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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第136話

「いいものを、見させて貰った」

 微かに、ルーカスの口角が上がっていたのだ。

 ルーカスは、リュートと魔獣の戦いを見終わり、きびす返していたのである。


 その動きに、一切の躊躇がなかった。

 足取りに、速さはない。

 いつも通りに、ゆったりとした歩調で、歩いていたのだった。


「帰るとするか」

 倒れている魔獣を、回収するつもりがなかった。

 回収するとなると、彼らの前に出て、彼らを、殺すしかなかったからだ。

 今の段階で、殺すことは、押しい気がし、したくなかったのである。


「シャナリアたちには、悪いことをするな」

 申し訳なさそうな顔を、覗かせているルーカス。

 ルーカス自身、他人から、誹謗を受けることは、慣れているので、気にしてはいなかった。けれど、部下のシャナリアたちは、そうではなかった。

 だから、シャナリアたちに、悪いなと、巡らせていたのである。


「でも、しょうがないか」

 頭の中は、もう、シャナリアたちを回収し、帰ることしかなかった。

 そして、いつになく、軽やかに、歩いていった。




 トリスたちは、襲ってきた者たちを、安全な場所まで、下がらせてから、リュートたちの気配を辿って、ようやく、二人の元へ、駆けつけていったのである。

 阻害呪文が掛けられていると巡らせていたが、徐々に、二人の元に、近づいていったのだった。


 駆けつけた瞬間、トリス、クライン、セナ、アニスは、意識を失っているリュートに、瞠目していた。

 異常事態に、言葉なんて必要ない。

 瞬時に、トリスとクラインが、回復魔法を掛けているミントから交代し、リュートの回復を図っていたのだった。

 遅れること、僅かで、セナとアニスが、傷だらけのミントに、薬草やポーションを渡し、少しでも、回復するようにしていた。


 治療していた時間は、僅かだった。

 だが、五人の時間の感覚は、とても、長く感じていたのである。


 リュートの目蓋が、微かに動き、トリスとクラインが、声を掛けていた。

「「リュート!」」

「……う……」

「「リュート!」」


 さらに、目蓋が動き、緩慢とした動作で、目蓋が開いていく。

 声に反応したことで、強張っていた顔が、緩んでいった。

 反応するまで、気が気じゃなかったのである。


「……んっ」

「「……リュート……」」

 力が抜け、二人が、地面に座り込んでいた。

 ようやく、目覚めたリュート。

 胸を撫で下ろす二人。


 後方でも、安堵の息を、三人が、漏らしていたのだった。

 起き上がろうとするリュートを、トリスとクラインが手伝い、身体を、起き上がらせていた。

 キョロキョロと、リュートが、双眸を巡らせる。


「どうした?」

 トリスが、声を掛けても、反応しない。

 だが、魔獣が、倒れているのを、視界に捉え、ニンマリとしているリュートである。

「やったぞ。倒したぞ。トリス、クライン、凄いだろう」

 爛々と、目を輝かせている姿に、二人が、首を竦めていた。


 すっかり、自分が、大ケガしているのを、忘れていたのだった。

 ジト目で、セナが、睨んでいたのだ。

 アニスが、苦笑いしていたのである。

 どこか、ミントが、不貞腐れていたのだった。

 そうした双眸も気にせず、倒したことを、一人で歓喜していた。


「お兄ちゃん。半分ぐらい、暴走しかかっていたくせに」

 喜んでいた気持ちが、一気に、霧散していくリュート。

 半眼し、ミントを睨んでいる。

「……完全に、暴走はしていないから、いいんだ」

「私が、援護射撃して、あげたでしょ」

「……」


 何度も、ミントから、援護をして貰っていたのである。

 そして、窮地を脱していたのだ。

 ミントと、同じような顔を、滲ませている。

 一触即発な、二人の双眸。


「リュート。暴走するのは、よくないぞ。いくら、半分ぐらいでもだ」

 真剣な眼差しで、トリスが、リュートを窘めていた。

「……いいだろう。半分に、抑えたんだから」

 小声で、ぼやきを、漏らしていたのだ。

 剥れ、口を尖らせていた。


