第156話
息も、絶え絶えに、攻撃の手を緩めない、カレンである。
他の三人も、順調に、剣術科の生徒たちを、戦闘不能にしていった。
(……大丈夫。十五分以内に、ケリがつく)
残すは、後、僅かだった。
一番厄介だと、抱いていたセナは、意識を刈り取り、すでに倒れている。
カレンの中で、要注意人物は、もういない。
(名前を、知らないものばかり……。後は……)
剣術科の生徒を、よく知らないカレン。
数年前まで、学院に入り込んだ諜報員を、リュートたちと共に、狩っていた経験をフルに活用し、情報がない剣術科の生徒を相手に、戦いを繰り広げていたのだ。
この戦いにおいて、回復のポーションを使ったのは、一度きりだった。
時間をかけたくなかった。
息継ぎの間を与えないように、戦っているカレンだ。
自分の回復も、極力少なく、相手を仕留めることに、意識を注いでいる。
極度の疲労で、虚ろになりそうになる眼光に、叱咤していた。
視界を、広げていく。
「まだ、戦える……」
か細く、呟いていた。
相手をしている、剣術科の生徒。
カレンの前には、汗だくなダンが、立ちはだかっている。
タフなようで、毒や麻痺を喰らっているはずなのに、攻撃の手が、弱まることがない。
(何、こいつ……)
必死に、攻撃を仕掛けているダン。
スピードも、攻撃威力も、落ちていない。
リュートを相手に、訓練していることもあり、以前よりも、俄然、体力も、気力も、ついて、メキメキ、力をつけていったのである。
器用に、寸前で、相手の攻撃を交わしていった。
カレンも、序盤の俊敏さが、なくなっている。
そのため、攻撃を交わすことに、遅れが生じていた。
唇を噛み締め、目の前にいるカレンを倒そうと、ダンが、躍起になっていたのだ。
すでに、ローゼルやパウロは、倒されていた。
けれど、相手にしているカレンも、負ける訳にはいかない。
距離をとりつつ、最近、憶え始めた精霊呪文を、駆使していく。
疲れが滲む、カレンの形相。
それに対し、カレンが、風精霊系を使用しているので、ダンの身体は、至るところに、切り傷ができ上がっていた。
ダンも、すでに薬草を切らし、回復を見込めない。
もう、後がなかったのだ。
後は、意地しか、なかったのだった。
鬼気迫る顔。
ダンが、突っ込んでくる。
もう少し、距離をとろうとした途端、左足がとられ、思わず、態勢を崩れていた。
身体が、傾き始めるが、態勢を立て直そうと……。
自分の失態に、大きく、目を見開くカレン。
にやりと、ダンが、口を歪めている。
舐められっぱなしで、終われるかとばかり、この一打で、決めると言う顔で、渾身の攻撃を振り上げていた。
(やられる!)
だが、目を瞑る真似はしない。
ダンを、睨んでいるカレン。
カレンの目の前にいたダンが、突如、吹き飛ばされていた。
咄嗟の出来事に、すぐさま、反応することができない。
「大丈夫? カレン」
安堵しているクラインが近づき、回復のポーションを渡す。
渡されたカレン。
無言で、受け取り、乱暴にポーションを飲んだ。
戦いは、終わっている訳ではない。
無茶しているカレンを、心配したブラークたちが、瞬時に、クラインが、カレンの下へいけるように、援護していたのである。
寸前のところで、カレンを、助けることができたのだ。
外野で、見学していたカーチスは、大きく、胸を撫で下ろしている。
リュートたちも、仲間がやられるところを見ていられず、出て行こうとしていたのを、睨みを利かせていた、ラジュールの無言の圧力によって、叶わなかったのだった。
クラインに続き、カレンも、すぐに、戦いに戻っていく。
その後は、早かった。
残っている剣術科の生徒たちを、次々に、仕留めていったのだ。
グランドの中で、立っているのは、カレンたち四人だけと、なっていたのである。
剣術科の生徒は、意識を刈り取られた者、傷を負って、戦闘不能になった者だけだった。
誰一人として、戦える者が、いなくなっていた。
こうした状況に、眉を潜めているカイル。
「終了だ」
ラジュールの声が、グランドの中で、響き渡っていた。
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