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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第155話

 リュートたちが、話している間に、グランドで戦っている四人は、剣術科の三分の一ぐらいを戦闘不能にし、動けない状態にしていたのである。

 勿論、グランドの近くには、以前、トリスが仕掛けた罠が、仕込んであったのだ。

 そのすべてを、用いた訳ではない。

 だが、それを上手く利用し、数を減らしていったのだった。


 観戦しているカイルの顔は、芳しくなかった。

 酷くなる一方だ。

 それに対し、ラジュールは、無表情を保っていた。


「後、少し……」

 小さく、カレンが、呟いていた。

 けれど、その双眸は、紛れもなく、全体を眺めていたのである。


 剣術科の生徒の情報は、一切、入っていない。

 先ほど見学して、見ていたので、ある程度、予測は立てていた。

 だから、早く片付けられる、やる気が薄い者から、退出して貰っていたのだ。

 やや、飛ばし気味のカレン。




 心配げな眼差しを、送っているカーチスだ。

 一年生からの付き合いがあるので、平静を装っていても、無理していることが、リュートたちには、手に取るように理解していた。

 それを上手い具合に、クラインやブラークが、カバーしていたのだった。


「基礎体力をつけていても、配分が、オーバー気味だな」

「最後まで、持つか、どうかだな」

 何気ないリュートの呟きに、トリスが答えていた。


 回復薬のポーションを服用せず、毒や麻痺のポーションで、相手を弱らせつつ、持っているダガーや呪文攻撃で、戦い続けていたのである。

 最初は、カレンの戦いのスタイルに、絶句していた剣術科の生徒だった。

 だが、次第に、相手の攻撃スタイルを掴んでくると、トリッキーなカレンから、距離をとりつつ、上手いタイミングで、攻撃を仕掛けていく生徒も、ちらほらと、出始めていたのだ。


 剣術科の方も、いつまでも、辛酸を舐められている訳ではない。

 徐々にだが、反撃をし始めていたのだ。


 不意に、リュートの眼光が、静観しているラジュールたちに、注いでいた。

 険しい顔で、戦況を窺っているカイルに対し、グリンシュとカテリーナは、お茶を嗜みつつ、繰り広げられている戦いを、楽しんでいたのである。

 冷めた双眸で、戦況を眺めている、ラジュールだった。

 思わず、自分を見られていないにもかかわらず、リュートは身震いしていた。


「……何で、表に出るのが、嫌いなラジュールが来て、こんなことをしているんだ」

 普段のラジュールの行動からは、考えられない。

 いつも、研究室にこもっていることが、多かったからだ。

 好戦的な姿は、何度も、目にしていたが、わざわざ、表に出てきて、挑発するような真似を、目にしたことがなかった。


「さぁな。ラジュールに関しては、俺にも、理解不能だ」

「俺も、さっぱり、わからない」

「それにしても、ブラークとキムも、頑張っているな」

 友人の戦いぶりに、賞賛しているトリスだった。


 カレンに命じられた通り、飛ばしている。

 けれど、体力の配分は、きちんと、なされている様子だ。


「ま、飛ばさないと、カレンのお叱りが、あるからな」

 優しげな眼差しのトリス。

「さすがですね。A組は」

 四人の戦いに、アニスが、感心していた。


 アニスの眼光は、隈なく動いている。

 四人の戦いぶりに加え、剣術科の生徒たちの戦いぶりも、冷静に、観察していたのだ。

 トリスや、カーチスは、仲間たちの観戦をしているため、気づいていなかった。


「焦り過ぎだな、カレンは」

「大丈夫か」

「カレンだから、大丈夫だろう。それに、クラインも、いるんだ。ここに、負ける要素なんて、一つもないな」

 リュートの言葉に、トリスたちが、苦笑していた。


「カーチス。もう少し、落ち着いて、見られないのか?」

 呆れ顔を、覗かせているリュートだった。

 戦闘が始まってから、青い顔をして、ソワソワとしていた。


(ずっと、一緒にいるのに……。カーチスって、こんなに動じるやつだったか? これぐらいのことで)


