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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第134話

 ルーカスよりも、先に見つけると言う強い意気込みで、さらに、神経を研ぎ澄ませる二人。

 どんな小さいことも、絶対に、見逃さないとだ。

 いつになく、やる気漲る眼光。


 強い気配に、強く、惹かれていたのだった。

 走る速度も、速まっていく。

 高鳴る、二人の胸。

 久しぶりに味わう、高揚感だ。


 競争心に、火が灯り、すっかり、トリスたちのことを、置いてけぼりにしていることを、忘れていたのだった。

 頭の中は、強い気配を放つ者と、やり合うことしかない。


「「僅かに、右だ」」

 行く方向を、やや修正し、その足を進める。


 森の中が、ひんやりと、静まり返っていたのだ。

 表に顔を出しているものなんて、ほんの僅かだった。

 強い気配に、弱い魔獣を始め、動物たちが、身を潜めていたのである。


 駄々漏れとなっている気配。

 辺り一面を充満し、弱い者たちが、慄いていたのだ。

 そうした森の状況に、強い気配を、放出することを、やめない魔獣。

 意味なく、森の中を、縦横無尽に、彷徨っていたのだった。

 自分が強いのだと、表明するかのようにだ。


 動き回る魔獣に合わす形で、リュートたちも、急激に、行く方向を変えていく。

 どうして、そんな真似をしているのかと、訝しげることもしない。

 ただ、その動きに合わせる形で、向きを、素直に変えていたのである。


 しばらくすると、森の中を、彷徨っている魔獣の姿を、二人の眼光が、捉えていた。

 弾む気持ちのまま、近づいていった。


 魔獣は、逆立っている毛並み、口の辺りからは、大量のよだれが流れている。

 そして、白い眼光は、異常なぐらいに、殺気立っていた。

 強い警戒心を、露わにしている魔獣。


 目の前に、二人が、歓喜に溢れる形相のまま、躍り出てきたからだ。

「「見つけた」」

 対する魔獣は、突如として、現れたリュートとミントを、睥睨していた。


 互いに立ち止まり、睨み合ったままである。

 むき出しの威嚇をしている姿に、ますます、二人の口角が上がっていたのだ。

 目を輝かせている、二人の眼光。

 次第に、食い入るように、魔獣を窺っている。


((強い割りに、知能が低いのか?))


 どう見ても、知能が、高いようには見えなかった。

 感情の赴くまま、動いているようにしか、見えなかったのだ。


((ま、いいか))


 正面にいる魔獣は、リュートの二倍ぐらいの体長で、茶や銀、黒といった斑な毛並みをしていたのだった。

 耳が四つあり、左右違う、角もあったのだ。

 奇妙な容姿をしていた。

 毛並みは、かなり汚れており、異臭も、漂わせていたのである。


「見たことがない。お兄ちゃん、ある?」

「……俺もない」

 膨大な書物を読んできた記憶を、呼び起こしていた。

 だが、目の前にいる魔獣のことが、書かれたものがない。


「新種?」

 首を傾げ、見たことがない魔獣に、ミントが、視線を巡らせていた。

「わからない。それよりも、やるぞ」

 ひと足先に、出て行くリュート。

 うだうだと、思考するよりも、戦いたい気持ちが、勝っていたのだった。

 追随するように、ミントも、動かない魔獣に対し、向かっていく。


 咆哮を上げると、大きな振動により、森の木々も、地面も、かなり離れたところまで、響き渡っていた。

 好戦的な二人に対し、強力な圧を、注いできたのだ。

 狼狽えることもない。

 ただ、二人は、嬉々として、突進していた。


 いらつきながらも、白い眼光は、しっかりと、二人を捉えていたのである。

 重く、素早い動きを、窺わせる魔獣。

 いつの間か、リュートの目の前に、来ていたのである。


 自分よりも、数段速いスピード。

 僅かに、動きが、鈍くなってしまっていた。

 でも、ほんの僅かだ。


 唐突に、距離を詰められ、瞠目しつつも、持ち前の反射神経で、力強い魔獣の攻撃を回避しつつ、間合いをあけていた。

 攻撃が届いた場所は、大きな隙間ができており、窪みが、でき上がっていたのだった。

 そうした光景からも、威力が、大きいことを察していた。


((予測よりも、威力があるな……))


 冷静に、観察しながらも、リュートは、攻撃の手を緩めない。

 ミントも、援護射撃を行う。

 けれど、魔獣は、傷一つ、負うことはない。

 動きが俊敏で、捉えることが、なかなか難しかった。


((どういうこと?))


 次第に、二人の眉間に、しわが増えていく。


((なぜ、ここまでの攻撃が、通じない?))


