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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第137話

 傷だらけで、リュートたちが、学院に戻ってきたため、学院では、大きな騒動が巻き起こっていたのである。

 右往左往する、教師や生徒たち。

 それらを尻目に、リュートたちは、気にした素振りを見せない。

 悠然と、学院内を闊歩している。


 近しい者たちは、リュートたちに駆け寄り、何があったのかと、問い質しに来る者もいたが、そういった者たちを、軽々と、トリスたちが交わし、先を進んでいった。

 学院内を、奥に進んでいくと、いつしか、静かな廊下を通っていたのである。

 そうすると、壁に寄りかかり、待ち受けている者の姿を、捉える面々。

 意外過ぎる人物に、目を見開いていたのだ。


「「バド……」」

 トリスやクラインは、僅かに、顔を顰めている。

 どう見ても、事情を聞きに、待ち構えている様子だったからだ。


((早っ))


「バド。珍しいね」

 堂々と、構えているバドを、トリスが見据えていた。

「当たり前だ。リュートが、梃子摺った相手だからな」

 バドの顔は、にやけている。

 久しぶりに、手応えある実験が、できると、踏んでいたのだった。

「「「「「……」」」」」


 付き合いの長いバドの思考に、トリスたちが、頭を抱え込んでいた。

 もう、ひと騒動、置きそうな予感にだ。


「面白かったぞ」

 空気を読まず、顔を綻ばせているリュート。

 若干、一人だけ、違っていたのだ。

「そうか。一体、どんなやつだ」


 歓喜し、話し始めようとしている、リュートとバド。

 更なる頭痛が、呼び起こっていた。

 そうしたトリスたちに、気づく様子がない二人だ。


「見たことがない、魔獣だ」

「見たことがない?」

 瞬時に、バドの目の色が、喜々に変わっていく。


(これは、いいぞ)


