表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第6章 邪魔するものは、吹っ飛ばせ
155/390

第147話

 生徒たちがいないグランド。

 そこで、カイルが、入念に、身体をほぐしている。

 授業を終え、片付けを終え、一人で稽古しようと、準備運動をしていたのだ。

 生徒たちの前でいた際の、明るい表情がない。

 どこか、思いつめたような顔を、覗かせている。


「まだ、うだうだと、しているのか」

 呆れた声音で、ラジュールが現れた。

 唐突な出現でも、動じることもなかった。

 こうしたラジュールの行動に、慣れていたのである。

「……別に」


 視線を彷徨わせ、決して、合わせようとはしない。

 昔と変わらない仕草に、呆れていた。

「嘘つけ」

「……」

「カテリーナが、騒ぐから、早く回復させろ」


「……」

 ありありと、心配するカテリーナの姿が、カイルの脳裏に、掠めていたのだ。

 微かに、眉間にしわが寄っている。


 心配するカテリーナを無理し、カラ元気な姿で、どうにか、納得させたものの、これ以上、よくならないと、また、心配させることになると、巡らせていた。

 そして、心配し、様子を見に来てくれた、目の前にいるラジュールにも、申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちでいっぱいだった。


「……ごめん」

 しゅんと、肩を落としている。

 不機嫌そうなラジュール。

 じっと、見つめていたが、諦めの境地で、息を吐いていた。


 さらに、カイルに近づく。

 新種の魔獣の詳細が書かれた羊紙を、無造作に渡した。

 渡されたものを、素直に、読んでいくカイル。

 眉間のしわが、濃くなっていった。


「本当なのか?」

 顔を上げ、真剣な双眸で、ラジュールを捉えている。

「だろうな」

 淡白なラジュールの返答だ。


 危機意識に駆られているカイルとは違い、表情の色を、一つも変えない。

 羊紙には、複数の魔獣が、組み合わされ、できたキメラだと、書かれていたのである。

 とんでもない内容に、身が引き締まっていった。

 それと同時に、近くで、兄ルーカスの姿が、目撃されたことにより、かかわりあると思える状況に、胸が閉めつかられていく。


(兄ちゃん……)


