第148話
空き時間を利用し、セナとローゼルが、グランドに来ていた。
このところ二人で、稽古をし、互いに、切磋琢磨して、腕を磨いていたのだった。
勿論、リュートやトリスとも、セナは、訓練をしていたのだ。
けれど、それだけでは足りないと、ローゼルとも、手合わせしていた。
さらに、貪欲になり、あまり交流していなかった、クラスメートとも、手合わせする機会を増やしていたのだった。
だが、稽古をしないで、剣術科のクラスメートと、お喋りをしている。
他の生徒たちも、同じように、お喋りしていたり、各々で、稽古に励んでいたのだった。
話し込んでいるセナたち。
視線を巡らせてくる者なんて、一人もいない。
だからと言って、セナたちは、気を緩めていなかった。
ある程度、神経を尖らせ、周囲に、気を配っていたのだ。
セナとローゼルの元には、ビンセントたちと、同じ班のガルサとニエルがいる。
近頃、やる気のないビンセントたちが、見るに耐えないこともあり、早々に、彼らと離れていた。
「もう、いい加減にしてほしいわよ」
憤慨しているガルサだ。
班のリーダーとして、何度も、注意を行っていた。
けれど、改善される傾向がない。
むしろ、段々と、下降していったのだった。
怒りに合わせるかのように、ガルサの長めで、一つにまとめられている髪が、激しく揺れている。
彼女の性格を、現したかのように、髪はストレートで、艶やかだ。
「大変そうね」
気遣うセナだった。
リュートが加わったことで、班に乱れが生じ、悩んでいたのだ。
「やる気がないなら、ほっとけばいいのよ」
冷めているローゼルである。
「でも、班行動も多いし、もう少し、何とかしてほしいんだけど」
ニエルも、どちらかと言えば、ローゼル寄りなのだが、班行動が多く、何かと、連帯責任がある剣術科では、安易に、放置することも、できなかったのだった。
ガルサとは、対照的に、長めのくせっ毛を、みつあみで一つにまとめてある。
「追い討ちを掛けたのが、きっと、魔法科のバドってやつね」
ガルサは、リーダーを務めていることもあり、ビンセントたちの様子を、日頃から窺っていたのである。
「「確かに……」」
苦々しい表情を、浮かべている、ローゼルとニエル。
「ねぇ。セナは、バドってやつを、知っているんでしょう? どうなの?」
「みんなよりも、少しだけ、聞いているだけで……。深く知っている訳じゃないわよ」
「でも、セナの目からしても、ヤバい感じなの?」
追究の眼差しを、ガゼルが注いでいる。
今は、叶わなくっても、いずれは、強くなり、上を目指したいと言う気持ちが、心の奥底にあったのだ。
勿論、目の前にいるセナも、越えてだった。
そのため、日々の稽古を欠かさない。
「魔法科で、リュートに次いで、二番目みたい」
「リュートは、規格外でしょ」
ローゼルが、突っ込んでいた。
同じ班と言うこともあり、常日頃から、バカモノ染みた姿を、垣間見ていることもあり、リュートの強さは、別物だと、ローゼルの意識の中で、除外している。
「バドも、その類に入るみたい」
セナの言葉に、三人とも、軽く絶句していたのだ。
「リュートほどでは、ないけど、バドは、底知れないって、トリスが、言っていたわよ。それに、クラインやカーチスたちも、絶対に、バドとやり合うことは、しないって、とにかく、回避することを、常に、考えているって」
「「「何、それ」」」
渋面になっている、ローゼルたち。
(A組は、バケモノの巣窟じゃない)
「とにかく、かかわらない方が、賢明かも。だって、テロスたち、未だに、何があったのか、言わないんでしょ?」
窺うような双眸を、セナが、ガルサに巡らせている。
何度か、ガルサは、威圧だけで、クラスメートを押さえ込んだ、バドの能力を把握しようとし、バドとかかわりを持ったテロスたちに、話を聞こうとしていたのだ。
けれど、誰一人として、口を割る者がいなかった。
ただ、気をつけろ、かかわり合うなって、言うだけで。
「魔法科の連中って、どんな変わり者が、多い訳?」
呆れた顔を、ニエルが、滲ませていた。
「まだ、いるかもしれないわね」
逡巡しながら、ローゼルが、呟いていたのだ。
「確かに。その可能性も含めて、見ておいた方が、いいわね」
僅かに、顔を顰めつつ、ガルサも、思案中だ。
「魔法科の中でも、A組は、特に、気にしていた方が、いいかもよ。油断していなくっても、あっさりと、やられるから」
「セナ。私たちのこと、見くびっていない?」
ニエルが、僅かに、目を細めている。
(剣術科の女子って、どれだけ、血の気が多いのよ)
傾けられた双眸を、セナは、そらすことをしない。
平然とした顔で、受け取っていたのだ。
「……見くびっているかも。だって、一年生の時から、とんでもなく強いリュートと、一緒にいたのよ。それに、あのバドもね。それに、いろいろと、仕出かしているわよ、彼らは。噂以上にね」
「何か、聞いているの?」
窺うような眼光で、ガルサが尋ねた。
魔法科の出来事は、剣術科の方でも、流れていたのだ。
「たぶん、ほんの一部だけどね」
「「「……」」」
「聞きたいって、顔しているけど。カイルに、止められているから、話せないから」
不満げに、口を尖らせている面々。
リュートたちと、かかわりと持つようになって、セナは、カイルからリュートたちから聞いている話を、すべて剣術科に、話すなと、強く口止めされていたのである。
学院に、入り込んでいる諜報員たちと、戦闘をしていると知られると、自分たちもと言って、真似され、無茶する可能性があると、踏んでいたからだった。
「そんな顔しても、無駄よ」
「「「……」」」
「言えるとしたら、A組は、すべてにおいて、経験値が、高いってことよ」
「経験値?」
訝しげな表情を、ニエルが、注いでいた。
「そう。経験値が」
「私たちだって」
「想像しているよりも、上よ。リュートたちと、一緒に行動して、特に、思うから」
リュートたちと、行動することが、多くなったセナ。
一番、痛感させられたことだった。
そして、ローゼルも、同じ班と言うこともあり、同じことを、薄々と、感じ取っていたのである。
「「「……」」」
自分たちよりも、優秀なセナの言葉に、ギリッと、歯を噛み締めていた。
伏せていた顔を、ローゼルが上げ、セナを捉えている。
「……もしかして、このところ、顔色が優れなかったのは、そうしたことを、気にしていたの?」
ローゼルから、注がれる視線に、セナが驚かされていた。
まさか、気づかれているとは、思ってもみなかったのだ。
ガルサとニエルが、瞠目している。
二人は、セナの様子に、全然、気づいていない。
ローゼルやダン、パウロだけが、気づいていたのである。
「……気づいていたの?」
「当たり前でしょ。一緒の班なのよ。気づかない訳がないでしょう。言っておくけど、ダンやパウロだって、気づいているわよ」
甘くみないでよって顔を、ローゼルが、覗かせていた。
「……」
「リュートだけね。気づいていないのは」
「リュートは、興味がないことは、気づかないからね」
「リュートを見ていると、天才なのか、バカなのか、わからない時が、あるわね」
ローゼルの言葉。
ガルサも、ニエルも、苦笑いだ。
「そうね。つくづく、自分の経験値のなさに、呆れていたわ。だから、もっと、稽古して、経験値も増やして、強くなるつもりよ」
「そう」
闘志を燃やしている、ローゼル。
そして、ガルサも、ニエルも、負けていられないと、気持ちを改めたのだった。
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