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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第160話

 ビンセントは、密かに、カブリート村に帰ってきていた。

 一見、長閑な村しか、見えない。

 他の村に比べ、通りに出ている人が少なかった。

 都から、物凄く離れた村のような雰囲気を、醸し出している。

 だが、ここは、賑やかな学院内にある村の一つだった。


 迷いもなく、歩みを進めていく。

 生まれ育った村で、知らないところなんて、ほぼない。

 村人たちは、それぞれの仕事に、励んでいた。


 けれど、よくよく見ると、二つの種類の村人に、しっかりと、区分されていたのである。

 変わらない村の様子に、小さく、呆れ顔を覗かせていた。


(いつ、帰ってきても、同じだな)


 カブリート村は、二分している村だった。

 新たに、移住してきた村人同士は、和気藹々と、語らったりしている光景が、見られるが、昔からの村人たちは、移住してきた村人と、決して、交わろうとしない。

 移住してきた村人が、少しでも、話しかけようとすると、瞬く間に、離れていくのだった。


 だから、いつの間にか、距離を詰めようとしていた村人たちも、少なくなり、昔ながらの村人と、親交を深めなくなっていた。

 いつまでたっても、昔ながらの村人たちは、移住してきた村人のことを、よそ者扱いをし、遠ざける傾向があったのだ。

 四世代も、続けている古い家でも、よそ者として、扱われていたのである。

 そのため、そうした昔からの村人に嫌気がさし、村から出て行く者も、多かった。


 カブリート村には、昔からの村人を、束ねている長老たちがいて、昔ながらの村人に力を示していたのだ。

 移住してきた村人たちを、束ねているのが、村長だった。

 カブリート村は、他の村とは違い、ちぐはぐしていたのである。


 学院側としても、言いたいことがない訳ではない。

 だが、学院ができる前からある村と言うこともあり、何かと、見ない振りをしてきたのだった。

 問題が起こるたび、村長が、長老たちに掛け合っても、昔ながらの村人たちは、長老たちに従順で、村長に従うことがない。


 村として、危うく、細くなっていた均衡が、切れ掛かっていたのである。

 大きな争いがないが、常に、小さないざこざが、長年、あったのだ。


 学院から、帰省しても、馴染みの村人たちは、簡単な挨拶をするだけで、誰も、不審に思わない。

 年に数回、帰ってきていたからだった。

 その際の帰省の理由は、様々である。

 両親への、顔出しや、村にいる友人と、会うためなどだ。


 数時間前の鬱屈とした表情など、見せていない。

 朗らかな顔を覗かせていた。


 幾人かの村人と会話し、自宅とは違う方向へ、向かっていく。

 帰省しても、自宅に、帰るつもりがなかった。

 ハンナと話してから、学院に戻ろうとしていたからだ。


 少し、離れた森に近づくにつれ、ビンセントが、周囲の注意を強めていく。

 魔物などを、警戒している訳ではない。

 多少は、森の中に潜んでいる魔物に、注意を行っているものの、別なものに、神経を研ぎ澄ませていたのである。


 森の中は、ある程度の危険があるものの、警備を担当している者が、定期的に見回っているので、比較的安全で、村人が、木の実などを収穫していた。

 警戒しつつ、森の中へと、近づいていった。

 誰かに、見られる訳にはいかない。

 カブリート村において、ビンセントは、移住してきた村人の息子であり、ハンナは昔ながらの村人の娘だったからだ。


 立場が違う二人。

 会っているのは、とても危険な行為だった。

 そういう経緯もあり、二人が仲良くしていることを、見られる訳にはいかなかった。


 特に、昔ながらの村人にはだ。

 ハンナに、罰が与えられるからだった。

 無闇に、移住してきた者と、かかわってはいけないことに、昔ながらの村人の中で、なっていたのである。

 それを犯して者は、長老たちから、とても厳しく、辛い罰を、与えられていた。


 手紙のやり取りも、ビンセントは、両親や村にいる友人たちにも、教えていないほどだ。

 誰一人として、ハンナと、仲良くしていることを、打ち明けていない。

 待ち合わせしていなかったが、村に戻ってきて、知り合いの村人と、会話しているのを、昔ながらの村人からの情報から得て、ハンナが、いつも会っている場所に、来るだろうと、逸る気持ちを抑え、歩いていったのだった。


 昔ながらの村人たちは、移住してきた村人や冒険者、学院に訪れた観光客に、神経を咎めていたのである。

 そうした経緯もあり、自分が来たことは、瞬く間に、昔ながらの村人に、伝わっていくだろうと、連絡手段の一つとして、使っていたのだ。

 辿り着くと、すでに、ハンナが待っていた。


「ハンナ」

 小さく声をかけると、ニコッと、ハンナが微笑んでいる。

 ハンナは、平凡な顔で、頬には、うっすらとそばかすがあり、茶色の髪を二つに分けで縛っていた。


 二人の出会いは、偶然だった。

 木の実を収穫していたハンナが、一緒に来ていた友人たちとはぐれてしまい、動物に睨まれているところを、訓練のために、森の中へ入ってきたビンセントが、助けてあげたことがきっかけだ。


