第130話
コンロイ村で、ある程度、恐れられている冒険者グループとして、知られている彼らを、学生の身分で一掃したことを、彼ら自身、知らない。
のん気に、いつものように、片づけただけと言う認識しか、持っていなかったのだ。
「時間が、掛かったな」
ゆっくりと、登場したリュート。
勿論、大きな負傷がない。
軽いケガ程度だ。
一息ついているトリスが、話しかけていたのである。
「剣だけで、戦ったのか?」
いっこうに、こちら側に来ないことで、そうした予測も、踏まえていたのだった。
「当たり前だ」
胸を張っている姿に、トリスが、首を竦めていたのだ。
カーチスが、呆れ顔を覗かせていた。
トリスたちを、襲い掛かってきたやからを、リュートの手を借りず、一網打尽にしていたのだ。
勿論、そうした自信があったからこそ、二手に分かれたのである。
多くのやからが、トリスたちから、金目の物を、奪おうとしていたのだった。
そのすべてが、地面に、倒れ込んでいたのである。
誰一人として、免れた者がいなかった。
リュートたち側で、大きなケガを負った者がない。
小さい傷ばかりだ。
ジト目で、カレンが睨んでいる。
カレンやアニスは、補助的な魔法で支援する形で、戦っているトリスたちを援護し、見守っていたのだった。
ほぼ、見学しているだけで、手を出すことが少なかった。
「どうして、いつもこうなるのよ。それに……」
怒り始めたカレンが、震え出したカーチスを捉えていた。
久しぶりに、カーチスの対人戦を見て、カレンが驚愕していたのである。
先ほどまで、活躍していたカーチスの姿がない。
狼狽えている姿しか、なかったのだ。
(何で?)
格段に、以前よりも、遥かに、強くなっていたのだった。
自分が、知らないところで。
それも、カーチスだけではない。
クラインも、トリスも、強くなっていたのだ。
不意に、カーチスとつるんでいる、ブラークやキムのことを掠めている。
見てはいないが、彼らも、強くなっていると、巡らせていたのだった。
そして、盛大な溜息を漏らしていた。
トリスたちの周囲には、意識を完全に失っている、襲ってきたやからが、そこら中に横たわっていたのである。
勿論、しっかりと、拘束はされていたのだ。
目覚めても、動くことができない。
ここには、トリスが仕掛けた罠もなければ、底が知れない、強さを秘めているリュートは、別な場所で戦っていたのである。
すぐに、駆けつけるものと、踏んでいたカレンだったが、リュートが来る前に、自分たちを狙っている者たちを、トリスたちが、見事な連携技で、次々に、伏してしまったのだった。
カレンやアニスも、ただ、見ていた訳ではない。
補助魔法や攻撃魔法で、援護を、しっかりしていたのである。
戦っているところを、見たこともないセナの姿も、しっかりと、窺っていたのだった。
(さすが、『十人の剣』に、選ばれることはあるわね。想像以上の実力に、私も、負けていられないわね)
噂で、耳にした内容より、強いことを把握したのだ。
「……何やっているのよ」
眼光の鋭さは、変わらない。
睨まれているトリスも、クラインも、飄々としている。
だから言っただろう? 大丈夫だと。
そうした声が、聞こえてきそうだった。
「別に。うるさいハエを、追い払っているだけだ」
「大丈夫。無茶はしないように、してくるから」
伸した者たちは、目覚めないことは経験上、理解していたのだ。
だから、安心として、偽名を使わず、喋っていたのである。
「カーチス。後で、じっくりと、聞くからね」
「えっ!」
何で、聞かれるのかと、目を見張っている。
助けを求めるように、二人を見るが、トリスも、クラインも、声を出さず、口だけで頑張れと、送っていたのだった。
カレンの鋭い双眸が、リュートを捉えていた。
「リュート。もう少し、おとなしく過ごせないの?」
「別に、騒がしく、していないぞ」
何で、怒られるのかと顔を顰め、首を傾げていた。
そうした姿を捉え、カレンの強張っていた顔が、緩んでいく。
(確かに)
「周りが、勝手に、騒いでるだけよね」
「カレン……」
少し、労わるような眼差しを、アニスが注いでいた。
自分以上に、リュートと同じクラスメートであったカレンが、いくつもの騒動に、巻き込まれていた話を、以前から、聞いていたのである。
その数々が、アニスの頭の中を、通り過ぎていった。
「だからって、もっと、自重させるべきよ」
このところ、振り回されることが多いセナが、突っ込んだ。
