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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第130話

 コンロイ村で、ある程度、恐れられている冒険者グループとして、知られている彼らを、学生の身分で一掃したことを、彼ら自身、知らない。

 のん気に、いつものように、片づけただけと言う認識しか、持っていなかったのだ。


「時間が、掛かったな」

 ゆっくりと、登場したリュート。

 勿論、大きな負傷がない。

 軽いケガ程度だ。


 一息ついているトリスが、話しかけていたのである。

「剣だけで、戦ったのか?」

 いっこうに、こちら側に来ないことで、そうした予測も、踏まえていたのだった。

「当たり前だ」


 胸を張っている姿に、トリスが、首を竦めていたのだ。

 カーチスが、呆れ顔を覗かせていた。


 トリスたちを、襲い掛かってきたやからを、リュートの手を借りず、一網打尽にしていたのだ。

 勿論、そうした自信があったからこそ、二手に分かれたのである。

 多くのやからが、トリスたちから、金目の物を、奪おうとしていたのだった。

 そのすべてが、地面に、倒れ込んでいたのである。


 誰一人として、免れた者がいなかった。

 リュートたち側で、大きなケガを負った者がない。

 小さい傷ばかりだ。


 ジト目で、カレンが睨んでいる。

 カレンやアニスは、補助的な魔法で支援する形で、戦っているトリスたちを援護し、見守っていたのだった。

 ほぼ、見学しているだけで、手を出すことが少なかった。


「どうして、いつもこうなるのよ。それに……」

 怒り始めたカレンが、震え出したカーチスを捉えていた。

 久しぶりに、カーチスの対人戦を見て、カレンが驚愕していたのである。


 先ほどまで、活躍していたカーチスの姿がない。

 狼狽えている姿しか、なかったのだ。


(何で?)


 格段に、以前よりも、遥かに、強くなっていたのだった。

 自分が、知らないところで。

 それも、カーチスだけではない。

 クラインも、トリスも、強くなっていたのだ。


 不意に、カーチスとつるんでいる、ブラークやキムのことを掠めている。

 見てはいないが、彼らも、強くなっていると、巡らせていたのだった。

 そして、盛大な溜息を漏らしていた。


 トリスたちの周囲には、意識を完全に失っている、襲ってきたやからが、そこら中に横たわっていたのである。

 勿論、しっかりと、拘束はされていたのだ。

 目覚めても、動くことができない。


 ここには、トリスが仕掛けた罠もなければ、底が知れない、強さを秘めているリュートは、別な場所で戦っていたのである。

 すぐに、駆けつけるものと、踏んでいたカレンだったが、リュートが来る前に、自分たちを狙っている者たちを、トリスたちが、見事な連携技で、次々に、伏してしまったのだった。


 カレンやアニスも、ただ、見ていた訳ではない。

 補助魔法や攻撃魔法で、援護を、しっかりしていたのである。

 戦っているところを、見たこともないセナの姿も、しっかりと、窺っていたのだった。


(さすが、『十人の剣』に、選ばれることはあるわね。想像以上の実力に、私も、負けていられないわね)


 噂で、耳にした内容より、強いことを把握したのだ。

「……何やっているのよ」

 眼光の鋭さは、変わらない。

 睨まれているトリスも、クラインも、飄々としている。


 だから言っただろう? 大丈夫だと。

 そうした声が、聞こえてきそうだった。


「別に。うるさいハエを、追い払っているだけだ」

「大丈夫。無茶はしないように、してくるから」

 伸した者たちは、目覚めないことは経験上、理解していたのだ。

 だから、安心として、偽名を使わず、喋っていたのである。


「カーチス。後で、じっくりと、聞くからね」

「えっ!」

 何で、聞かれるのかと、目を見張っている。

 助けを求めるように、二人を見るが、トリスも、クラインも、声を出さず、口だけで頑張れと、送っていたのだった。


 カレンの鋭い双眸が、リュートを捉えていた。

「リュート。もう少し、おとなしく過ごせないの?」

「別に、騒がしく、していないぞ」

 何で、怒られるのかと顔を顰め、首を傾げていた。

 そうした姿を捉え、カレンの強張っていた顔が、緩んでいく。


(確かに)


