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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
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第149話

 放課後、リュートたちは、寮へ戻らず、保健室に訪れていた。

 保健室で、寛いでいるリュートたち。

 リュートとミントは、いつものように、グリンシュの手作りお菓子に、夢中だ。


 見事な食べっぷりに、ただ、ただ、圧倒されているソルジュ。

 ユルガとカテリーナは、楽しく談笑し、グリンシュは、リュートたちの皿が、なくなれば、手際よく、サーブしてあげていた。

 セナとアニスは、それぞれの科のことを、喋っている。


 こうした光景は、見慣れている一部になっていた。

 少々の傷では、保健室に、近づく生徒がいない。

 それは、教師にも言える話だった。

 手の焼ける生徒が、出入りしている保健室に、のこのこ顔を出す教師など、いなかったのだ。


 そこへ、朗らかな表情で、トリスが姿を現す。

 徐に、ソルジュの眉間に、しわが寄っていた。


「どこかへ、行っていたの?」

 セナが、尋ねてきた。

 大抵、顔を出すトリスがいないので、変に感じていたのである。

 今日一日、剣術科の顔を出していない。

 そのため、セナは、どこかへ行っていたと、容易に推測していたのだった。


「実家」

 端的に、トリスが答えていた。

 それと同時に、ソルジュの顔が、見る見る顔が曇っていく。

 気に掛けている者もいたが、あえて、声をかけない。

 苦笑しているだけだ。


「みんな、元気だった?」

 食べることをやめたミントが、トリスに、顔を巡らせていた。

 学院に入学し、生まれ育ったアミュンテ村へ、数度、帰っていた。

 トリスの実家にも、遊びにいっていたのである。

 けれど、母が住む実家に、帰ることがない。

「元気だったよ」


 ミントから遅れること、数十秒、リュートの顔も、ニコニコ顔のトリスに、注いでいたのである。

 早朝に、トリスが帰ってしまっていたので、自分たちが、生まれ育ったアミュンテ村に帰っていたことを、知らなかったのだ。

「薬草でも、なくなっていたのか?」

「いや。ソルジュが、学院に来ていることを、教えてきた」


 トリスの言葉に、顰めっ面のソルジュだ。

 数人の双眸が、傾けられている。

 だが、口は閉じられていた。


 リュートとミントは、全然、気にする素振りもない。

「そうか」

「でも、薬草も貰ってきたから、後で、配るよ」

「わかった」


 沈黙を通している、ソルジュの態度。

 ユルガを初めとする面々が、微笑ましく、眺めている。

 そうした行為も、不貞腐れてしまう要因でもあったのだ。


「トリス。私にも、ちょうだい」

「いいよ。ミントちゃん」

 容易く、返事したトリスの足取りは、固まっているソルジュに、一直線だった。

 そして、ソルジュの前で、立ち止まる。

「母さんからと、カメリアから」


 二人の手作りの料理が、詰められたものを渡された。

 黙ったまま、受け取ったソルジュ。

「師匠も、一緒に食べてください」

「ありがたく、いただこう」


 アミュンテ村に帰省し、二人の料理が、でき上がるのを待って、学院に戻ってきていたのだった。

 久しぶりに、ソルジュに会えて、トリスは、両親たちに、あまり帰省しないソルジュが、近くにいることを知らせるのを、すっかり忘れていた。

 それを伝えるために、帰省していたのである。


 学院にいることを知った両親や、兄弟たちは、よく帰ってくるトリスに、ソルジュのことを根掘り葉掘り聞き出し、帰ってこないソルジュのために、母マリーヌと姉カメリアが、家の味を食べて貰おうと、腕によりを掛けて、料理を作っていた。

 トリスが戻ってくるのに、時間が掛かってしまったのだった。


「後、みんなからの手紙」

 大量の手紙を、ソルジュに手渡した。

 両親や兄弟が、ソルジュ宛てに書いたものだ。

 字を書けない小さい子は、絵を描いていた。

「……」


 手料理や、どれだけ書いたんだと言うくらいある、膨大な量の手紙の多さに、何とも言えない顔を滲ませている。

 手料理や、手紙を凝視していたのだ。

 誰が見ても、家族が、ソルジュを案じているのが、ひと目で理解できていた。


「手紙にも、書いてあると思うけど、たまには、顔を見せに来なさいって、父さんと母さん、それに、カメリアからの伝言」

「……」

 さらに、ソルジュが、渋面になっていく。


「ほら、みなさい。みんな、心配しているだろう。何回か、いけたのに」

 どこか、勝ち誇った顔をみせるユルガ。

 何度か、アミュンテ村に、寄れる機会があったのだ。

 それにもかかわらず、ソルジュは、大丈夫だと言い、寄ることがなかった。


 今回も、寄ろうかと言うユルガの申し出を、断っていたのだった。

 学院の調査を終えれば、アミュンテ村に寄らず、帰ろうとしていたのである。


「今回は、お礼も兼ねて、絶対に、寄るからね」

 有無を言わせない顔だ。

「……わかりました」

 同意したソルジュに、ニッコリと、ユルガが微笑む。

 帰ると聞き、トリスも、顔が緩んでいたのだ。


(後で、知らせに行こうかな)


 口角を上げているトリス。

 ジト目を注いでいるソルジュだ。

 二人の脳裏には、家族総出で、出迎えている光景が、浮かんでいたのだった。


「……言っておくけど、知らせるなよ」

「何で?」

「いいから。黙っていろ」

「しょうがないな。ソルジュは」

 首を竦めている、トリスだった。


 ばつが悪そうな表情を、ソルジュが、滲ませている。

 これ以上、突っ込んでも、意地になるだけだろうと、矛先を別なところへ持っていく。

「そういえば、カブリート村って、どういう村なんですか?」

 弟子のソルジュが、可哀想になり、話題を変えようと、疑問に思っていたことを、ユルガが口に出していた。


「カブリート村ですか……」

 少々、困った顔を、グリンシュが窺わせていた。

「このところ、カブリート村のことを、耳にする機会がありまして」


 頻繁に、カブリート村に関する不平不満を、村などを歩き回っているユルガは、耳にしていたのである。

 ソルジュも、カブリート村のことは、気に掛かっていたのだ。

 宿屋や、至るところで、このところ、カブリート村のことを、耳にしていたからだった。

 知識としては、持っていた。

 だが、まだ、訪れていないので、どういった村なのかと、僅かに、興味を持ち始めていたのである。


「一言で言えば、陰湿な村でしょうか」

 容赦ない、グリンシュだ。

 セナが、顔を強張らせ、アニスやカテリーナは、苦笑している。

 首を傾げているソルジュの眉間のしわが、濃くなっていた。


(……一体、どんな村だよ)


「村の住人、すべてって、訳では、ないんですが、昔ながらの住人は、決して、他の人と、交わろうと、しないですね。それが、このところ、如実に、現れていますね。学院の方にも、いろいろと、苦情が入っているみたいですよ」

「改善して、いないがな」

 小さく笑いながら、トリスが、口に出した。


 トリスの耳にも、学院側の嘆きが、入っていたのだ。

 頑なに、拒むカブリート村。

 やや興味を持ち始め、あらゆる情報を、集めている段階だった。


「面白そうな村ですね」

 話を聞き、ユルガが、更なる興味を示す。

 チラリと、ソルジュが、ユルガの様子を窺っていた。


(きっと、そのうち、行くことに、なるだろうな……)


 心の中で、嘆息を吐きながらも、ソルジュ自身も、カブリート村に、興味をそそられていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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