 二人は、距離を縮めていった。

 森の中に、村人がいないとは限らない。

 だから、極力、声は、小さめだ。


「どうした?」

「ごめんね」

「それは、いいけど……」


 心配の色が濃い、ビンセントだ。

 手紙には、村の様子が、いつもに増して変なこと、相談したいことがあるから、都合ができ次第、相談に乗ってほしいことが、書かれていたのである。

 そのため、手紙を貰って、飛び出してきたのだった。


 どこか、躊躇いがちな、ハンナの双眸。

「ハンナ?」

 首を傾げ、視線を彷徨わせているハンナを、捉えている。

「学院にも、届いている?」

 強張っている、ハンナの表情だ。

 ハンナの耳にも、長老たちと村長たちが、対立していることが入っていた。


「……少しな」

 苦笑している、ビンセント。

 以前より、カブリート村が、おかしくなっていることは、耳にしていたのだ。

 そうしたこともあり、このところ、帰るペースが、段々と、開くようになっていたのだった。


「そう……」

「何か、あったのか?」

「……わからない。でも、長老や他の人たちも、何か、変なの……。どこが、変って言われると、困っちゃうんだけど……」


 辛抱強く、ビンセントが、ハンナの話に、耳を傾けている。

 ハンナ自身も、どこまで話してもいいのだろうかと、迷っていた。

 昔ながらの村人の一員として、育ってきたからだ。

 意を決したような表情を、ハンナが巡らせる。


「……後ね、友達のイシスに、勝手に、家から出ないようにって、長老たちに言われたみたいで、外に出られない状況なの……」

「なんだ、それは」

 顔を顰めていた。

「私が、おやつを持って、訪ねることができたのは、一度だけ。おじさんやおばさんの様子が、沈んでいたり、逆に、明るくなったりと、おかしかったの……」


 家に閉じこもってしまったイシスを心配し、何度か、頼み込んで、一度だけ、イシスに会うことが叶ったのである。

 だが、それ以降、会うことも、できなくなっていたのだった。


「確かに、おかしいな」

「でしょう」

「そのイシスって子は?」


「おじさんやおばさんから、何も、聞かされていなくって、イシスも、不安がっていたの……。何度も、理由を聞いたらしいんだけど。大切な務めがあるから、終わるまでは、絶対に、家の外に、出てはダメだって。そしたら、いつの間にか、イシスの家の周りに、村の男たちが、守っている状況になって……」

「……確かに、変だな」

 眉間に、眉を潜めている。


(まるで、逃げ出さないように、見張っているようではないか)


 思考を、そのまま口に出す真似をしない。

 さらに、ハンナを、不安がらせるだけだと、巡らせていたからだ。


「でしょう」

「それから、会うことは、できないのか?」

「……うん。おばさんからは、様子を聞くことは、できるけど……。本当かどうか、わからないし……」

 会えないとわかっていても、ハンナは、何度もイシスの家に行き、イシスが好きなものをおばさんに渡し、イシスの様子を、聞いていたのである。

 そのたびに、イシスの家の周りにいる男たちが、胡乱げな眼差しを、ハンナに注いでいたのだった。


「そうか」

「なんか、信じられなくって……」

「そうだな」

「どうしたら、いい?」

 見上げている、ハンナの双眸。

 思案顔のビンセントを、捉えている。


 相談できる相手は、ビンセントしかいなかったのだ。

 他の友人に言っても、しょうがないって言うだけで、どの友人たちも、普通に過ごしているだけだった。

 けれど、ハンナだけは、胸騒ぎを憶え、いても経っても入られなかった。


「家の周りにいるってことは、まだ、家にいるって、ことだよな?」

「たぶん……」

 自信なげな、ハンナの声音だ。


「ハンナの両親は、何か、言っていないのか?」

「濁すだけで……」

 大人たちは、濁していただけで、余計に、不安を憶えてしまったのだった。

「と言うことは、なんらかは、知っているってことだよな?」

「たぶん」

「聞き出すことは?」


「無理だと思う。村の決まりだからって。それだけしか、言わないの」

「決まりね……」

 ハンナから視線を外し、思考の渦に入っていく。

 だが、何も浮かばない。


(俺みたいな凡人には、無理か……)


 不意に、リュートや魔法科の生徒たちのことを、思い返している。

 僅かに、顔を歪めていた。


(……あいつらだったら……)


「それに、詳しくは、知らないって。長老たちに、任せておけば、大丈夫って」

「何だ、それ」

「だよね」

 今にも、泣きそうなハンナ。


「わかった。少し、探ってみる」

「大丈夫?」

「深入りは、しないから、大丈夫だ」

「お願いね、ビンセント」

「ああ」


読んでいただき、ありがとうございます。

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