腰に、手を当てている。
「無理ね」
小さく、笑っているカレンだ。
先ほどの勢いは、霧散していたのだった。
肩透かしを、セナは喰らっている。
一緒に、注意をしてくるかと、巡らしていたのだ。
「もっと、強くならないと」
突然、奮起し始めるカレンの姿。
どうして、こうなるのと、きょとんとなるセナだった。
「そうだね。負けていられないね」
カレンに、追随するアニス。
二人が、妙にやる気になっている姿に、徐々に、負けていられないと、抱くセナだ。
落ち着くところに、落ち着いた様子に、カーチスが、とりあえず、胸を撫で下ろしていた。
そうした姿に、クラインも、トリスも、笑っていたのである。
なぜ、カレンたちがやる気になり、トリスたちが笑っているのか、リュートは、一人理解できないでいた。
「何だ?」
そこへ、ミントとソルジュが、ゆっくりとした歩調で、姿を現したのだった。
襲ってきた者たちを伏した後、別なところで、戦闘が行われていることを察知し、こちら側に足を向けていたのだ。
「お兄ちゃんたちのところにも、来ていたのね」
「ミントのところも、来ていたのか」
襲撃にあったと聞いても、全然、心配の色を、滲ませないリュート。
どこまでも、淡々としていたのだ。
「弱かった……」
どこか不満顔を、ミントが、覗かせている。
まだ、溜まっているムカムカが、晴れていなかった。
「確かに。もっと、手応えがある者が、いいな」
「ホント」
思案している二人。
戦闘狂な発言に、セナが、頭を抱えていたのだ。
慣れているトリスたちは、一切、思うところはない。
いつもの風景の一つに、捉えていたのだった。
トリスたちの現状に呆れつつ、倒れている者たちに、ご愁傷様と、心の中で呟いていたのである。
「ソルジュ。ケガはないか?」
「……ああ。俺は、ただ、見学していただけだから」
ばつが悪そうなソルジュとは違い、トリスが安堵していた。
「そうか」
(普通の兄弟は、心配するでしょ。それが……)
どこかで、狩りをするかと、熱心に、話し込んでいる兄妹。
もう一つの兄弟は、弟ことを、心配する兄の姿があった。
脱力感が、否めない双眸。
盛大な嘆息を、セナ漏らしている。
「これで、少しは、おとなしくなってくれるかしら」
「そうだね」
カレンとアニスが、どこか、期待を込めた眼光を、滲ませていたのだ。
ゆっくりと、買い物を、楽しみたかったのだった。
つけ狙っている者たちを、少し、排除しようとする目的で、リュートたちは、森の中を探索していたのである。
まさか、大物を釣ったとは、彼ら自身、知るよりもなかった。
ただ、静かに、村の中を、歩き回りたいだけだったのだ。
その願いを叶えるため、自分たちを囮にし、つけ狙う者たちの目を、意図も簡単に減らしたのである。
「いつも、こんなことして、大丈夫なのか? 母さんたちは、知っているのか?」
チラチラと窺うように、ソルジュが、口に出していた。
思っていた以上に、危険な真似をしている兄たちを、純粋に、心配していたのである。
(こんなこと、ばかりして……)
「何となく、知っているんじゃないか? ま、無茶をしないようには、しているから」
反省する色がないトリス。
どこか、あっけらかんとしていたのだ。
信じられないと言う眼差しを、ソルジュが注ぐ。
「自覚が、ないだろう?」
「何が?」
「相当、ヤバいことをしているって、自覚さ」
「こんなこと、大丈夫だろう」
逆に、僅かに、目が見張っているトリスだ。
(リュートと一緒にいるせいで、危険度が、麻痺しているな)
咎める双眸が、緩まることがない。
困ったなと、頬を掻くトリスであった。
「……ほどほどに、しておけよ」
「わかっているさ。ソルジュの方は、どうなんだ?」
「何が?」
怪訝そうな顔を、ソルジュが浮かべている。
「ユルガ様に聞いたぞ。何度か、命の危機があったって」
「師匠のお喋りが!」
ペラペラと、滑らかに話す姿が、容易に、想像できたのだった。
「お前の方も、無茶をしないように。父さんや母さんが、心配するぞ。それに、じっちゃんもな」
否応なく、三人の姿が、ソルジュの中で、走馬灯のように流れていく。
「……わかっている」
次第に、渋面しているソルジュだった。
突如、トリスたちの顔つきが、変わっていく。
喋っていたリュートとミントが、互いに、不敵な笑みを携えていた。
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