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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第161話

 カブリート村を、見回っているアセン。

 冒険者を辞めて、カブリート村の出身の妻と結婚し、カブリート村での警備の仕事についてからの、日課になっていたのである。


 昔ながらの村人に、冷たい視線を巡らされても、仕事を放り出す真似をしない。

 真面目に、続けていたのだ。

 中には、放り出している者もいた。

 だが、アセン自身、そうした者たちに、注意することもない。

 そいつらの言い分は、理解できたからだ。


「今日は、問題もなさそうだな」

 このところ、小さないざこざが頻発し、警備する者たちは、注意深く、村の中を見回っていたのである。

 久しぶりに、何も起きないことに安堵しつつも、不安だけは拭えていない。

 いつ、何が起こるのか、わからないからだった。


 昔ながらの村人たちは、いつも以上に、おかしく、神経質になっていた。

 理由については、皆目、見当もつかないが、いつもに増して、移住してきた村人を敬遠し、邪魔者扱いをしていたのである。


(何なんだ……)


 僅かに、訝しげな顔を滲ませていた。

 一人で、見回っていることもあり、誰も指摘しない。

 村人とも距離があったので、気づかれる様子もなかった。


 冒険者としての勘もあり、長年、カブリート村を見守っているからこそ、昔ながらの村人が、何か、しようとしているのではないかと、胸騒ぎを憶えていたのである。

 だから、いつもよりも、昔ながらの村人が住むエリアを、念入りに見回りしていたのだった。


「アセン。ちょっといいか?」

 昔ながらの村人が、住んでいるエリアを抜けたところで、村長が声をかけてきた。

 まだ、五十代前半のはずなのに、このところの疲労で、年齢よりも、老けて見えていたのである。

 あまりに、肩を落としている様子に、アセンの眉が、下がり気味だ。


「村長。長老たちのことか?」

「ああ」

 困ったなと言う顔を、覗かせている。

 アセンも、長老たちのことは、苦手としていたのだった。

 そして、村長が、何を頼みたいのかを。


 並んで、二人が、歩いている。

 誰も、気に止める様子もなかった。


 カブリート村で、それなりに昔ながらの村人と、アセンは、細い糸だが、繋がりがあったのだ。

 冷たくあしらわれても、アセンは根気よく、相手との距離を見つつ、コミュニケーションを図っていたおかげで、昔ながらの村人の中には、アセンの言葉に、耳を傾ける者が、多少はいたのである。

 そのため、ことあるごとに、昔ながらの村人絡みの件を、頼まれることが多かったのだった。


「言っておくが、長老たちは、俺の言葉は、通じないぞ」

「……わかっているが……」

 諦めきれない眼光。

 そして、嘆息を漏らしていた。

「無理だ」

「ダメか?」

 村長の縋るような視線。


「ダメだろうな」

「……そうか」

 落胆の色が、深くなっていく。

「悪いな」

「……」

「まったく、ダメなのか?」

 弱々しい村長の声音だ。


 気遣うような視線を、アセンが注いでいる。

「まったくだ。これまで以上に、頑なだ。近頃は、会うこともできない」

 様子がおかしくなった頃から、それとなく、アセンなりに、昔ながらの村人や長老たちのことを、探っていたのだ。

 結果としては、ガードが固く、惨敗だった。


「それは……」

 顔を歪めている村長だ。

 気の毒なと言う顔を、アセンが、覗かせていた。


 村長は、村人だけではなく、学院側や、冒険者たちからも、どうにかしろと言われ、非常に、心労が絶えない立場だった。

 そうしたことを理解しているアセンは、幾度か、気晴らしに酒場に誘って、愚痴などを聞いてあげていたのだ。


「何か、聞いていないか? 何でもいいから」

 藁にでも、縋るような村長である。

「口が堅くなっている」

「……」

「たぶん。長老たちから、緘口令が、敷かれているんだろうな」


「そうか……。な、アセン、細い糸口から、探ることは、できないか? 少しでも、いいんだが?」

「どうだろうな」

 思案を巡らせているアセン。


(探っても、ダメだったからな……。でも、やるしかないか……)


「学院からは、どうにかしろって、言われているんだ。これ以上、続くなら……」

 険しくなっている、村長の形相だ。

「そんなに、酷い状況になっているのか?」

 目を丸くしているアセン。

 そこまで酷いとは、思っていなかった。


「各国の諜報員のことでも、頭を痛めているところに、長老たちのことも、加わっているからな」

「そうか。慌ただしくなっているからな」

 このところ、諜報員のことで、カブリート村でも、何度か、借り出されていた。

 長老たちのことに加え、このところ、諜報員のことでも、仕事が増え、何かと忙しい日々を、村長やアセンたちは送っていたのである。


「とにかく、長老たちには、これ以上の問題を、起こして貰いたくない」

「わかった。できるだけ、探ってみる。ただ、当てにはするな」

「すまん。アセン」

 いろいろと、厄介ごとを持ち込んで、すまなそうな顔を滲ませている。

「いいさ」


「ところで、ビンセントが、帰ってきたみたいだな」

 暗い話から、別な話に、村長が変えた。

「ビンセントが?」

 微かに驚く、アセンだった。

 仕事に邁進していて、気づいていなかったのだ。


「ああ。姿を見かけたぞ」

「友達と、会っているんだろう。このところ、あいつ、うちに帰ってこない」

「反抗期か」

「さぁな。帰ってきても、うちに、立ち寄るか、どうか」

 やれやれと、首を竦めている。


「会ったら、家に行くように、伝えるか?」

「いいさ。帰りたくなかったら、帰ってくるだろう」

「そうか」

「ああ」


読んでいただき、ありがとうございます。

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