 クスクスと、クラインが、小さく笑っている。

 その眼差しのまま、トリスが、未だに、機嫌が直らないミントを、捉えていた。

「ミントちゃんもだ。どうして、俺たちに、知らせなかった」

「……それは……」


 明後日の方向へ、ミントが、視線をずらしていたのだった。

 有無を言わせないトリス。

 居た堪れないミントは、あたふたとするしかない。


 いつでも、トリスたちに、知らせることができたのだった。

 けれど、知らせなかった。

 ミント自身も、邪魔されたくないと、若干、思っていたからだ。


「ミントちゃん、過信は、よくない。状況を、冷静に判断し、俺たちに、知らせることもできたはずだ。ちゃんと、今度は、知らせるように」

「……ごめんなさい。今度は、ちゃんと、知らせるようにします。……たぶん」

 最後の方は、ごくごく、小さく、口にしていた。


 その言葉を聞き取っていたが、トリスは、追及することはない。

 ある程度、ミントの性格を、把握しているからだ。


「随分と、手ごわい魔獣だったようだけど?」

 トリスの眼光が、倒れている魔獣に、注がれている。

 魔獣は動かない。

 見た目は、リュートたちの方が、酷かった。

 倒れている魔獣の周りには、異臭を放つ、大量の血が、流れ出ていたのだった。


「ああ。見たことがない魔獣だ」

 リュートの言葉に、トリスとクラインが、フリーズしている。

 膨大な知識を誇る、リュートでも知らない魔獣。

 二人の視線が、倒れている魔獣に、釘付けだった。

 見たことがないと言う言葉に、セナも、アニスも、純粋に、興味を示していたのだ。


「……完全に、仕留めたのか?」

 僅かに、トリスの声音に、緊張が走っていた。

 返事次第では、今後のことを、急ピッチで、思考しなければ、ならない状況だった。

「そのはずだ」

 胸を張っているリュート。


 どこまでも、能天気な姿に、トリスの緊張も、少しだけ緩む。

 事の重大さに、リュートは、気づいていない。


「できるだけ、最大限に、動かないように、捕獲しておくべきだね」

「だな」

 トリスとクラインだけの会話だ。

 まだ、生きていれば、魔獣との戦闘が、再開しなければならない。

 ただ、リュートやミントが負傷しているので、自分たちでも果たして、止められるのかと分析していたのだった。


「俺が行く」

「じゃ、ここで、警戒している」


 クラインに、後のことは頼み、この後に、動かないように、そして、誰かが、勝手に連れ出さないようにするため、トリスが、魔法を掛けに、倒れている魔獣に、向かっていったのである。

 まだ、本調子ではないリュートやミントたちを守るため、いつでも対応できるように、クラインが、待機していたのだった。


 念入りに、トリスが、魔法を掛けていく。

 その様子を、クラインたちが、窺っていた。

「とりあえず、後は、ここにいる者たちに、任せようか」

 穏やかな、クラインの口調だ。


 少しずつ、セナとアニスも、事の重大さに、気づき始めていたのである。

 リュートやミントの傷に、衝撃を受け、そのことまで、推測できなかった。


「大丈夫なの?」

「協会にも、知らせた方が?」

 二人の質問に、柔和に、答えていくクライン。

「勿論、そうするさ。でも、それは、ここにいる大人たちの、役割だからね」

「「……」」


 関与する気が、全然、なかった。

「俺たちができるのは、学院長や先生たちに、報告することかな」

「「そうだね」」

 突然、リュートが、口を開いている。

「疲れた。それに、お腹がすいた」

「私も……」


 渋面な顔で、兄妹揃って、お腹をさすっている。

 動き過ぎて、お腹を、すかせていたのだ。

 戦闘に夢中過ぎ、食べるのを、忘れていたのである。

 場の空気を、一切、読まない二人だった。


「リュート……」

 苦々しい形相のセナである。

 肩を強張らせていた、クラインやアニスが、いつの間にか、口角が、上がっていたのだった。

 離れた場所では、まだ、動かないように、トリスが、手馴れたように、結界の魔法を、施しているのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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