第165話
カーチスとカレンは、いつも二人で過ごすことが、多い湖に、足を運んでいた。
湖の周囲には、小動物から大きな動物たちがあふれている。
人がいるからとって、逃げ出す動物たちはいない。
ここでは、共存していたのだった。
魔獣なども、時折、顔を見せることも多い。
そうしたこともあり、生徒も、この辺りに、顔を出すことが少なかった。
そして、オラン湖よりも少ないが、精霊も、ちらほらと、姿を見せていたのだ。
けれど、二人が来たことにより、小動物や精霊たちが、遠巻きに二人の様子を窺っている。
カブリート村の話が、出始めた頃から、カーチスの言葉数が、少なくなっていたことに、密かに付き合っているカレンは気づいていたが、黙って、様子を窺っていたのだった。
なぜ、おとなしくなったのか、察しがついていたからだ。
何も喋らず、地面に座り込んでいる二人。
綺麗な湖を、意味もなく、眺めていた。
カーチスの眼光は、湖ではなく、遥か遠くを見つめている。
「……大丈夫?」
心配げに、カレンに声をかけられたのに、気づかない。
ここまで来る間も、カーチスは、どこか上の空だった。
ただ、カブリート村の件があったので、カレンも、剥れることはなかった。
ますます、カーチスのことが、心配になっていったのだ。
先ほどよりも、声を高くするカレン。
「カーチス?」
ようやく、カレンの存在に気づく。
ハッとし、ぎこちない顔を、不安そうなカレンに巡らせていた。
「ごめん。何?」
「大丈夫って、聞いただけよ」
自分らしくない行動を、カーチス自身も、気がついていた。
だが、ふとした瞬間に、別なところに、意識がいってしまい、不甲斐ない自分に、さらに落ち込んでもいたのだった。
「……大丈夫」
力がこもっていない、カーチスの声音。
じっと、見つめている、カレンの双眸だ。
「そうは、見えない」
「……ごめん」
「ずっと、謝ってばかりよ」
何とも言えない顔を、滲ませている。
カーチス自身も、情けないと抱き、モチベーションを上げようと試みるも、カブリート村のことを考えるだけで、どうしても、気持ちが下がってしまっていた。
「カブリート村に、行ける?」
狼狽えているカーチス。
すぐに、返事が返せない。
胸の奥では行きたくない、見たくないと巡らせていたのだ。
食い入るように、カレンの眼光が注がれている。
カレンの言葉に、瞬間的に、心の中が、揺れ動いていた。
だが、それも、僅かだった。
「……行くよ」
「別に、行かなくっても、大丈夫よ」
まだ、まっすぐに、見つめられている。
そして、その双眸を、しっかりと、カーチスが受け止めようとしていた。
「……面白そうだろう?」
「カーチス……」
無理している、カーチスを窘めていた。
カブリート村に、カーチスが行くことに、躊躇いを抱いている。
カレン自身では、行く気ではあったのだ。
軽く、首を振っているカーチス。
「大丈夫だよ。それに、興味もあるし……」
「大丈夫なの? 何かあったたら、瞬時に、動けるの?」
「心配性だな」
「カーチス」
カーチスだけの問題では、ないからだ。
僅かな遅れが、大きなミスに繋がることは、これまでの経験で、把握済みだった。
だから、その危険性があるカーチスを、今回、動向することに、一抹の不安を抱えていたのである。
「大丈夫。しっかりと、反応するさ」
「本当に?」
カーチスの奥底を、見定めようとする眼光。
「ホント」
先ほどは違い、揺るがないカーチスの瞳だった。
「……なら、いいけど」
だが、まだ、納得できていない、カレンがいた。
「もう、はっきりさせないとな」
カーチスの眼光が、遥か遠くに巡らせている。
「……どうするの?」
「はっきり、決着をつけるだけだろう」
おどけるような顔を、カレンに傾けていたのだ。
それに対し、カレンが、眉を潜めていたのだった。
「無理だと思っているのか?」
何度も、決着をつけようと言いつつ、カーチス自身、悩んでいたからだった。
そうした姿を、カレンは幾度も、見てきたのである。
「……そうじゃないけど……」
「大丈夫さ。父さんたちに、はっきりと言うさ」
「いいの?」
「いいさ」
「後悔しない?」
「しない。決めていただろう」
「でも……」
不安そうな顔を覗かせているカレン。
小さな笑みを、カーチスが零していた。
そして、真剣な眼差しを巡らせていたのだ。
「大丈夫だ」
「……」
「俺には、カレンもいるし、リュートやトリス、クラインもいるんだ。困ったら、助けて貰うからさ」
「メチャクチャな面々ね」
「それが、いいんだよ」
先ほどまでの、辛気臭い雰囲気がなくなり、笑っている、二人がいたのだった。
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