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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第138話

 リュートたちは、職員室に行くことなく、バドが消えてから、程なくして、カイルたち教師陣が、リュートたちのことを聞きつけ、鬼気迫る形相で、駆けつけてきたのだった。

 カイルやカテリーナ、後、複数の教師たちの顔触れもあった。


 魔法科の担任をしている、ラジュールの顔がない。

 彼の元にも、リュートたちの件は、持ち込まれていた。

 いつものように、研究に、明け暮れていたのだ。

 戻ってきたのであれば、大したことはないだろうと、大切な研究を続けていたのである。

 教師たちの大群の多さに、圧倒されているセナ。


(な、何!)


 あっという間に、教師陣により、囲まれていたのだ。

 見知らぬ教師たちもいて、セナ自身、緊張で、身体を強張らせていた。

 そして、次第に、自分たちが、思っている以上に、大事になっていることに、頭を悩ませ、不安を募らせていたのである。


(どうしよう……)


 リュートたちを、取り囲む教師陣たち。

 まず、リュートたちの姿を、自分たちの目で、確かめていたのだ。

 本当に、傷だらけなのかと。


 実際に見て、相当な痛手を、覆っていただろうと思えるいでたちに、本当だと、驚嘆の声が上がっていたのである。

 教師陣の誰もが、リュートたちの実力を、把握していたからでもあった。

 その中で、異色だったのが、カテリーナだ。

 いつもと、表情が変わらない。

 だが、カイルたちの顔色が、強張っていたのが、見て取れたのだった。


 激しく、負傷していると耳にし、カイルたちは、大急ぎで現れたのだ。

 実際に、目の前にし、衝撃で、なかなか、声を掛けることも、できなかったのだった。

「……大丈夫か? 一体、何があった?」

 ようやく、驚きから、意識を回復したカイルが、声をかけていた。

 まだ、多くの教師陣は、回復していない。

 微かな、どよめきが、残っていたのである。


「ま……」

「新種の魔獣と、遭遇した」

 楽しげに、言おうとするリュートを遮り、突如、トリスが割り込んできた。

 バドの時も先に越され、仏頂面のリュートだ。


 カイルたち教師陣の多くが、新種と言う響きに、フリーズしている。

 とても、危険なことだからだ。

 どういった能力が、備わっているのか、わからない魔獣相手に、まだ、見習いが相手をするには、とても、危険な行為だったのである。

 どんなベテランでも、新種の魔獣を、相手をする際は、かなりの慎重さを、求められていたのだった。


 驚愕しつつも、カイルは、リュートたちの様子を窺っていた。

 見た限りでは、大きな損傷は、ないようだった。

 ホッと、胸を撫で下ろすカイルだ。

 だが、緊張の糸が、緩むことがない。


「倒したと、聞いたが?」

「リュートとミントちゃんが、最初相手をし、最後に、リュート一人が、魔獣と戦って、倒した。絶命したことは、俺も、確認済みです。間違いはない。後のことは、村の人たちに頼み、治療を施した後、戻ってきた次第です」


