ班の仲間に視線を巡らせている。

 けれど、諦めろと言う表情で、訴えかけているだけだった。


(薄情者!)


 半眼している、ビンセントだ。

 その間も、リュートの質問攻めが止まらない。

 他のメンバーに、双眸を傾けるが、誰も動こうとはしなかった。

 おとなしく、静観していたのである。


(……助けろよ。……もう、いい。逃げよう)


 僅かに、ビンセントが身体を動かす。

 自分ですら、気づかないほどの動きだ。

 それにもかかわらず、堂々としているリュートは、反応を見逃すこともない。

 ビンセントよりも、早く、動いていた。

 拘束の魔法をかけ、ビンセントの動きを、意図も簡単に封じていたのである。


「ブラーク」

「おいよ」

 呼ばれたブラーク。

 素早い動きで、拘束されているビンセントを、縄でグルグル巻きにしている。

 声を上げようとするが、声が出ない。

 リュートに続いて、クラインが、魔法で声が出ないようにしていたのだった。

 手際のいい連係プレーだ。


 剣術科のメンバーが、ただ、ただ、脱帽している。

 それぞれが、何をするのか、言わなくっても理解しあっていたのだ。

「「「「「……」」」」」


 リュートが不敵に笑っている。

「逃がすと思うのか? ビンセント」

「……」

 ムッとした顔を覗かせている。

 突然、拘束されたことに納得できていない。


 ここまでされて、さすがのビンセントも、我に返り、抵抗し始めていた。

 暴れだしても、ブラークが施した縄は、ビクともしない。

 必死に、声を出そうとしているが、声すら出なかった。

 剣術科の授業において、拘束された際の抜け出し方を試してみても、解くことができなかったのである。

 容易に、諦めることなく、足掻くビンセントだった。


「悪いけど。学院を出るまで、魔法は解かないよ」

 苦笑しているトリスだった。

 学院で、諜報活動している者たちと、戦闘を繰り返し、彼らなりに、技術は向上していたのである。

 ただの同年代を相手に、負ける要素がなかったのだ。


「……」

「騒がれるのは、面倒だからね」

 勝手な都合に、訝しげるしかない。


(どうするつもりだ?)


 ニンマリしているリュートに、トリスが顔を注いだ。

「リュート。質問ばかりで、僕たちが、何をするのか、説明していないよ」

「そうだった」

 ポンと、手を叩く。

 そして、視線の矛先を、困惑しているビンセントに戻したのだった。

「ビンセント。これから、みんなで、カブリート村に行くぞ」


「……」

 突然の宣言に、瞬時に、言葉を飲み込めない。

 徐々に、浸透していったのだ。

「なっ……」


「カブリート村で、隠されている秘密を、暴きに行くぞ」

 やる気に満ちているリュート。

 その周りで、トレーシーたちが、ガックリとうな垂れている。


(秘密って、何だよ。それに、何で、俺も、行くんだよ。行くんだったら、お前たちだけで、行けよ。関係ないだろう)


 投げやりな眼差しを注いでいた。

 もう一度、カブリート村に、引き返す気力がなかったのだ。


 カブリート村で、一人で、探っていたビンセントは、何も掴むことができず、かなり落ち込んでいたのである。

 行きたくないと言いたいのに、口を封じられているので抗議もできない。

 だから、身体で使い、行きたくない旨を表しているのに、一切、リュートは受け付けていなかった。


「カブリート村の出なら、知っているな。近頃の異変に」

「……」

「絶対に、何か、隠している」


(何だよ。その自信は)


「カブリート村に、帰っていたんだろう?」

「……」

 暴れていたビンセントが、動きを止めていた。

 口角を上げているリュートだ。

「話は、後で、聞く」


(話すかよ)


「ハンナ」

 突然、リュートから出てきた名に、ビンセントがフリーズしていた。

 腕を組んで、漆黒の双眸を、戸惑っているビンセントに巡らせている。

「調べは、ついている」

 勝ち誇ったような、リュートの表情だ。


 ビンセントが戻ってこない間に、ビンセントに関する情報を、トリスたちが収集していた。

 その収集力にも、ダンたちは目を見張っていたのだった。

 えげつないほどに、ビンセントを追い込んでいく。

 その姿に、剣術科のダンたちが引きつっていた。

 そうした姿を垣間見ても、魔法科で、長年一緒にいたクラインたちは、平然とした顔を滲ませていたのだ。


「時折、手紙のやり取りをしているな」

「……」

「そこには、何か書いてあったはずだ」

「リュート」


 ビンセントの脇に、立っていたブラークが、ハンナから貰った手紙を、いつの間にかビンセントから奪い取っていたのである。

 鮮やかさに、絶句しているビンセント。

 ブラークから、取り戻そうとするが、縛られている状態では、無情だった。

 暴れるビンセントを放置し、ブラークが風の魔法を使い、手紙をリュートの元へ届けていた。


 受け取ったリュートは、早速、手紙を読む。

 トリスやカーチスが、手紙を見ているが、首を竦めていただけだった。

「詳細は、書かれていないが、何かあったことは、確かだな」

「……」

 いつの間にか、ビンセントも動きを止めている。

「詳細は、行ってから、聞けばいい」


(おい。ハンナと、会うつもりなのか!)


 喋られないので、半眼しているビンセントだ。

「ビンセント、安心してくれ。堂々と、会うつもりがないから。ちゃんと、二人の立場を理解しているから」

 ビンセントを安心させようと、トリスが口を開いていた。


(……そこまで、知っているのかよ)


「一応、言っておくけど。ビンセントがいない間に、調べさせて貰ったから」

 微笑んでいる、トリスだ。

 勝手に自分のことを調べられて、嬉しい者などいない。

 これ以上ないぐらいに、ビンセントが渋面になっていた。


「じゃ、行くぞ」

 ひと際、声をあげ、先導していくリュート。

 それに、追随している面々だ。


(もう、行くのかよ。それに、これを解けよ)


 声にならぬ声で、訴えているビンセント。

 ブラークに見張られている状態で、無理やりに動かされていたのである。

 学院内を歩いている生徒たちに、ギョッとした顔をされるが、瞬く間に、視線をそらされていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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