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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第139話

 保健室で、治療を終えた、リュートたち。

 その後は、グリンシュ主催のお茶会が、始まっていたのである。


 テーブルに並べられる、数々のお菓子に、一目散に、目を奪われた、リュートとミントによる、お菓子の争奪戦が行われていたのだった。

 いつもの恒例に、リュートとミントを、注意する者などいない。

 それぞれに、お菓子を堪能したり、お喋りをしていたのだった。

 そして、その席に、カテリーナの姿がなかった。


「新種の魔獣とは、面白い出来事と、出逢いましたね」

「どこが、面白いんだ。俺たちは、どうなるのかと、冷や冷やだったぞ」

 楽しんでいるグリンシュに、トリスが、目を細めている。


 お茶を飲みながら、トリスが、ことの仔細を、話していたのだった。

 内心では、久しぶりに味わった緊張感に、ヘトヘトに、疲れていたのだ。

 その脇では、カーチスの食べ方に、カレンが小言を言い、それを温かい目で、クラインたちが眺めていたのである。


 コンロイ村にいた、殺伐とした空気が、ここにはない。

 いつもの日常の空気に、戻っていたのだ。


「それは、大変でしたね」

「本当だ」

「でも、コンロイ村の近くで、新種の魔獣とは、珍しいですね」

 逡巡してみせる、グリンシュ。


 コンロイ村の近くの森に、多くの魔獣が、いることはおかしくない。

 その素材により、コンロイ村では、様々な武器や防具が、作られていたのだった。

 初級者の冒険者や、中級者の冒険者の狩場でもあったのである。

 比較的安全に、経験などを、積むこともできたのだ。


(興味が、注がれることですね。私も、薬草採取の傍らで、いってみましょうか)


「そうだな。あの辺一体で、新種の魔獣が、出るなんて話、これまで、聞いたことがない」

「私もです」

「……グリンシュも、知らないとなると、ますます、おかしな話になっていくな」

「ですね」


(じいちゃんに頼んで、少し、調べて貰うか)


「もし、何かわかったら、私にも、教えてくださいね」

「わかった。ところで、血相変えて、カイルが、出ていったのは、何でだ?」

 気になっていることを、トリスが、口に出していた。


 最優先は、リュートやミントの治療、それと同時に、自分たちの治療でもあったので、これまで話に出さなかったのである。

 最優先事項が終われば、次に、興味があることに、意識が注がれていくのだ。


「ああ。それですか、たぶん、お兄さんを、探しにいったんでしょうね」

 二人の話に、クラインたちも、興味を持ち出し、いつの間にか、お喋りや食べることが止まっていたのである。

 リュートやミントは、そのまま、競うように食べていたが、興味のある話に、耳だけは傾けていたのだった。


「お兄さん?」

 首を傾げるトリスだ。

 カイルに、兄がいることを、知らなかったのである。


(カイルに、お兄さんがいたのか……)


 トリス以外にも、目を丸くしている者が多い。

 リュートとミントだけが、そうなんだと、あっさりとしていた。


「えぇ。だいぶ前に、家を出て、心配するカイルが、ずっと、その行方を、捜していたんですよ。ここを卒業後に、いくつか、いい話もあったのですが、学院に在学中に、お兄さんが家を出て行ったものですから、卒業後は、冒険者として登録して、各地を、いろいろと巡って、探していたんです」

 カイルのことを、意図も簡単に、話してしまうグリンシュ。

 その表情は、悪びれる様子もない。

 ただ、ニコッと、笑顔を、覗かせていたのだった。


「へぇー」

 意外過ぎる話に、トリスは、さらに、興味が広がっていく。

 学院の教師になる前は、冒険者として、いろいろなところを、旅していたと、情報を得ていたのである。

 ただ、それが、兄を捜すためだったとは、知らなかったのだった。

 一部の教師たちの間では、知られた話で、触れてはいけないのではないかと、興味本位に、口にする教師たちがいなかったのだ。


「随分と、兄思いなんだな」

 ふと、トリスの脳裏に、妹や弟たちの顔が、浮かんでくる。

 その存在は、かけがえのない、大切なものだった。


(……確かに、行方がわからなければ、俺も、捜し出すな)


「そうですね。学生の頃から、お兄さんのことが心配で、よく、手紙を出したり、リーブたちの目を盗んで、帰っていましたから」

「「「「「……」」」」」


 突如、リーブの話題に、リュートやミントの身体が、強張っていた。

 カイルの話題で、グリンシュ以外は、気づかない。

 僅かに、トリスの表情が、訝しげている。


(おばさんたちは、何をやっていたんだ)


「ま、それも、楽しい思い出の一つでしょう」

「……そうなのか?」

「そうですよ」

「そういえば、カテリーナ先生が、グリフィン先生に、カイルのこと、頼んでみたいだけど」


「カイルたちと、ラジュールが、同期だってことは、知っていますよね」

「勿論」

「デュランや、グリフィン、スカーレットも同期で、いつも一緒に、つるんで遊んでいたんですよ。ちょうど、君たちのように」


 教師たちの顔触れを、それなりに、把握していたトリス。

 そのため、名前を聞いただけで、顔と所属を、認知していたのだ。

 徐々に、哀れみの形相を、トリスが、滲ませている。

 クラインたちも、同じような表情を、見せていたのだった。


(科が違うから、今まで、接点がなかったけど、グリフィン先生、随分と、大変だったんだろうな)


「そうなんだ……」

「きっと、今頃は、カイルを、捜しているでしょうね」

 ふふふと、グリンシュが、微笑んでいたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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