表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
160/390

第152話

 剣の打ち合いは、まだ、終わらない。

 静かな双眸で、カイルが、生徒たちの間を、行き来していた。

 ほとんどの生徒が、疲労困憊だ。

 だが、終わりの声が、掛からない。

 必死に、身体を動かしていた。


 幾人かの生徒の剣が、覇気がなく、鈍っている。

 誰の目から見ても、精彩を欠いていたのだ。

 内心で、カイルが、首を振っている状況だった。


 突如、カイルたちの前に、ラジュールが、姿を現した。

 予期せぬ来訪。

 カイルの眉間に、しわが寄っている。

 カイルや、剣術科の生徒たちの動きが、いっせいに止まっていたのだ。


 堂々と、カイルに近づいていく、ラジュール。

 生徒たちが、勝手に止まっても、それどころではない、カイルである。

 彼一人ではない。

 彼の生徒である、クライン、ブラーク、キムを、引き連れていた。


 いきなりの登場に、剣術科の生徒だけではなく、見学していたトリスたちも、大きく目を見開いていたのだ。

 目を細め、ラジュールが、当惑している剣術科の生徒たちのことを、窺っている。


(くだらないことを……)


「ラ、ラジュール? どうしたんだ?」

「前、話していただろう?」

 怪訝そうな顔を、カイルが、覗かせている。

 それに対し、ラジュールの表情は、不敵の笑みを漏らしていた。


 徐々に、カイルの顔色が、変わっていく。

「……何を考えている?」

「そのままだ」

 余裕綽々のラジュールだ。

 カイルが、ムッとしている。

「了承していないぞ。それに、突然だ」


「そんな些細なことは、気にしない」

「お前が、気にしなくっても、俺が、気にする」

「好きなだけ、気にしていろ。もう、やることは、決定済みだ」

 カイルを見つつ、背後にいる生徒たちを、眺めていた。


(何をやっているんだ? カイルのやつは)


 心の奥底では、嘆息を漏らしていたのだ。

 けれど、目の前にいるカイルは、気づかない。

「あのな……」

 段々と、カイルの声音が、荒げていたのだ。

 口角を上げたままのラジュールだった。


 外野に、置かれている生徒たち。

 困惑した顔を、滲ませていたのである。




 何を考えているのか、読めないラジュールに、トリスたちは、ある程度、免疫ができているので、一緒に来ていた、戸惑っているクラインたちに、顔を向けていたのだった。

 ただ、声は、出さない。

 ラジュールの怒りを、純粋に、買いたくなかったのだ。


(何をするんだ?)


(わからないよ、いきなり、何も言われずに、つれて来られたんだから)


 苦笑しているクラインだ。


(おとなしく待っていた方が、賢明だな)


(そうだな)


 困っているクラインたちから、視線の矛先を、鷹揚なラジュールに巡らせていた。

 黙って待っていようとも、トリスは、眉間にしわを寄せている。

 この状態を、理解することができない。

 また、睨み合っているラジュールたちに、釘付けだ。




「……この後にも、授業が控えている」

「大丈夫だ」

「お前な……」

 カイルに睨まれても、ラジュールの表情が崩れない。

 どこ吹く風だ。


 場の空気を読まない、ラジュールの眼光が、見学していたトリスたちに、注がれている。

「トリス。お前たちも、来ていたのか?」

「……はい」


(何を、やらせるつもりだ?)


 楽しそうなラジュールを、眉間にしわを寄せたままで、捉えているトリスだ。

 見た目では、わからなくっても、トリスたちは、気づいていた。

 この状況を、誰よりも、楽しんでいることに。

 チラリと、視線の端で、リュートを巡らせると、ラジュールの登場で、直立不動になっている。


(いつも通りか)


