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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第157話

 ラジュールの、終了と言う言葉を聞き、お茶を楽しんでいたグリンシュが、傷ついている剣術科の生徒を診ていく。

 見学しつつ、重軽度を見分けていた。

 そして、的確な処置が、行われていった。


 まったりと、お茶やお菓子を嗜みながら、カテリーナが、眺めている状態だ。

 険しい表情をしながらも、カイルは、生徒たちに近づき、グリンシュを手伝い、生徒たちの回復に、当たっている。

 決して、ラジュールは、携わらない。

 二人だけで、十分だと、判断したからだ。


 容赦がないラジュールの判断に、カイルは、文句を言わない。

 ひたすら、状況が、よくない生徒から、診ていった。

 ある程度、窺っていたところで、自分の生徒に、視線と巡らせていた。


(まだ、まだだな)




 息の荒いカレンたちの下へ、ラジュールが、無言のまま、近づいていく。

 カレンたちも、近づいていることに気づき、次第に、身体を強張らせていった。

 そうした様子を、全然、気にする様子がない。

 いつもの歩み方だ。


 四人の中で、一番、弱っているカレン。

 すかさず、クラインが、回復魔法を掛けていった。

 ブラークとキムは、自ら持っている薬草で、回復している。

 そして、終わったからと言って、リュートたちも、すぐに、駆け寄っていかない。

 巌なラジュールが、近づいて、いったからである。


 おとなしく、ことの成り行きを、窺っているリュートたちだ。

 無闇に近づき、叱責や課題を、喰らいたくなかったのだった。

 四人の前に、立ち止まるラジュール。


「課題だ」

「「「えっ」」」

 絶句している、カレン、ブラーク、キムだった。


 勿論、ラジュールが、出した十五分は、切っていた。

 それにもかかわらず、課題と言われ、頭が追いつかない。


「先生。十五分は、切っていますよ」

 落ち着いているクラインが、口に出していた。

 眼光は、表情が読めないラジュールを、捉えている。

 真意が、全然、掴めない。


「……十五分を切れと言ったが、私の意を込んで、十二分を切れると、踏んでいた。それにもかかわらず、お前たちは、何だ? 十三分も、掛かって。ならば、課題だ」

 無茶苦茶な言葉。

 開いた口が塞がらなかった。

「「「……」」」


 黙り込んでいる三人に対し、クラインが、困ったなと言う顔を、覗かせている。

 反論を、口にしない三人。

 反論したからと言って、高圧的なラジュールに、勝てる訳がなかった。


「時間が、掛かった要因は、何だ?」

「「「……」」」


 悔しげに、拳を握り締めているカレン。

 しょうがないと諦めたように、ブラークが、頭を掻いている。

 キムが、課題かと、遠い目をしていたのだ。


 ブラークやキムは、逆らう真似をしない。

 身体が、染み付いていたのである。

 圧倒的な、ラジュールの圧に。


「聞いている。答えろ」

「「「……」」」

 冷めた眼差し。

 瞬時に、三人が、硬直している。

 外野にいるリュートも、フリーズしていたのだった。


「情けない」

「「「……」」」

 言われっぱなしに、四人が、黙り込んでいた。


「カレン。十五分と言う言葉に囚われ、飛ばし過ぎだ。もう少し、配分を考えて、戦うべきだった。ただ、最初の出だしは、いい。相手の度肝を抜き、相手の反応を、遅らせたからな。だが、その後が、ダメだった。何もかもだ。もう少し、周りを信用しろ。息抜くところは、抜け」

「……はい」

「ブラーク、キム。もっと、確実に、仕留めろ。いくつかの攻撃に、甘さがあったぞ。回復魔法は、人に頼らず、できるなら、自分たちでしろ。クラインを頼り過ぎだ。いつも言っているだろう。リュートやバト、クラインがいないと思い、常に、自分たちで、やることを意識して、戦え」