「……落ち着いているよ」

 そっけない態度だ。

 けれど、言葉とは裏腹に、狼狽え気味に、戦いの行方を窺っている。


「ソワソワしているぞ」

 突っ込むリュート。

 トリスやアニスは、小さく笑っているのみだ。


「うるさい」

「……何だ? カーチスのやつ」

 いつもとは違う姿に、首を傾げているのだった。




 数的には、圧倒的に、不利な状況にもかかわらず、負けていない。

 逆に、勢いの軍配は、四人の方にあった。


 カレンの毒や麻痺のポーションにより、出遅れ感があるセナ。

 毒に犯されても、瞬時に、持っていたトリスから貰った薬草で、毒を消し去っていた。

 そして、すぐさま、近くにいた仲間に、薬草を渡し、戦いに戻っていた。


 だが、最初の出だしから、修復することが難しい。

 カレンが、ばら撒いた毒や麻痺により、身体の動きが、徐々に、鈍くなっていったのだった。

 辛酸を舐められ、余計に、負けられなくなっていったセナだ。


 段々と、冷静さに、欠いていたことに、本人は気づかない。

 いつもの切れ味も、なりを潜め、雑さが、目立ち始めていたのである。

 それは、セナだけではない。

 剣術科の生徒すべてに、言えたことだった。


 汗を滲ませている、セナの目の前。

 息も、乱れていない、誰よりも、余裕を感じさせる、クラインが、立ちはだかっている。

 汗一つ、掻いていなかった。

 釈然としない。

 ムッとした顔で、クラインを、半眼している。


「ごめんね。セナ」

 先ほどまで、セナは、ブラークとキムと、戦っていたのだ。

 それが、いつの間にか、涼しい顔のクラインに、代わっていたのである。

 悔しげに、顔を歪ませているセナだ。


 その前は、カレンとも、戦っていたのだった。

 けれど、誰一人として、戦闘不能にさせることができなかった。

 いつの間にか、戦う相手が、代わっていたからだった。


「ホント。連携が、上手いわね」

「ありがとう」

 ニッコリと、クラインが、微笑んでいる。


 そうしている間にも、剣術科の生徒一人が、倒れていった。

 薬草を持っていても、渡す暇がない。

 投げている間にも、隙ができ上がってしまうからだ。


 何より、悔しいのは、クラインたちの術中に、ハマっていたことだった。

 剣術科の中で、腕のいい者に対しては、一人で、仕留めるのではなく、交代で戦い、体力を奪ってから、仕留めていることに、ようやく、セナは気づいたのである。

 だが、それは、すでに遅い。

 かなり、体力を、奪われていたからだ。


「剣術科は、連携が、あまり、上手くいっていないね」

 落ち着き払った表情で、クラインが、周りを見据えている。


 けれど、攻撃できない。

 全然、クラインの隙が、見えないからだった。

 視線をそらしていても、隙がない。

 仮に闇雲に、今、突っ込んでいけば、確実に、やられるしかないと、掠めている。


「……」

「悪いけど、カレンに、叱られるから、倒させて貰うね」

 セナの他にも、剣術科の生徒は、まだ、数人、生き残っていたのである。

 眼光鋭く、睨んでいた。


「この中で、一番厄介なのは、やっぱり、セナだと、思うから」

「……」


 動きを見せず、カレンたちを、援護していたクラインが、自ら動き始めていた。

 もう、周りの状況を、窺う余裕なんてない。

 目の前にいる、クラインだけを、視界に捉えている。

 闇雲に、攻撃を仕掛けていくが、意図も簡単に、クラインは攻撃を交わしつつ、攻撃呪文をかけていった。


 セナも、ギリギリのところで、クラインの攻撃を交わしている。

 焦っているセナに対し、攻撃を交わされても、クラインの表情が変わらない。

 体力の配分も気にせず、攻撃の手を緩めなかった。

 後がないと、セナが、腹を括っていたのである。


「ホント、ごめんね」

 互いに、攻撃し合っているのに、苦笑しているクライン。

 徐に、セナが、怪訝そうな形相を、覗かせていた。

 すると、背中に、物凄い衝撃を、受けたのだ。


(! いつの間に……)


 クラインとの戦いに、夢中になっていた。

 別な相手と、戦っていたブラークに、背後をつかれたことに、気づかなかったのだ。

 戦っている隙を狙って、クラインに、意識が集中していた、セナの背中に向かって、ブラークが、攻撃魔法を放っていたのだった。


 徐々に、セナが、意識を失っていく。

 その前には、申し訳なさそうな、クラインの顔があった。

 それを最後に、意識が、完全にシャットアウトされた。

 倒れたセナに、構うことなく、次の相手に、向かっていくクラインだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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