「ちょうど、いいか」

 さらに、ラジュールが、上機嫌になっていた。

 トリスたちの表情が、さらに、当惑している。

 一人だけ、ラジュールが、ほくそ笑んでいたのだ。

 珍しく、やる気になっている、ラジュールの表情。


 状況を静観していたリュートの背中には、寒々しい戦慄が走っていた。

 若干、顔も、強張っている。


 普通だったら、口を開いているはずのリュートが、おとなしいままだった。

 だが、ラジュールの突然の来訪で、剣術科の生徒たちは、いつもと違うリュートの姿に、気づく様子がなかった。

 剣術科の生徒誰もが、ラジュールたちに、双眸を傾けていたのだ。


「グリンシュ。全員を癒やせ」

 ラジュールの掛け声に、グリンシュの姿を、見つけようとしている生徒たち。

 今まで、いなかったところに、グリンシュが、笑顔で立ち尽くしていたのだ。

 全然、グリンシュの気配を、剣術科の多くの生徒が、察知できなかった。

 カイルやリュート、一部の生徒しか、ラジュールたちとは、別に姿を見せた、グリンシュの気配を、捉えることができなかったのである。


 クスクスと、笑みを漏らしているグリンシュだ。

「全員ですか?」

「全員だ」

「ラジュール!」


 カイルが噛み付くが、カイルの言葉に、聞く耳を持たない。

 勝手に、進行していった。

 独壇場のラジュールに、剣術科の生徒たちも、絶句していた。

 剣の打ち合いのせいもあり、言葉を出す、気力もなかったのである。


「さっさとやれ」

 命じられ、グリンシュが、首を竦めている。

 たが、怒りを漂わせているカイルに、従う双眸はみせない。

 悔しげに、カイルが、唇を噛み締めていた。


「わかりました。後で、お礼は、して貰いますからね」

「わかっている」

「では」


 この場にいる全員の疲労や、傷を、グリンシュが、瞬く間に、癒やしていく。

 基本、保健室の治療は、薬草やポーションを使ったりするが、この場では、魔法を使用していたのだ。

 それも、中規模な、癒やしの魔法を。


 授業で、疲労が溜まっていた生徒たちは、瞬時に、体力を回復していった。

 勿論、負傷していた傷も、完璧に、癒えていたのである。

 あちらこちらで、生徒たちが、戻った身体を確かめていた。


「どうですか?」

「これでいい」

 一人だけ、満足げなラジュール。

「ラジュール!」

 声のトーンを上げ、カイルが、怒鳴っていた。


 カイルの態度に、生徒たちが、目を巡らせている。

 どう見ても、険悪なムードだったからだ。

 そして、これまで見たこともないカイルの姿に、剣術科の生徒たちは、声すら出なかった。


「止めても、無駄だ。やると言ったら、やるぞ。そのために、わざわざ、グリンシュを呼び寄せたんだからな」

 クラインたちを見つけ出す前に、グリンシュの元へ訪れ、来いと命じていたのだった。

 何か、面白そうな状況に、二つ返事で、引き受けていたのである。


「勝手に、決めるな」

「カイルに言っても、ウダウダするだけだろう? こういうのは、思った時に、やった方が面白い」

「何が、面白いんだ。これは、遊びじゃないんだぞ」

「勿論だ」

「お前な……」


 突き刺さるような、カイルの瞳。

 それに対し、ラジュールは、しっかりと、受けている。

 ただ、眼光が、喜々を含んでいたのだ。


「私は、至って、真面目だ」

「ラジュール!」

「グダグダ言うな。なら、カイル。私と、やるか?」

 ギラギラとしている、ラジュールの眼差し。

 不機嫌なカイルに、注がれている。


 緊迫している両者。

 取り残されている生徒たちだ。


 互いに、お互いの主張に、従うつもりがない。

 一触即発な空気だけが、辺り一面に、流れていく。

 多くの生徒が、固唾を飲んでいた。

 心地よい、冷たい風だけが、流れていった。


「どうかしたの?」

 唐突に、険悪な場に、似つかわしくはない、微笑みを携えて、カテリーナが姿を見せていた。

 グリンシュに誘われ、訪れていたのである。


 あんぐりと、口を開けているカイル。

 冷めた双眸で、チラッと、ラジュールは窺っただけだ。

 グリンシュが、姿を見せた時点で、カイルは、気づくべきだった。

 ただ、いろいろなことが重なり、失念していたのだ。

「……」


「ラジュールとカイルが、まず、対戦するようですよ」

 簡単に、ことの仔細を、グリンシュが説明していた。


(省くな!)


「あら、久しぶりね。二人の戦いは」

 ニコニコ顔のカテリーナだ。

 二人が対戦することを、楽しんでいたのである。

「じゃ、ゆっくりと、観戦しましょう」


 一人で、異空間から、テーブルや椅子などを出し、ティーセットも、セッティングし始めていた。

 場違いな雰囲気な姿だ。

 生徒たちの視線も、釘付けだった。


「でも、いいんですか? ここで戦っても? 学院長に、叱られるのでは、ないですか?」

 この状況を楽しんでいる、グリンシュの指摘。

 カイルは、ぐうの音も出ない。

 だが、もう一人は、違っていた。

「いつものことだろう? あの人が、騒ぐのは」

 グリンシュの言葉に、ラジュールは、動じない。

 カイルだけが、苦虫を潰したような顔をしていた。


「そうですか?」

 首を傾げているグリンシュ。

 彼としては、どちらでも、よかったのだった。

 二人が戦っても、やめても。


「で、どうする? やるのか? やらないのか?」

 先を、急がせるラジュールだ。

 視線の矛先が、カイルに、傾けられている。

 顰めっ面のカイルだった。

「……やめる」

「そうか。では……」


読んでいただき、ありがとうございます。


腕を怪我してしまい、少しの間、お休みさせて貰います。

治り次第、投稿を開始します。

では。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