「周りが、勝手に、騒いでるだけよね」

「カレン……」

 少し、労わるような眼差しを、アニスが注いでいた。


 自分以上に、リュートと同じクラスメートであったカレンが、いくつもの騒動に、巻き込まれていた話を、以前から、聞いていたのである。

 その数々が、アニスの頭の中を、通り過ぎていった。


「だからって、もっと、自重させるべきよ」

 このところ、振り回されることが多いセナが、突っ込んだ。

 腰に、手を当てている。

「無理ね」

 小さく、笑っているカレンだ。


 先ほどの勢いは、霧散していたのだった。

 肩透かしを、セナは喰らっている。

 一緒に、注意をしてくるかと、巡らしていたのだ。


「もっと、強くならないと」

 突然、奮起し始めるカレンの姿。

 どうして、こうなるのと、きょとんとなるセナだった。

「そうだね。負けていられないね」

 カレンに、追随するアニス。


 二人が、妙にやる気になっている姿に、徐々に、負けていられないと、抱くセナだ。

 落ち着くところに、落ち着いた様子に、カーチスが、とりあえず、胸を撫で下ろしていた。


 そうした姿に、クラインも、トリスも、笑っていたのである。

 なぜ、カレンたちがやる気になり、トリスたちが笑っているのか、リュートは、一人理解できないでいた。

「何だ?」


 そこへ、ミントとソルジュが、ゆっくりとした歩調で、姿を現したのだった。

 襲ってきた者たちを伏した後、別なところで、戦闘が行われていることを察知し、こちら側に足を向けていたのだ。


「お兄ちゃんたちのところにも、来ていたのね」

「ミントのところも、来ていたのか」

 襲撃にあったと聞いても、全然、心配の色を、滲ませないリュート。

 どこまでも、淡々としていたのだ。


「弱かった……」

 どこか不満顔を、ミントが、覗かせている。

 まだ、溜まっているムカムカが、晴れていなかった。

「確かに。もっと、手応えがある者が、いいな」

「ホント」


 思案している二人。

 戦闘狂な発言に、セナが、頭を抱えていたのだ。

 慣れているトリスたちは、一切、思うところはない。

 いつもの風景の一つに、捉えていたのだった。

 トリスたちの現状に呆れつつ、倒れている者たちに、ご愁傷様と、心の中で呟いていたのである。


「ソルジュ。ケガはないか?」

「……ああ。俺は、ただ、見学していただけだから」

 ばつが悪そうなソルジュとは違い、トリスが安堵していた。

「そうか」


(普通の兄弟は、心配するでしょ。それが……)


 どこかで、狩りをするかと、熱心に、話し込んでいる兄妹。

 もう一つの兄弟は、弟ことを、心配する兄の姿があった。

 脱力感が、否めない双眸。

 盛大な嘆息を、セナ漏らしている。


「これで、少しは、おとなしくなってくれるかしら」

「そうだね」

 カレンとアニスが、どこか、期待を込めた眼光を、滲ませていたのだ。

 ゆっくりと、買い物を、楽しみたかったのだった。


 つけ狙っている者たちを、少し、排除しようとする目的で、リュートたちは、森の中を探索していたのである。

 まさか、大物を釣ったとは、彼ら自身、知るよりもなかった。

 ただ、静かに、村の中を、歩き回りたいだけだったのだ。

 その願いを叶えるため、自分たちを囮にし、つけ狙う者たちの目を、意図も簡単に減らしたのである。


「いつも、こんなことして、大丈夫なのか? 母さんたちは、知っているのか?」

 チラチラと窺うように、ソルジュが、口に出していた。

 思っていた以上に、危険な真似をしている兄たちを、純粋に、心配していたのである。


(こんなこと、ばかりして……)


「何となく、知っているんじゃないか? ま、無茶をしないようには、しているから」

 反省する色がないトリス。

 どこか、あっけらかんとしていたのだ。

 信じられないと言う眼差しを、ソルジュが注ぐ。


「自覚が、ないだろう?」

「何が?」

「相当、ヤバいことをしているって、自覚さ」

「こんなこと、大丈夫だろう」

 逆に、僅かに、目が見張っているトリスだ。


(リュートと一緒にいるせいで、危険度が、麻痺しているな)


 咎める双眸が、緩まることがない。

 困ったなと、頬を掻くトリスであった。


「……ほどほどに、しておけよ」

「わかっているさ。ソルジュの方は、どうなんだ?」

「何が?」

 怪訝そうな顔を、ソルジュが浮かべている。


「ユルガ様に聞いたぞ。何度か、命の危機があったって」

「師匠のお喋りが!」

 ペラペラと、滑らかに話す姿が、容易に、想像できたのだった。


「お前の方も、無茶をしないように。父さんや母さんが、心配するぞ。それに、じっちゃんもな」

 否応なく、三人の姿が、ソルジュの中で、走馬灯のように流れていく。

「……わかっている」

 次第に、渋面しているソルジュだった。


 突如、トリスたちの顔つきが、変わっていく。

 喋っていたリュートとミントが、互いに、不敵な笑みを携えていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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