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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第141話

 学院に、ソルジュとユルガの姿があった。

 リュートたちが、学院に戻ってきて、三日後に、学院に、二人が辿り着いていたのである。

 学院にある、ノックス村に宿を取って、フォーレスト学院の周囲を、自由に、見て回っていたのだった。

 二人の姿は、学院内で、見られることが多く、話題にもなっていたのだ。




 校舎に、近い場所を、歩いているソルジュ。

 師匠であるユルガと別れ、一人で、散策している。

 チラチラと、注がれる生徒たちの双眸。

 小さく、ソルジュが、息を吐いていた。


 そうした状況に陥っても、散策をやめない。

 広い学院の敷地には、未知数のものが、存在している可能性があるからだ。

 日夜、そうしたものを、二人で、探していたのだった。


「移動しよう……」

 到着して早々、トリスに付き纏われ、学院中に、ソルジュが、弟だと言うことが、バレてしまったのである。

 そのため、好奇な目に晒され、うんざりしていた。


 トリスが授業を出ず、ずっと、散策をしているソルジュを、追いかけられていたのだ。

 常に、ソルジュに張り付き、離れる様子がない。

 挙句、宿屋までついていき、朝早くに、宿に出向かいまで、来ているほどだ。

 最初は、無視していたが、無視できなくなっていた。


 付き纏われることに嫌気がさし、張り付こうとするトリスから逃れるため、このところは、逃げ惑っていたのだった。

 ここ数日のトリスとソルジュの鬼ごっこが、学院の話題で、持ちっきりで、さらに、ソルジュに対する興味が、持たれていたのである。


 トリスとしては、久しぶりの弟との交流に、ウキウキし、周りが、一切、見えていなかっただけだった。

 そうしたこともあり、周りの生徒たちは、面白がっていた。

 そうした経緯もあり、トリスや、好奇な生徒たちの目から逃れるため、学院内を探索しつつ、一人になれる場所を探していたのだ。


(ここは、どこだ?)


 また、来たことがない場所。

 頭の中で、学院のマップを広げていた。

 探索しつつ、広大な学院のマップを、作っていたのである。


 だが、三分の一も、でき上がっていない。

 トリスに付き纏われ、逃げていたせいで。

「……」


 旅に出てから、先ず師匠であるユルガから、一番先に、教えて貰ったことでもあった。

 独自に、マップを作ることで、常に、自分の居場所を、ある程度、把握できるようになるからだった。


(……剣術科の校舎の近くか……)


 徐々に、眉間に、しわができ上がっていく。

 脳裏に浮かぶのは、剣術科の所属している、リュートの姿だった。


(不味いな。ここも……)


 どちらに、行こうと思案していると、背後から、聞き慣れた声が飛び込んできた。

「ソルジュじゃないか」

「……」

 振り向かなくても、その主が、リュートだと理解していた。


(……何で)


 自分の運の無さに、嘆くしかない。

「こんなところで、何しているんだ?」

 ゆっくりと、振り向くソルジュだ。


 目の前には、リュート一人だけで、他には、誰もいない。

 リュートの手には、剣が携えられていた。

 少しだけ、ホッと胸を撫で下ろす。


 興味を持たないことは、一切、素通りしていくリュート。

 近頃の、トリスとソルジュの鬼ごっこを、全然、知らなかったのだった。

 すでに、保健室で、グリンシュ主催のお茶会を、一緒に過ごしていたこともあったが、一人でいたので、何気なく、声をかけたに、過ぎなかったのだ。


「別に……」

 どこか、いじけているソルジュ。

 だが、気づかないリュートである。

「ああ。探索か」

 したり顔を、リュートが、滲ませていた。


 間違ってはいなかったので、否定はしない。

 ただ、探索よりも、逃げている比重の方が、多かっただけで。


「リュートは、何していたの?」

 そっけない態度のソルジュだ。

「稽古だ」

 胸を張っているリュート。


(稽古ね……)


「凄いね」

 リュートの口が、むにゅむにゅと、動いている。

「だろう」


(まったく、褒めていないんだけど……。変わらないな、リュートは)


「何か、いいものでも、見つかったか」

「いや」

「フォーレストが広いから、きっと、気に入るものも、出てくるんじゃないのか」

「そうだと、いいんだけど」


(……兄さんさえ、いなければ……)


 不意に、ソルジュが、遠い目をしてしまう。

 特別に、ユルガたちは、学院内の敷地の散策を、認められていた。

 普通では、ありえない待遇でも、あったのである。


「……そう言えば、随分と、屈強な人たちが、入り込んでいるけど?」

 あちらこちらで、諜報員たちと、教師や警備している人たちの戦闘が、幾度となく、繰り広げられていたのである。

 こうした光景を、至るところで、ソルジュは、目にしてきたのだった。

 物騒だなと、抱いていたのだ。


「昔からだぞ」

「そうなの?」

「暇人なんだろう」


「暇なのかな」

 微かに、納得がいかない表情を覗かせ、首を傾げていた。

「殺伐としているね」


(都でも、こんな物騒じゃないけど)


「暇つぶしになるぞ」

 ニカッと、リュートが、笑顔を滲ませている。


(うっ。……村での光景が……)


 ありありと、諜報員たちを、捕まえるリュートの光景が浮かび、トリスや、コンロイ村で出会った友人たち、お茶会であった友人たちの顔を掠めていった。


(ホント。どこにいても、変わらない。いつになったら、落ち着くんだろう……。でも、無理だよな……)


「……兄さんも、よく暇つぶしを、やっているの?」

「勿論だ」


(何やっているんだ、兄さんは。リュートのお目付け役が、一緒になって遊んで……)


 騒動を起こす、リュートたちの姿から、学院の教師たちが、紛争している光景が、浮かび上がっていたのだった。

「……先生たち、苦労しているだろうね」

「そうか」

 わからないと言う顔つきをしているリュート。


(……つくづく、ここに、来なくて、よかった……)


「せっかくだ。グリンシュのところに、行こう」

「いいよ」


 断っているのもかかわらず、ソルジュの腕を掴み、保健室の方へ、軽快な足取りで歩き出す。

 観念したソルジュ。

 渋々と、促され、ついていくのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

第5章は、これで、終わりになります。

閑話を経てから、新章に入ります。

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