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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第151話

 ほのぼのとした空気を、醸し出している魔法科の見学者を尻目に、剣術科の生徒たちは、黙ったまま、剣を打ち込んでいたのだ。

 三十分近く、続けられ、どの生徒たちからも、大粒の汗が落ちている。

 その前は、走り込みをしていたのだった。

 始まる前から、体力が、落ちていた。


 辺り一面の地面は、生徒たちの汗で、濡れていたのだ。

 生徒によっては、自分たちの汗で、足をとられることもあった。

 それでも持ち直し、打ち込んでいく。


 それほど、汗で、地面が、ぬかるんでいたのだった。

 ひた向きに、打ち込んでいる生徒たち。

 地味な授業だ。


 不平不満を言わず、黙々と、生徒たちが、身体を動かしている。

 懸命に、カイルの止めの声が聞こえるまで、終わることができない。




 静かな双眸で、打ち合っている生徒たちの間を抜け、生徒たちの様子を窺っている。

 集中している生徒や、集中が途切れている生徒を、見極めていたのだ。

 生徒の中には、カイルに、いいところを見せようと、近くに来るたび、意気込む生徒も、ちらほら見受けられたのだった。


(随分と、集中できていないやつばかりだな……。特に、六班のテロスたちに、五班の女子は、上手く集中できているが、男子が、ダメだな……)


 表情に出ないものの、心の中で、嘆息を漏らしていた。

 チラリと、リュートがいる一班に、目を傾ける。


 ひと一倍、元気にやっているのが、リュートだった。

 一人だけ、全然、汗を流していない。

 楽しそうに、打ち込んでいたのである。

 勿論、走り込みをしていた際も、元気が溢れていた。


(普通、走り込みをしたら、鈍ったりするものなのに……。さすが、リーブの息子、体力があり過ぎるな……。それに……、一人だけだな。あんなに、楽しそうになっているのは……。これのどこが、楽しいんだ? そして、どこが、リュートの琴線に、触れているんだ?)


 そうした姿に、やや頭を抱え込みそうになるカイル。

 無駄に体力がある面、相手している方が、大変だった。

 だが、それに折れることもなく、セナとダンが、上手く相手をしている。


 うっすらと、汗が滲んでいるセナ以上に、飄々と、動き回っているダンは、多く汗を流していた。

 セナやダンのように、勘のいい生徒は、その前にした走り込みを、ある程度、セーブしていたのだ。

 限界近くまで、ダンが、追い込まれていたのである。

 それでも、長年、剣術科に在籍している、身分としての矜持だけで、リュートの相手をこなしていたのだった。


(もう少し、できそうだな。それにしても、二人は、器用だからな。だから、リュートの相手ができるんだが……)


 ローゼルとパウロに、双眸を巡らせた。

 いち早く諦めるのが、早いパウロが、懸命に、ローゼルに喰らいついている。

 手を抜き、休むことが多いローゼルも、このところ、真剣にパウロの相手を務めていたのだった。


 目に見えて、一班の能力が、向上している。

 他にも、以前よりも、伸びている生徒もいた。

 そうした光景に、口角が緩んでいる。


(この調子で、脱落しないで、貰いたいな)


 生徒によっては、自分の能力に見切れをつけ、段々と、止めていく者もいたのだ。

 教師をして、そうした生徒を見てきたし、学院に在籍している際は、同期や先輩、後輩で、そうした姿を、何度も、見てきたのだった。

 だから、少しでも、そうした者を作らないように、心掛けて、生徒たちに教えてきたのだ。

 今、抱えている問題の方へ、視線を注いでいる。




(いつになったら、終わるんだ……)


 ただ、やっている感しかない、ビンセントだ。

 トレーシーに、チャールストンも、同じである。

 全然、覇気がない。


 男子とは、やりたくないと、ガルサとニエルが、組んでいる状況だった。

 一時期は、やる気を取り戻していたが、完璧に、戻っていた訳ではない。

 圧倒的なリュートのやる気に反し、ビンセントたちのやる気が、失われていった。


 女子二人は、冷ややかな眼差しを、男子三人に、最初向けていたが、いつの間にか、集中し始め、ビンセントたちのことが、気にならなくなっていた。

 集中し始めると、身体のキレもよくなり、以前よりも、俊敏さが増しているようだった。


(((……)))


 虚しさが、胸の中で、広がっていく。

 トレーシーも、チャールストンも、早く終わってほしい顔を、覗かせていたのだ。

 教師であるカイルがいるので、全面的な手抜きができない。

 さすがに、酷い生徒には、叱責が飛んでいたのだった。


 不意に、ビンセントの眼光が、僅かに、見学しているトリスたちを捉えている。

 さすがに、すべてを向ける訳にはいかない。

 担任のカイルがいる前で。


(……魔法科は、暇なのか? 俺たちは、見世物じゃないんだぞ)


 トリスたちは、喋りに、花を咲かせている。

 段々と、腹が立っていく、ビンセントだった。

 いちゃついているようにしか、見えない。


 ビンセントの茶色い短髪が、風で揺れている。

「いつもよりも、増えているな?」

 チャールストンが、声をかけてきた。

 微かに、眉間にしわが寄っている。

 カイルとは、距離があるので、聞こえないと踏んでのことだ。


「だな」

 短く返事を返すトレーシー。


 勿論、三人も、汗を流しているが、滝のように、流れている訳ではない。

 ただ、流れに従って、身体を、軽く動かしている程度だ。

 トレーシーも、チャールストンも、疲れて、早く休みたいと巡らせている。

 疲れていると言っても、ヘトヘトに、なっている訳ではない。


「……あいつらも、強いのかな」

 何気なく、ビンセントが呟いていた。

「「……」」

 二人の顔が、強張っている。

 そして、二人の視界に、話し込んでいるトリスたちが、映っていた。


 トレーシーの口が動く。

「……さすがに、二人いる女には、負けないだろう?」

 同級生で、魔法科の女子に、負けないだろうと、踏んでいるトレーシー。

 このところ、成績を落としているが、以前は、上位の下ぐらいには、つけていたのである。


「……確かに。って言うか、負けたくない。負けたら、洒落にならなくないか?」

「……だな」

 トレーシーの重い声音だ。


「俺も、負けたくないが、リュートの、知り合いだしな」

 渋面している、ビンセント。

 リュートの知り合いと言うことで、ビンセントの中では、警戒していたのだった。


「変なことを言うなよ、ビンセント」

「そうだぞ」

「けどな……」


読んでいただき、ありがとうございます。

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