「それは、面白そうだ」

「だろう」

 興味をますます示し、さらに、聞きたそうな顔を、バドが、覗かせていたのだった。

 リュートの方も、いろいろと話したそうに、うずうずしている。


「リュート、バド」

 危機感のない二人を、トリスが、窘めていたのである。

 夢中になり始める二人。

 止められるのは、トリス、クラインなど、数少ない。

 誰かが、止めなければ、二人は、豪胆に、突き進むだけだった。


 邪魔するトリスを、バドが、睨んでいた。

 そうした視線を注がれても、トリスの表情が崩れない。

 緊迫した要素を、二人の間で、漂わせていたのである。


 何度か、リュートを止めるため、バドとトリスは、対峙したことがあった。

 実力的に言えば、断然、バドの方が上だった。

 見つめ合う両者。


 何度か、二人の場面に、遭遇している面々は、あちゃーと言う顔で、眉を下げていた。

 困ったような顔を、アニスが、滲ませている。

 違うクラスのアニスだったが、カレンから、二人の話を、それなりに、聞き知っていたのだった。


 蚊帳の外だったのが、セナだ。

 何だと、訝しげな眼差しを送り、二人の様子を、静かに窺っていた。

 そして、きょとんとした顔で、二人を、リュートが眺めていたのである。


「倒したんだろう?」

 話を中断され、バドは、面白くない。

「当たり前だ」

「だったら、問題なかろう?」

「大ありだ」


 小さく、バドが、息を吐いていた。

 邪魔され、機嫌は、悪くなっていったのだ。

 そうした様子を、肌で感じ取っているカーチス。

 トリスとバドの顔を、何度も、行き来している。


 バドの機嫌が、悪くなると、自分たちが、実験対象にされることが、多かったからだ。

 だからと言って、仲裁に、入る勇気なんてない。

 逆に、両者から、言い返されるのは、経験済みだった。

 ただ、神妙な顔で、二人の動向を眺めていた。


「少しぐらい、バドと、話しても、いいじゃないか」

 友達に話したいリュートは、不貞腐れ気味だ。

 途中で、中断させられたからである。

 リュートの言葉で、あっと言う間に、自分たちの状況を、思い知る二人だった。


 軽く息を吐いていると、ムスッとしているバドから、口を尖らせているリュートに、視線を傾けていく。

「先生たちに、報告が先だ」

「……少しぐらい」

 小さな声で、リュートが反論していた。

「ダメだ」

「ケチ」

 完全に、剥れているリュートである。


「それに、報告が終わったら、グリンシュのところで、治療もしないとな」

「これぐらい」

「ダメだ」

 トリスの、有無を言わせない顔。

 静かに、怒っているトリスを、捉えている。


 コンロイ村に戻っても、ある程度、リュートやミントの治療を、行っていたのだ。

 それでも、完全に、回復した訳ではない。

 そして、念入りに、調べて貰う必要もあったのだった。


「帰って、おばさんに、見て貰うか?」

 決定的な一打を、トリスが、口に出した。

 突然、フリーズする二人だ。

 隙あらば、退散しようと、ミントが、画策していたのである。

「「……」」


 リュートとミントの顔が、段々と、渋面になっていく。

「それでも、いいぞ」

 余裕な笑みを、トリスが漏らしている。

 そうした姿に、慄いている二人だった。

 ただ、黙って、首を傾げているトリスを、捉えていた。

「どうする?」


「……保健室にいって、グリンシュに、ちゃんと見て貰う」

 観念した、リュートだった。

「私も」

 素直に、トリスに、応じる二人である。

「じゃ、バドとの話は、後だ」


「治療してても、話は、できるだろう」

 譲らないバドが、トリスたちに、割り込んできた。

 決着できたと思ったら、出てきたバドに、顔を曇らせている。


(せっかく、落ち着かせたのに……)


 トリスたちも、本職の冒険者たちを相手に、見た目は、そうでもなかったが、相当、疲弊していたのだった。

 村での治療は、酷いリュートたちが中心で、自分たちの治療は、簡単に済ませているだけ、完全回復していなかったのである。


 肝が据わっている、バドの眼光。

 落ち着き払っている仕草を、窺わせるトリスが、ずっと、見ていた。

「……わかった。手短に、頼むぞ」

 トリスの肩が、緩まった。


 リュート同様に、好奇心が、くすぐられたバドが、容易に引かないことは、把握していたからだった。

 さっさと、話を終わらせ、リュートとミントの本格的な治療に、専念させたかったのである。

 だから、バドに、少しの時間を、譲ったのだった。


「リュートが、知らない魔獣と言うのは、本当か?」

「本当だ」

 トリスが答えた。

 自分が、答えようとしていたのに、先を越され、口を尖らせている。

 リュートに話させると、不味い行方になると巡らせ、トリスが、自分と話した方が短く終わると抱き、詳細を語り出したのだった。


「お前も、知らない魔獣か?」

「ああ」

 リュートも、トリスも、知らない魔獣と聞き、バドは、大きな高鳴りを、胸に抱いていた。

 知識も、豊富な二人。

 その二人が、知らないことで、口元のニンマリが、止まらない。


 好奇心に溢れる、バドの双眸。

 カーチスたちは、やったなと言う顔を、覗かせている。

 この後のバドの行動が、手に取るように、理解できていた。


「力は?」

「今回、リュートは、ほぼ、本気の力を、出していたはずだ」

「マジか」

 バドの眼光が、傷だらけのリュートに、注がれていたのだ。

「本当だ。もう少しで、力に、飲み込まれるほどだ」

 当時を思い出し、リュートが、口にしていた。


「そこまで、追い込まれていたのか?」

 まだ、信じられないと言う顔を、バドが、滲ませている。

 それと同時に、大きな興味が、膨らんでいったのだった。

「悔しいが、そうだ」

「……それは、凄い」


「倒したから、たぶん、調査は、協会がするんじゃないのか」

 あの後のことを、トリスが話した。

「知らせたのか?」

 不満げなバド。


「村の人に、頼んだ。だから、そのうち、協会が、出向いてくるだろう」

「……じゃ、今から行けば、調べられるか」

 ギラギラと、輝いているバドの瞳。

「村の人たちが、警備しているから、難しいんじゃないのか」

 呆れた顔を、トリスが、覗かせている。


「大丈夫だ。手は、いろいろとある」

 不敵な笑みを零しているバドの姿。

 カーチスたちが、顔を、引きつらせていた。

 バドも、やるとなったら、徹底的にやる人間側だったのだ。


「無理は、するなよ」

 止めても、無駄だと、知っているトリスだった。

「できるだけな」

「な、バド。他にも、知らない魔獣が、いるかもしれないから、それも、調べておいてくれ。後で、一緒に倒して行こう」

 楽しげなリュートの口調だ。

 懲りていないのかと、カーチスたちが、脱力している。


「承知した」

 聞きたい話を、聞いたバド。

 もう、用はないとばかりに、さっさと、リュートたちに、背中を向け、調査する準備を急ぐため、自分の研究室に、鷹揚な立ち振舞いで、戻っていったのである。


 その背中を見送って、トリスが、息を吐いていた。

「報告に、行くぞ」

「わかった」

 皆を促し、職員室へ、向かっていく。


読んでいただき、ありがとうございます。

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