「「すいません」」


 ラジュールの眼光。

 三人から、黙って立ち尽くしていたクラインに、注がれている。

 三人に向けるよりも、厳しい双眸だ。

 思わず、三人が、絶句するほどだった。


「……クライン。お前は、私が、言いたいことは、わかっているな」

 ラジュールの低い声音。

「はい。何度か、指摘して貰いましたから」

 どこか、小さい声だった。


「なら、なぜ、できない?」

 さらに、目を細め、クラインに注いでいる。

「……」

 厳しい形相を、滲ませているラジュール。

「聞いているのか?」

「……すいません」


「謝れとは、言っていない。私は、質問しただけだ。それに、答えるべきだろう?」

「……はい。ですが、答えが、見つかりません」

 クラインの瞳が、不安げに、彷徨っていた。

 一瞬だけ、クラインを半眼した後、ずっと、唇を噛み締めているカレンに、視線を巡らせている。


 指摘されても、素直に、納得できないカレン。

 そうしたカレンの心情にも、気づいていた。


「リュート。カレンが、納得していないようだが、お前は、私の判断に、何か間違いは、あるか?」

 突如、指名されたリュート。

 微かに、身体を震わせている。

「……いや。十二分で、片がついたはずだ」


 思わず、鋭利な眼光を、カレンが傾けていた。

 だが、向けられたリュートは、痛くも痒くもない。

 ただ、ラジュールだけは、どういう訳か、身体が、反応してしまっていたのだった。


「カレンのミスであり、クラインが、後方に下がって、周りを、見過ぎていたせいでもある。ブラークやキムに関しても、もっと、確実性を高めるべきだ。ただ、一番の要因は、クラインだな。もっと、動けたはずなのに、カレンやブラークに、任せっきりにさせた。あれが、一番、よくなかった」

 リュートが、語っている内容。

 聞いているトリスも、アニスも、同意見だった。


「その通りだ。カレン、ブラーク、キム。お前たちは、クラインの実力を、把握していたはずだ。もっと、前に、出させるべきだった。グランドでは、お前たちだけだったんだ。ここには、リュートがいない。そのことを踏まえて、戦うべきだった」

「「「「……」」」」


 カレンたちが、説教を受けていた間に、完全ではないものの、生徒たちの意識は戻っていた。

 剣術科の生徒たちは、ラジュールの話を聞きながら、何とも言えない顔を覗かせていたのである。

 叱責を受けている彼らに、あっさりと、負けてしまったのだからだ。




 もう、用は済んだと、ラジュールは、汗を滲ませているカイルに近づき、立ち止まっていた。

「お前が、甘やかすから、こんなことになるんだ」

 容赦ない、ラジュールの言葉。

 カイルの表情は、顰めっ面だ。


 意図も簡単に、やられた以上、何も言い返せない。

 結果、負けると踏んでいたが、ここまで、酷いとは思っていなかった。

 ラジュールの瞳は、注がれたままだった。


「やる気が、失せている生徒が、いるじゃないか? そうした生徒は、本気で、やっている者の邪魔だ。さっさと、切り捨てろ」

 切り捨てろと言う言葉に、納得できない。

 ようやく、冷めた表情のラジュールに、顔を向けていたのである。

「お前……」


「私は、間違ったことは、言っていない。お前の甘さが、招いて結果だ。早々に、切り捨てていたら、もっと、結果は、違っていただろう。脱落者を出したくないと言う甘さが、ダメにしているんだ」

 カイルが、悔しげに、顔を歪ませていたのだ。

 まだ、回復しきっていない、セナが、一方的に、カイルが責められ、納得できなかったのだった。

 その双眸は、ラジュールを、睨んでいた。


「指導方針に、口出しするのは、よくないと思います」

 涼しげな眼差しを、睨んでいるセナに、注いでいる。

 傾けられた途端、ゾクリとするものを感じたが、表情に出ないように堪えていた。

 単に、魔法科にやられっぱなしで、悔しかったのだ。

 そうした、やせ我慢にも、感知していたが、ラジュールとしては、小さく笑っているだけだった。


「……カイルの甘さが、お前の力を、引き出せていなくってもか?」

「はい。自分の力が、引き出せていないなら、自分のせいです。先生のせいでは、ありません」

 きっぱりした、セナの声。

 周りで、聞いている剣術科の生徒たちは、頷いていた。


 まっすぐな、挑む視線を、セナが、傾けていた。

「そうか」

 焦った顔で、カイルが、二人の間に、割り込んでくる。

 生徒だろうが、容赦ない姿を、知っているからだ。

「セナ、寄せ。ラジュール、すまない」


「いや」

 ラジュールの双眸が、セナの背後にいる、座り込んでいる剣術科の生徒たちに、巡らせていたのだ。

 どの双眸も、ラジュールに、不快感を示している。

 そうした視線に、微かに、口角を上げていた。


 そして、もう一度、勝気に睨んでいるセナに、視線を合わしていたのだった。

「だったら、結果を示せ。何事も、結果だ。口先では、何でも言えるからな」

「……わかりました」


「ラジュール……」

 挑発するラジュールを、カイルが窘めようとするが、聞く耳を持たない。

 ラジュールの瞳は、カレンたちに、向けられていたのだ。

「課題の内容は、後で、知らせる。期限以内に、終わらなければ、退学だ。いいな」

「「「「はい」」」」


 返事を聞いたラジュールは、きびす返していった。

 様々な感情を、それぞれ抱きながらも、誰の双眸も、ラジュールの大きな背中を眺めていたのである。

 治療を終えたグリンシュは、カテリーナの元へ戻って、お茶を飲んでいたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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