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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第133話

 残されていたトリスたちは、リュートたちが、消えていった方向を、凝視していたのである。

 セナの眼光が、トリスに、向けられていた。

「大丈夫? 行った方が……」


 不安げな表情を、セナが滲ませている。

 だが、トリスの表情は、崩れない。

 ごくごく、僅かに、顔を曇らせている程度だ。


 強い気配を、リュートとミントから、遅れてから、気づき始めていたのだった。

 今まで、感じたことがない、強い気配。

 セナたちは、僅かに、慄いていたのだ。

 その中でも、トリスとアニスが、冷静に、気配を探り、見極めていた。


((凄い量の気配を、放出している。一体、どうして?))


 普通、ここまで、大きい気配を放つ魔獣は、ある程度、知能として高く、気配を、隠していることが多い。それなのに、気配を、消すところか、勢いよく、垂れ流していたのだった。

「まだ、リュートたちと、出くわすのに、時間がありますね……」

「そうだな」

 アニスの意見に、同意しているトリスだ。


 しっかりと、二人の気配も、窺っていたのだった。

 両者が、ぶつかり合うまで、まだ、距離が、離れていたのである。


「じゃ、連れ戻す?」

 窺うような、カレンの眼差し。

「無理だろう」

「だな」

 リュートの性格を、考慮したカーチスや、クラインが、否定的である。

 これまでのリュートと過ごした、年月を踏まえ、二人が、導き出した答えだった。


 二人の意見に嘆息しつつ、カレンが、割りと、すんなりと、受け入れていた。

「……そうね」

 重い空気が、彼らの前に、立ち込めている。

 セナ一人だけが、納得した顔を、覗かせていない。

 いろいろと、模索していたのである。


 トリスの視線。

 ずっと、リュートたちが、消えていった方向に、巡らされたままだった。


「全員で行って、攻撃を仕掛け、隙を狙って、全員で、逃げ出せば……」

「セナ。無理だよ」

 首を振り、容易に、トリスにより、覆された。

「きっと、リュートとミントちゃんは、動かない」

「……」

 悔しげに、唇を噛み締めているセナ。


 トリスたちの行方を黙って、ソルジュが、窺っていた。

 トリスたちとは違い、ソルジュは、どれぐらい強敵なのか、正確に、感じることができない。

 ただ、よくないとことだけを、感じ取っていたのだった。

 戦力にならない自分が、口を挟むことではないと、巡らせていたのである。


「連れ出すと言っても、ある程度、リュートたちが、気が済むまでやらせないと、決して、動かないだろうな」

 クラインが、苦笑していた。

 確かにと、カレンも、カーチスも、頷いている。

 これまでの経験値だ。


「リュートやミントだけで、仕留められると、思うの?」

「わからない。でも、厳しいかも、しれないな」

 トリスの言葉に、絶句しているセナ。

 心配している姿に、トリスの口元が、緩んでいた。

 そして、瞬時に、頭を切り替える。


(ここまで、強い相手をしてきたことは、ないからな……。それに、リュート自身だって、めったに、極限まで、追い込まれたことは、少ないし……、どうしたものか……)


「ミントは、大丈夫なのか?」

 気遣うような眼差しで、ソルジュが、双眸を注いでいる。

 ミントの戦闘能力を、疑っている訳ではない。

 トリス同様に、二人のことを、見てきたのだ。

 それなりに、ソルジュ自身も、二人の能力を、把握していたのである。


 ただ、極限に陥った際、どう、ミントが、暴走するのかと、案じていたのだった。

 同じ危惧を抱くソルジュに、小さく、笑っているトリスだ。

 幼い頃から、リュート兄妹を、見てきた者に取り、極限に陥った際のリュート兄妹は、とても危険だった。


「村に、知らせた方が。それと、この人たちのことを、どうします?」

 アニスの指摘に、一気に、頭が冷えていった面々。


(そうだ。そのことも、あったか……)


 彼らの双眸。

 目の前で、倒れ込んでいる者たちを、捉えていた。

 自分たちだけでは、なかったのだ。


 自分たちを襲ったやからが、幾人も、倒れ込んでいたのである。

 この面々を、移動させるだけでも、時間が掛かりそうだ。

 指摘を受けるまで、すっかり、そのことを、トリスは、失念していたのだった。


「やることが、多過ぎるな……」

 ついつい、遠い目をするトリス。

 この者たちを、移動させるのも、ひと苦労だった。


「バドも、いれば、よかったな」

 何気なく、カーチスが、呟いていた。

「きっと、バドも、リュートたちに、加わっていたよ」

 冷静に、クラインが、口に出していた。

 容易く、そうした構図が、カーチスたちに、浮かび上がっていたのだ。


「……そうかもしれない」

 何とも言えない顔を、カーチスが、覗かせていたのだ。

「村に、知らせに行く者と、この連中を、避難させる者と、分かれるか?」

 何でもないような口調で、トリスが、皆に話しかけていた。


 セナ以外の者が、肩の力が、抜けている。

 もう、気持ちを、切り替えていたのだった。


「そうね」

「そうですね」

 カレンとアニスが、頷いている。

 だが、セナだけが、納得した顔をしていない。

「……それで、いいの?」


「俺たちがいっても、邪魔なだけだ。とにかく、様子を見て、決めるさ」

「……」

 この場を、仕切っているトリスに、視線を巡らせていた。

 当惑しているセナから、トリスの眼光は、落ち着いているソルジュに、傾けられている。


「ソルジュ。お前は、アニスと共に、村に、知らせていってくれ」

「う……ん」

 異論は、示さないソルジュ。

 いかに、戦力外か、自分自身のことを、把握していたからだ。


「私は、残ります」

 いつになく、やる気になっている姿に、トリスが瞠目していた。

 アニスとリュートが、会っていることは、把握していたが、密かに、二人で訓練していることは、よく知らなかったのである。

 だから、戦力外になりそうなアニスを、はずそうとしたのだ。


「それに、狙っている者たちが、襲ってくる可能性もあるので、もう一人、つけた方が、いいかと」

 アニスの意見に、トリスが、逡巡している。


(戦力となるクラインを、はずす訳にはいかない……。セナ……、いや、彼女も、残していた方が……)


「……カレンと、カーチスが、ソルジュと共に、村にいってくれ」

「いいのか?」

「いいの?」

「ああ。構わない」

 事の仔細を伝えるため、三人は、一目散に村に戻っていく。


「どうする? トリス」

 意見をトリスに、求めるクライン。

「とにかく、彼らを、安全なところに、移動させるか」

「そうだな」


 無駄のない動きで、トリスたちは、倒れている者たちを、安全な場所まで、避難させていく。

 勿論、気配から、目をそらすことがない。

 いつでも、リュートたちのところへ、いけるように、注意を払いながら、片付けていったのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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