第132話
森の中を、リュートとミントが共に、強い気配を求め、探していた。
少しずつ、その気配を、強く感じつつあった。
ある意味、本能のまま、二人は、向かっていたのである。
二人の顔は、強い敵と対峙できる喜びで、満たされていた。
一人は、剣で、自分の実力を試せると。
もう一人は、憂さを、はらせると。
口角を上げ、徐々に、二人は、強い気配を放つものと、距離を詰めようとしていた。
一端、立ち止まる二人。
強い気配の行方を、素直に追う。
「左前斜めって、とこ?」
「そうだな」
狂っていないことに、満足げな表情を、ミントが、浮かべていたのだった。
「けど……」
首を傾げているリュートを、きょとんと、ミントの双眸が捉えている。
「……どうかした?」
「……僅かだが……こっちから、気配が……」
辛うじて、感じることができる気配を、リュートが感じ取っていた。
気配自体は、弱かったのだ。
興味の対象が、強い気配だったため、言われるまで、ミントは気づかなかったのだった。
「ホントだ……」
「……」
どうしても、リュート自身、感じたままの気配ではない、何かあると、野生の勘が、嗅ぎ取っていたのである。
目を凝らし、感じる方向を、窺っていた。
強い気配よりも、微かに、気になっていたのだった。
そう待たず、森の奥から、ルーカスが歩いて、リュートたちの前に、姿を現したのだ。
リュートたちの姿を捉えた瞬間、ルーカスの目が、僅かに、瞠目していた。
(子供? 随分と……)
そうした姿に、二人は気づかない。
突如、姿を見せたルーカスを、見入っている。
「兄妹か?」
リュートとミントを、垣間見ていた。
「……ああ」
「そうか」
小さく、ルーカスが、笑っている。
強い気配よりも、目の前にいるルーカスを、リュートが凝視していた。
「誰だ?」
「名もなき、旅人だ」
「名前は?」
「……ルーカス」
「俺は、リュートだ」
「私は、ミント」
いつの間にか、強い気配よりも、目の前に、姿を現したルーカスのことが、ミントも、気になり始めていたのである。
「何しているの?」
唐突に、ミントが、問いかけていた。
「ただの散策だ」
平静を装っているルーカスだが、その眼光は、美味な二人を、見据えていたのだった。
出逢えたことに、歓喜しているルーカス。
だが、表情に、出ることがない。
ルーカス自身、表情が、あまり表に、出ることがなかったのだ。
もっと、もっと、成熟させて、闘って見たいと言う願望に、取り付かれている。
「散策?」
ミントが、首を傾げていた。
「ああ。このところ忙しく、森の中を、散策できなかったからな」
律儀に、ミントの疑問に、少しだけ、答えてあげたのだった。
「楽しいか?」
まっすぐなリュートの眼差し。
「勿論だ」
ニッコリと、微笑んで見せるルーカス。
「それはいい」
リュートも、口角を上げていた。
「リュートたちは、冒険者か?」
冒険者にしては、若いと、抱いていたのだ。
そして、いくら強い気配を、持っているからとしても、幼い子を連れて、旅するのは、おかしいような気がしていたのである。
「フォーレスト学院生だ」
懐かしい響きに、思わず、口元が緩んでいた。
「知っているのか?」
「知っている。私の弟も、通っていた」
「そうか。ルーカスは、いっていなかったのか?」
意外な気が、していたのだ。
「ああ。静かなところを、好んだんでな」
「……そうなのか?」
納得できない顔を、リュートが、覗かせている。
すっかり、自分も、静かなところを、好むことを忘れていたのだ。
弱い魔獣や動物たちは、潜んでしまって、静寂に包まれている。
そうした状況に、話に興味を持ち始めていたので、互いに、気づく様子がない。
「ねぇ、ルーカス。あなたも、この気配を、辿って来たの?」
核心を、突くミント。
ルーカスの表情は、苦笑していた。
「……まぁな」
「さっきのは、嘘?」
射抜くような、ミントの眼光だ。
「いや。散策しながら、捜していた」
「そう。でも、この獲物は、あげない」
好戦的な眼差しを、ミントが、注いでいたのだった。
魔獣を相手にするのは、自分と兄だけで、十分だと、自信を漲らせていたのだ。
「……戦うつもりなのか?」
目を丸くしているルーカスだ。
(あれの相手を、するつもりなのか?)
「勿論」
「当たり前だ」
堂々と、胸を張っている二人である。
「……」
じっと、鷹揚な二人を、窺っていた。
(……。よく窺うと、法力が、余りあるほど、身体から、放出しているな。あるいは、二人なら、倒せる可能性も、あるかもしれないな……、でも、確率は、低いな。……見てみたい気もするな……。どうしたものか)
「あれは、強いぞ」
挑発するような声音だ。
「「大丈夫」」
臆することもない、満面の笑みだった。
「……そうか」
「絶対に、ルーカスよりも、先に見つけて、仕留めてやる」
高らかに、宣言しているリュートである。
「私もよ」
「さぁ、どちらが、先に見つけるか」
「「勝負」」
勢いよく、二人が、飛び出していった。
二人の背中を、食い入るように、ルーカスが、眺めていたのである。
そして、二人の背中が、見えなくてなっていった。
「……面白くなりそうだな」
命じられた魔獣を、捕獲することよりも、二人の戦いぶりを見たい衝動が、勝っていたのだった。
「シャナリアには、怒らそうだな」
怒られると思っていても、口元が、緩むのが止まらない。
シャナリアには、知らせることもなく、ルーカスも、魔獣の気配がする方へと、歩みを進めていったのだ。
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