第164話
トリスから、頼まれた件を果たすため、セナは、ローゼルやダン、パウロ、ビンセントがいる五班のメンバーを、談話室に集合させていたのである。
勿論、頼まれなくっても、注意事項を、伝えようと思っていた。
以前の、経験値を受けてだ。
集まった面々に、視線を巡らせている。
座っている彼らの前で、教師のように、セナが立っていたのだった。
面倒事が増え、肩を落としている、ローゼルたち。
それに対し、五班のメンバーである、ガルサやニエルは、当初、嫌がっていたが、次第に、面白がっている顔を覗かせていた。
最後に、トレーシーとチャールストンを捉えると、何で、俺たちもなんだと、突如、巻き込まれ、不貞腐れている顔を、全開に表していたのだった。
談話室には、セナたちの他に、誰もいない。
セナが早く来て、談話室を、貸し切り状態にしておいたのだ。
他の生徒に、聞かれる訳にはいかなかった。
「諦めなさい」
憐れみを帯びた双眸で、セナが口に出していた。
「「……」」
ブスッとしている、トレーシーとチャールストン。
言われても、納得できない。
「対抗できるの?」
不意に、有無を言わせない、リュートの姿を、二人は脳裏に掠めている。
次第に、二人の頬が、引きつっていった。
周囲の空気が、徐々に、重くなっていく。
その中、黙っているダンたちだった。
彼らは、負けても、ケロッとしている。
悔しさを持っているものの、今の自分たちの実力では、ダメだと冷静に分析し、いろいろと、前回の戦闘で得た課題を作り、着実に、前に進んでいたのだった。
「ねぇ、カブリート村に行くって言うけど、何をするつもりなの?」
行くこと以外、詳しく、説明していなかった。
微かに、興味のある眼差しを注いでいる、ガルサだった。
魔法科の強い理由が、解けるのではないかと、徐々に、ニエルと共に、やる気になっていたのである。
二人は、ラジュール率いる魔法科に、負けたことが悔しく、次こそはと、ダンたち同様に、訓練や自主練に励んでいたのだ。
チラリと、トレーシーやチャールストンに、セナが双眸を傾けている。
僅かに、二人が、眉を潜めていたのだった。
少しだけ、ビンセントから、カブリート村のことを、トレーシーたちは聞いていた。
そう言うこともあり、カブリート村に行くことに、難色を示していたのだった。
僅かに、セナの眼光が揺れている。
(……複雑なんでしょうね)
もう一度、セナが、ガルサたちに戻す。
「カブリート村が、閉鎖的なところだと言うことは、知っているでしょう?」
素直に、頷く二人。
学院内では、常識だったからだ。
「このところ、さらに、酷い状態になっているみたいなの」
「そうなの?」
ガルサやニエルが顔を見合わせ、自分たちよりも、知っているだろうと思える二人に、眼光を巡らせていた。
向けられた当人二人。
非常に、いやそうな顔を窺わせている。
「……ああ。そうみたいだな」
「ビンセントが、ぼやいていた」
無言を通すことを諦めた、トレーシーとチャールストンが、首を竦めている。
「そうなったには、何か理由があるはずと、リュートたちは踏んで、それを探りにいくってことに、なった訳」
説明を聞き、渋面になっている面々だった。
「何か……、アバウト過ぎない?」
ニエルの意見に、セナも、同意したい気分だ。
けれど、グッと、堪えている。
ここで、不満を口にすれば、先に進めないからだ。
少しでも、連携の打ち合わせや、準備などの時間に、割きたかったのである。
「本当に、何か、あるって、思っている訳? リュートや魔法科は?」
信じられないと言う、ガルサの形相。
「そうみたい」
「確信しちゃっていること?」
「ま、話を聞く限り、確率としては、高いかもって?」
首を傾げている、セナだった。
セナの中でも、確信がある訳でもない。
ただ、いくつかの要素を、感じられた程度だ。
それと、何かあるからと言って、動きたい訳ではなかった。
強くなるため、もっと、修行を積みたかったのである。
その時間を潰され、ややセナも、やさぐれる気持ちがあったのだった。
「ねぇ、リュートたちって、いつも、こんなことをしていたの?」
眉間いっぱいに、しわを刻んでいるガルサ。
「そうらしいぞ」
小さく笑っている、ダンだった。
同じ班と言うこともあり、いろいろと、話を聞いていたのである。
憐れみの双眸を、ニエルが、同じ班の面々に傾けていた。
「ニエル。今回は、そっちも、加わっているよ」
顰めっ面のパウロが、突っ込んだ。
「そうだった……」
「でも、こんな大人数いるの?」
抱いていた疑念を、ローゼルが呟いていた。
ここにいるメンバーだけではない。
プラス魔法科の生徒たちや、トリスの知り合いも、加わっていたのだった。
ローゼルの中で、こんな大人数は、必要ないんじゃないと、首を傾げていたのである。
もしかすると、抜けられると、内心、ほくそ笑んでいたのだ。
「確かにな」
ローゼルの言葉に頷き、ダンが、考え込んでいる。
「セナ。何か、聞いているか?」
「たぶん。大勢だと、面白いと、思っているんじゃないの?」
「「「「「……」」」」」
「ローゼル。抜けられるかもって言う思いは、捨てなさい。無理やりにでも、連れて行かれる可能性が、高くなるだけよ。それなら、素直についていった方が、賢明よ。トリスも言っていたわ。こうなったリュートは、止められない、流れに身を任せた方が、正解だよって」
「……」
これまでのリュートの行動を思い返し、あり得ると、誰もが、納得してしまっていた。
先を進めるため、セナの口が動く。
「……ビンセントから、連絡あったの?」
「ない」
チャールストンが答えていた。
「そう……」
トリスから、ビンセントから、連絡あったら、知らせてほしいとも、頼まれていたのである。
「じゃ、準備について、説明するから」
以前、リュートたちから、以前、指摘された準備不足を、言われていたことを、ダンたちにも、詳細に説明していくセナだ。
これまでの経験も踏まえ、事前にして置くことや、準備するものを、的確に伝えていったのだった。
耳にしているガルサたち。
次第に、顔を顰めていったのである。
言葉を失くしている彼ら。
言葉を失っている仲間を放置し、ダンが、疑問を投げかけていった。
「以前よりも、重装備だな」
「そうね。念には念をって、ことでしょうね」
「そうか……。足りないものを揃えれば、何とかなりそうだな」
ダンの形相は、すでに、先のことを見定め、進んでいった。
「ねぇ、いつ、出発するの?」
次に、抜け出したローゼルが、思案しながら、尋ねていた。
不足分を補うにしても、今すぐ出るって、言われても、困るからだ。
「ビンセント次第じゃないの。とにかく、いつ、出発するって、言われても、困らないように、早急に、準備をしておいた方が、いいわね。後、誰が、何を持っているのかも、すり合わせしておいた方が、いい」
ダンやローゼル、パウロが、頷いていた。
さらに、何が、必要で、何が、必要ではないか、綿密に、彼らの中で、話し合われていたのだ。
手際がいい、ダンたちの様子。
置いてけぼりを食らったかのように、途方に暮れた顔を、ガルサたちが覗かせている。
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