第150話
剣術科の授業を、トリス、カーチス、カレン、アニスが、見学していたのである。
カレンが誘って、アニスも、訪れていたのだった。
トリスたちは、堂々と、科が違う、授業を眺めていた。
他の科の授業を見て、少しだけ、新鮮さを憶えている。
けれど、次第に、そうした気持ちが、霧散していく。
剣術科の生徒たちも、幾度も、トリスが見学していたこともあり、耐性ができ、ある程度は、授業に意識を持たせていたのだった。
だが、上手く、できない生徒も、ちらほら存在はしている。
カイルの方も、トリスたちがいても、注意をしない。
それぐらいで、気がそれるならば、失格だからだ。
後で、追加で課題を出すだけだった。
「疲れそうだな」
汗を滲ませている生徒たちを、カーチスが窺っていた。
「これが、授業なんじゃないの?」
同じように、眺めているカレンが、返していたのだ。
ここ数年、カレンは、真面目に授業に参加していることも多いが、未だに、カーチスたちは、ごくたまにしか、授業に参加しない。
苦笑しているアニスに関しては、一年生の時から、真面目に授業に参加していたのだった。
真面目に、参加している生徒にとって、この光景は、ごく当たり前の光景なのである。
なんら、変わりが、なかったのだった。
「な、トリス。これのどこが、楽しんだ?」
カーチスの双眸が、隈なく様子を窺っているトリスに、巡らされている。
汗を流しつつ、二人から三人で組んで、黙々と、剣で打ち合いを繰り返していた。
誰一人として、お喋りする者がいなかった。
止め処なく、続けられる光景。
カーチスからしたら、シュールでしか思えない。
面白みの欠片が、一つもなかったのだった。
寮で、常々、リュートが、剣術科の授業は、楽しいぞと、公言していた。
だから、いつかは、剣術科の授業を、覗きに行こうと、抱いていたのだった。
そして、クラインは、別行動をとっているが、ようやく、念願叶って、剣術科の授業を見学に来ていたのである。
「リュートにとっては、面白いんだろう」
素っ気ないトリスだ。
トリス自身も、面白みがなかった。
だが、リュートが、無茶していないか、監視の意味と、剣術科の情報集めていると言う一環もあり、時々、見学していたのだった。
「……私も、面白いって、思えないんだけど?」
首を傾げているカレン。
僅かに、顔を顰めている。
魔法科の授業は、もっと、賑やかだった。
爆音が、響き渡っていたのである。
まるで、教室で、学科を受けているような感覚を、憶えていたのだ。
「魔法の反復練習と、同じじゃないのかな」
「それにしても、飽きないのかしら?」
「たぶん。セナたちは、必死に、向き合っているんじゃないの」
反論できないセナたちに代わり、アニスが代弁していた。
(これが、普通なんですが……)
これまで、カレンから、A組の授業をことは、話を聞いて、知っていたのである。
普通では、あり得ない授業内容に、内心、開いた口が塞がらなかったが、指摘したことは、これまで一度もない。
知らない方が、いいこともあるかもと、言えなかったのだ。
A組と、他のクラスでは、授業内容が、全然、違っていたのである。
A組の中で、少しだけ、違っていると言う認識しかない。
「そうなのかな」
「そうだと、思うけど」
「それにしても、単純な行動は、つまらない」
不満げな言葉を、カーチスが、濁していた。
もっと、派手なことを、想像していたのだ。
それが、地味な反復な練習に、肩透かしを食らったような気分を、カーチスが味わっていたのである。
「これが、七年生の授業かよ……」
二年生の時から、ラジュールに、鍛えられた彼ら。
目の前に映っている光景に、とても、ユルく、思えてしょうがなかったのだ。
ラジュールの授業は、普通の教師が、教えるものと、大きく違っていた。
そして、長年、ラジュールの教えに、馴染んでいた彼らは、それが普通であると信じ、力をつけていったのだった。
もう、卒業しても、やっていけるぐらいにはだ。
「体力をつけることに、重きを置いてあるんだろうな」
「だけどよ……」
「カーチスは、昔から、単純な行動が、嫌いだったからな」
チラリと、窺っているトリス。
「ホント。未だに、嫌いなんだから」
咎めるような、カレンの眼差し。
ラジュールから、課題や試験などで、付っきりで、カレンが教えている時でさえ、集中を途切れ、何度も、注意を受けていたところだった。
「……昔よりかは、マシになったぞ」
「確かに、昔よりかは、マシになっているな」
「だろう」
「トリス。甘やかさないで」
はっきりとした口調で、カレンが、窘めていた。
ここで、甘やかせても、いい結果にならないと、巡らせたからだ。
厳しいカレンの姿に、アニスが、微笑んでいる。
「わかった」
「トリス……」
友達を見捨てたトリスに、ジト目になっているカーチスだ。
「頑張れ、カーチス。カレンの行動は、カーチスのことを、思っている行動だからな」
「「……」」
あわあわと、慌て動き出す、カーチスとカレン。
(これで、俺たちが、気付いていないと、思っているとは……)
「……ホント。カレンは、友達思いだな」
「そ、そうよ。友達思いよ」
カレンの脇では、コクコクと、頷いているカーチスの姿がある。
ニタッと、笑っているトリスだった。
アニスは、小さく笑っていたのだ。
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