 二人は、手加減している訳ではない。

 本気で、戦いに挑んでいたのだった。

 それにもかかわらず、目の前にいる魔獣に、傷を負わすことができなかった。

 まして、動きを、鈍らせることも叶わない。


((……))


 瞬く間に、気持ちを、切り替える二人。

 想像以上の強さに、身が引き締まっていたのである。

 そして、緩んだ気持ちでは、決して、勝てない相手だと、見据えていたのだった。


「ミント。下がっていろ」

 振り返ることをしない。

 一瞬の気の緩みが、逆に、やられるからだ。

「やる」


 邪魔だと言われ、ミントの頬が、膨らんでいる。

 相手が、想像以上の強さだったからと言って、逃げるのは嫌いだった。

 そうした一面は、リュートにも、言えたことである。

 相手の強さを知り、ますます、興味を、惹かれていったのだ。


「いつも、相手にしている者と、違うぞ?」

「わかっている」

「そうか。なら、足手まといには、なるな」

「お兄ちゃんもね。いつまでも、剣に拘るのは、やめてよね」

「……そうだな。でも、剣を使うことは、やめないからな」

「呆れた」


 遊びの気持ちは、一切、捨てていた。

 真剣な眼差しで、魔獣に対し、勢いよく、二人で向かっていく。

 もう、言葉なんて、必要ない。

 互いに、互いのことを、把握しているのだ。


 リュートは、剣や、魔法を駆使し戦い。

 ミントも、魔法を止めることなく、放っていたのだった。

 見事な連携プレーで、攻撃や防御していった。

 そうした攻撃を、幾度も、繰り広げられていたのである。


 交わされても、めげずに、ただ、ただ、純粋に、持っている力を、注ぎ入れていった。

 二人の攻撃に、翻弄されながらも、魔獣は、威力のある攻撃を、受けることがない。

 ごくごく、僅かだが、魔獣も、傷を追っていく。

 ただ、本当に、かすり傷程度だ。


 止め処なく、繰り出される二人の攻撃。

 無造作で、意図も簡単に、交わしていたのだった。

 力技で、撥ね退けていったのである。


 全然、体力が、削がれない魔獣。

 リュートやミントも、呼吸一つ、乱れていない。


 もう、嬉々とした気持ちは、失せていた。

 真摯に、目の前にいる敵に対し、立ち向かっていたのだった。


 今まで、感じたことがない、大きな壁。

 威圧的に、立ちはだかっているかのよう感覚に、二人は襲われていたのだ。

 これまで、身の危険を、感じることが多々あった。

 それは、自分たちの母親に対してだ。

 それに近いものを、目の前にいる敵に対し、感じ取っていたのだった。


「あの人よりかは、小さいがな」

「お母さんは、強いからね」


 互いの目は、死んでいない。

 絶対に、勝つと、滲ませていたのである。

 更なる闘志を燃やし、挑んでいった。




 そうした戦いを、離れた場所で、窺っているルーカスがいる。

 リュートたちより、僅か遅れてから、ここに、辿り着いていたのだった。

 目の前で、行われている戦闘を、静かに、見学していたのである。


 ルーカス以外は、いない。

 シャナリアたちは、まだ、到着していなかった。

 興味深い双眸で、感心の声を、ルーカスが漏らしていた。


 逃げ出した魔獣の能力は高く、そのため、自分たちが、狩り出される結果になっていたのだった。

 他のところでも、良かったのだが、ルーカス自身が、嫌われていることもあり、選ばれたのである。

 そうしたことも踏まえると、目の前にいる二人は、無謀とも言えたのだ。


 徐々に、押されつつあっても、気持ちが、折れることがない、リュートたちの姿。

 楽しげに、次から次へと、攻撃を、仕掛けていっていたのである。


 バラエティーに飛んでいる、攻撃のスタイルにも、驚かされていた。

 攻撃を、仕掛けていっている姿に、思わず、ルーカスの口角が、上がっていたのだった。

「ほぉ。予測よりも、やるものだ」


 シャナリアたちに、気づかれないように、この辺り一面に、認識の阻害が起きる、壁を作り、入ってこられないように、工作を施していたのである。

 高度で、緻密な魔法を、掛けていたのだった。

 勿論、掛けているのが、自分だと、気づかれないようにだ。

 楽しんでいる見学を、邪魔されたくなかった。


「シャナリアたちには、すまないが、これはこれで、面白い」

 戦いに夢中になっているリュートたちは、ルーカスの魔法に気づかない。

「後、どれくらい持つかな?」


読んでいただき、ありがとうございます。

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