「兄貴のことを、気にしているのか?」

 コクリと頷く、カイル。

「まだ、決まった訳じゃないだろう。見間違いだってあるし……」

「いや。兄ちゃんだ」


 深刻そうな双眸のカイルを、ラジュールが注いでいた。

「……確信しているのか?」

「……ああ。絶対に、兄ちゃんだ」


 ラジュールたちも、詳しいことは、聞いていない。

 だが、カイルの兄ルーカスが、半分魔人の血が流れていることは、学生時代に聞いて、知っていたのである。


「……きっと、魔族たちと、一緒にいるんだ」

「そうとも、限らないだろう。自ら、研究しているのかも、しれないし……」

「いや。うすうす、魔族たちと、行動を共にしていると、心のどっかでは、思っていたんだ。ただ、家族よりも、魔族を選んだことを、認めたくなくって、封印していたが……」


 どこか、伏せ目がちなカイルだ。

 どこを捜してもいないことで、魔族と、行動を共にしているのではないかと、抱いていたのだった。

 ただ、その事実を、目の当たりにしたくないと抱き、これまで、考えないようにしていたのである。


「そうなのか?」

「うん。これで、確実になった」

 無理に、カイルが、笑ってみせていた。

 見るに耐えない痛々しさだ。

 微かに、ラジュールが、顰めている。


「どうする?」

「わからない」

「そうか」

「でも、今でも、帰ってきてほしいと、願っているよ。大切な家族だからな」

 悲痛な思いを、口に出していた。


「俺には、家族なんてものが、理解できない。ウザいだけだ」

 深く、カイルの思いを、共感できないラジュールだった。

 ただ、大切な友人が、家族を大切にしているから、カイルの兄ルーカスのことは、気にかけている程度だ。

 それらしい情報を聞けば、カイルに、流していたのである。


「それは、ラジュールが、周りの人や家族に、囲まれているからだよ」

「無理やりに、結婚させる親にか」

 自分の親のことを持ち出され、半眼しているラジュール。


 ラジュールと、リュートたちの母親であるリーブは、親戚関係であり、親戚同士の画策で、二人を結婚させようとしていたのだった。

 だが、リーブは、別な人と結婚し、リュートやミントを、生んだのである。

 そして、ラジュールは、結婚していなかった。


 ラジュールは、未だに、親や親戚からは、法力の血が強い血統の娘と、結婚しろと言われ、ここ数年は、実家に戻ることをしていない。

 ラジュールたちの一族は、法力の力を高め、増量しようと、そうした血統の者と、一族の者を結婚させ、さらに、強力な力を持つ者を、輩出させようとしていたのだ。

 そうした中で、リーブの家族が異端であり、また、ラジュールも、そうした一族の願いを嫌っていたのである。


 実家の方も、諦めた訳ではない。

 定期的に、血統のいい娘たちのことが、書かれたものを送っていたのだった。


「それは……」

「とにかくだ。理解できない」

 強い声音だ。


 つい最近も、送られたばかりだったからだ。

 けれど、見ようとせず、すぐに、燃やしてしまったが。


「ラジュールが、自分に合う人を見つけて、さっさと、結婚すれば、諦めるんじゃないのか」

 何気ない、カイルの言葉だ。

 けれど、ラジュールの中で、何かが、動いていた。


(……確かに、さっさと結婚すれば、静かになるな……)


 突然、黙り込んだラジュール。

 カイルが、不可思議に、眺めていたのだ。

「……どうした?」

「何でもない」


「ありがとうな。わざわざ、報せてくれて」

 魔獣の件を教えるために、カイルの元へ、訪れていたのである。

 それも、大切な研究を、中断してもだ。

「別に、大したことはない。急に、暇になったからだ」


 表情に出ていないが、カイルには、照れているのがわかっていた。

 小さく、笑っている。


「……何で、笑っている」

 ばつが悪そうな、ラジュールの顔だ。

「嬉しくって」

「……」


「そういえば、バドは、どうしているんだ」

 コンロイ村に来ていた、バドの件を、カイルが、持ち出していた。

 これ以上、話しても、よくないと巡らせたからだった。

 突っつき過ぎると、ラジュールの機嫌が悪くなり、大変なことが起きるのは、実証済みだったからだ。


「課題を、出しておいた」

「それだけか?」

 納得いっていない顔を、カイルが、覗かせていた。

 課題も出すが、剣術科では、説教をし、罰掃除なども、させていたのである。

 そして、村に遊びに出かけることも、禁止していたのだった。


「ああ。課題も、罰には、なっていないだろうな。あれは、リュートと同じで、優秀だからな、あっと言う間に、やってのけるだろうな」

 ケロッとした顔で、ラジュールが述べていた。

「随分と、甘いな」

 渋面になっているカイルとは、対照的な表情だ。


「結局のところ、本人の自覚だからな。大体、俺たちに、課題が出されても、変わらなかっただろう?」

 昔のことを持ち出され、さらに、眉間のしわが、濃くなっていく。

「……それは、お前たちだけで、俺たちは、十分に、反省していたぞ?」


「そうか。何度も、問題を、起こしたじゃないか」

「それは、お前たちに、無理やり、つき合わされていたからだ」

 噛み付くカイル。

 けれど、ラジュールは、飄々としたままだ。


 リーブやデュランたちが、何かしようとするたび、カイルやグリフィン、スカーレットが、止めようとするが止められず、一緒にする羽目に陥っていたのである。

 そして、一緒に、罰を受けさせられていたのだった。


「同じだ」

 ラジュールが、有無を言わせない顔をしていた。

 それに対し、何も、言い返せない。


「バドは、バカじゃない。ちゃんと、理解している」

「理解していて、コンロイ村に、来ているのか?」

「あそこにいても、やすやすと、やられていなかっただろう? 逆に、連中を翻弄していただろうが?」

 信頼をしている姿に、カイルが、嘆息を漏らしていた。


 実際に、目にした訳ではない。

 だが、グリフィンからの話でも、敵側を押していたことは、聞いていたのだった。

 それに、リュートたちを、野放しにしているラジュールの姿勢からも、リュートたちは大丈夫だと言う確信が、得られていたのだ。


「ま、ある程度は、釘を刺しておいた。慢心は、するなって」

「それだけか」

「それだけだ」

「……お前らしいけど」

「何だ? 不満か?」

「いや」


「言っておくが、我がクラスは、強いぞ。リュートと、一緒にいた連中だ。それに、バドによっても、かなり強化されている。もう卒業しても、おかしくはないレベルに、達している。ただ、本人たちに、自覚がないだけでな」

 口角が緩んでいる、ラジュールだ。

「随分と、大きく出たな」

「当たり前だ。私の生徒だからな」


「……うちだって、負けていないぞ」

「そうか。随分と、バドに、やられたそうじゃないか?」

「……」

 この前のことを持ち出され、カイルが、渋面している。

「せいぜい、剣術科に、リュートも、加わったんだ。もう少し、時間を掛ければ、強くなっていくだろうな」


「……そうだな」

「だが、うちほどでは、ないがな」

 不敵な笑みを、ラジュールが、零していた。

 反論したいが、実際、自分がそう思っている以上、何も、言うことができないカイルだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