 冒険者たちが、襲ってきたことは、口にしない。

 それらの連中の処理したことも、言わないと、いけないからだ。

 クラインたちも、トリスに、一任していた。

 一番、面倒が起こらないだろうと、言うことでだった。


「数は?」

「一体だけです」

「他は、いなかったんだな?」

「たぶん。遭遇したのは、一体だけだったんで」

「わかった。協会には?」

「その連絡も、頼みました」

「そうか」


 リュートとミントが、魔獣と対峙し、傷だらけで、帰ってきたと、耳にした時は、教師陣の中で、大きな緊張が走っていたが、今は、落ち着きを取り戻していたのである。

 ベテランの冒険者並みの実力を、現在持っているリュートが、魔獣相手に、ケガしただけで、どれだけ、強い魔獣が、出てきたのかと慄いていたのだ。


 そして、近くに出没すれならば、大規模な討伐も、検討しなければ、いけないと巡らせていたのだった。

 リュートが、傷だらけと言うことは、それほどの衝撃だったのだ。


「治療は、終わらせたのか?」

「完全に、治すことができなったので、グリンシュの元で」

「わかった」


 ようやく、報告もしたと、緩んだトリスだった。

 大事なことなので、きちんと、報告した方がいいと抱き、内心では、かなり張りつめていたのである。

 クラインたちも、終わったと、肩の荷を、少しだけ降ろしていた。


「で、他に、何かあるか?」

「ある!」

 大きく声を、張り上げる者がいた。

 突然の出来事に、いっせいに、トリスたちの視線が、その主に集まっている。

「面白いやつに、会ったぞ」


 トリスたちは、何を言っているんだと言う顔付きだ。

 そして、そんなやついたかと、対峙した冒険者たちの顔を、思い返していたのである。

 だが、面白いと言うまで、いかない。

 どこにでも、いそうなメンツばかりだったのだ。

 怪訝そうな顔を、トリスたちが、覗かせている。


「魔獣と、出会う前に、出会ったやつで、もう一度、会って戦ってみたい。今度は、そいつと」

 ワクワクした、リュートの声音。

 その声音だけで、もう一度、早く会いたいことが、表れていたのである。

「あ……、あいつのこと。確かに、面白そうだったね」


 リュートの言葉で、誰のことか、すぐに察し、ミントも次第に、興味を注がれていった。

 トリスたちは、聞いていない話に困惑し、カイルたちは、魔獣と遭遇する前に、出逢った者がいたと言うことに、何かあるのではないかと、強い危機感を抱いていたのだ。

 カイルの眼光が、鋭くなっていく。


(新種の魔獣に、会う前に会うなんて、おかしい……)


「そんなやつ、いたのか?」

 何気ない、カーチスの呟きだ。

「いた。そいつも、魔獣を、探していた」

「最初、散歩って、嘘ついていたけどね」

「「「「「……」」」」」


 妖しくなっていく話。

 徐々に、トリスたちが、頭を抱え込んでいる。


(((((なぜ、そんな重要な話をしない))))))


 ついつい、ジト目で、のん気なリュートを、睨んでいるトリスだった。

「どんなやつだ」

 冷静に、魔獣と出逢う前に、遭遇した者の特徴を、カイルが尋ねていた。

 話によっては、協会に知らせ、自分たちも、状況を確認しておくべきだと、判断したからだった。


「肌の色が、やや褐色で、髪が長く……あっ、そうだ。フォーレストに弟が、学院に通っていたって、言っていたぞ。本人は、通っていなかったみたいだな。強そうだったのに……」

 残念そうな顔を、リュートが、滲ませていたのだ。

 金縛りにあったかのように、カイルが、硬直している。

 目は、大きく見開いていた。


(兄さん……)


 乏しい言葉でも、カイルの勘が、訴えていたのだった。

 兄のルーカスだと。


 唐突に、いなくなってしまったルーカスのことを、長年、カイルは、捜していたのである。

 その手がかりを得て、止まっていることができない。

 カイルの双眸に、リュートや教師陣たちが、映っていなかった。

 あるのは、兄ルーカスの姿だった。


「!」

 何も、告げることなく、カイルが飛び出していく。

 その背中を、唖然と、見送ることしか、できない面々。

「何だ?」

「何?」

 首を傾げている、リュートとミントだ。


 とても教師らしい行動では、なかったのだった。

 そのせいもあり、トリスたちも、何だと、きょとんとなっていた。

 教師陣の中でも、いつもの、カイルの行動からは、考えられない姿に、瞠目したり、眉を潜めている者もいたのだ。


「リュート君も、ミントちゃんも、楽しかったですか」

 突然、黙っていたカテリーナが、声をかけたことにより、カイルのことは、霧散されていく。

「楽しかったぞ」

「私も」

「それは、よかった」

 微笑むカテリーナである。


「そうだ、これ」

 コンロイ村の目的でもあった、カテリーナからの依頼された物を渡した。

 カテリーナの手の中にある、《セブンクォーツ》。

「ありがとう」

「完了だな」

 満足げなリュート。


(これで、作れますね)


 手の中で、《セブンクォーツ》が輝いていた。

 そして、カテリーナの双眸が、教師陣の中にいた、疲れを滲ませている、グリフィンに注がれている。

「グリフィン。申し訳ないのですが……」

「わかっているさ。カイルにも、困ったものだな」

 ポキポキと、首を鳴らしている、グリフィンだ。


「はい」

「これから、デュランや、ラジュールに、知らせてくる」

「ありがとうございます」

「一応、俺と、スカーレットもいってくる。あれらだけでは、心配だからな」

「えぇ。そう願います」


「悪いけど、後のことは、頼めるか」

「はい」

 ニッコリと、笑顔を覗かせている。

 カテリーナと、話し終えたグリフィンも、面倒臭そうに、その場を後にした。

 カイルの時とは違い、無造作に、頭を掻きながら、歩いている。


「何が、あったんだ?」

「何でも、ありませんよ。カイルが、飛び出していったんで、連れ戻しをお願いしたんです」

 なんでもないと言う顔を、カテリーナが、滲ませていた。

「そうか」

 あっさりと、納得したリュートだ。


(((((とんでも、ないことだろう!)))))


 瞠目している、トリスたちを放置し、カテリーナが、他の教師たちに、視線を巡らせている。

「後のこと、お願いできますか?」

「承知した」

 教師たちは、瞬く間に、各々の仕事に戻っていく。


「では、私も、出かけるとしますか。では、リュート君たち」

 ゆったりと仕草で、カテリーナも、どこかへ、出かけていくのだった。

 手を振っている、リュートやミント。

 眉を潜めているトリスたちだけが、残っていたのだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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