第129話
リュートたちを窺っている者たちは、コンロイ村に、購入目的で、訪れる冒険者たちを狙い、金を荒稼ぎしていたのだ。
その手口は、手荒いものの、巧妙でもあった。
何度も、取締りを試みても、証拠が乏しく、未だに、捕まえることができなかったのである。
村で、頭を悩ませる問題でも、あったのだった。
「金に、糸目をつけずに買えるとは、ホント、いい身分だね」
三十代中盤の女が、妖艶な笑みと共に、ワイワイと、騒いでいるリュートたちを眺めている。
纏っているローブにより、隠されているが、しっかりと、戦闘モードのいでたちになっていた。
子供相手だろうが、手を抜くことがない。
使い込まれた防具をつけ、切れ味、抜群の剣を、携えていたのである。
顔が整っている女は、何人もの冒険者たちを、手玉に取り、騙してきたのだ。
「だな。結構な高価なものを、身につけているのに」
相打ちを打つ男。
彼女たちが、所属するグループで、両者は、中核を担っていたのである。
「どこぞの坊ちゃんと、嬢ちゃんだろうな」
男の眼光の奥には、蔑むような光が宿っていた。
男にとって、最も嫌うタイプの集団だった。
そのせいもあり、若干、いつもよりも、内に秘める闘志を、燃え上がらせていたのだ。
容赦することなく、嫌いなタイプの集団を、執拗に嬲り者にしていたのだった。
そうした餌食になっていた者が、多くいたのである。
「あれを売っても、相当な額になるだろうね」
「それに加え、持っている金も、多そうだ」
互いに、厭らしい笑みを、漏らしている。
コンロイ村に、リュートたちが入ってきた時点で、ターゲットとして決め、ずっと付け狙っていたのだった。
他に、狙っているところを、現在、仲間たちが、蹴散らしていたのである。
自分たちだけの、獲物にするためにだ。
「みんなは?」
「次第に、揃うだろう」
「だったら、この機会を逃さない方が、いいね」
「そうだな。上手い具合に、あいつらしか、いないし」
不敵な笑みを携え、のん気に喋っているリュートたちを、捉えている。
彼らがいるのは、木の上で、気づかれないように気配を消し、後をつけていた。
リュートたちは、長い時間をかけ、森の中を、ひたすらに、歩き回っていたのである。
襲い掛かってくる、弱い魔獣を倒しながらだ。
この辺には、基本的に弱い魔獣しかしない。
そうした理由もあり、初心者の冒険者たちが、訪れていたのだった。
訝しげな表情を、滲ませたセナ。
「ところで、頼まれた物は、いつ、取りにいくのよ? 目的、忘れていない?」
突如、黙り込むリュートたち。
「「「「「……」」」」」
すっかり、忘れていた面々だ。
セナに指摘され、ようやく、コンロイ村に来た意味を、思い出していたのだった。
何も、言わない面々。
盛大な溜息を、セナが吐いた。
「今、行く?」
「後でも、大丈夫だろう?」
「そうだな。帰る前に、取りにいっても、問題ないだろう」
トリスが、リュートの言葉に、賛同していた。
勢いよく、カーチスたちが、同意している。
のん気な彼らを、見ずにいられないセナだ。
「徐々に、集まってきているな」
彼らだけに、聞こえる程度の声で、クラインが、周囲の気配を探っていたのだ。
クラインの言葉に、それぞれ少しだけ、身を引き締めていた。
だからといって、身体が強張ることはない。
程よい緊張に、包まれていたのだった。
「そろそろか」
「だろうね」
最初から、自分たちが、見張られることを把握し、面倒臭いと言うこともあり、泳がせていたのである。
それと、村の中で、目立つ行為も、避けたかったのだ。
勿論、襲ってくれば、すぐ対応できるように、準備だけはしていたのだった。
そして、ここで、歩き回っていたのも、うるさいハエを、ある程度、減らすためだ。
「そうね。どうして、リュートと一緒だと、いつも、こうなるのかしら?」
険しい形相のカレン。
何とも言えず、視線をそらす、トリスとクラインだ。
いくつもの余罪を、持っていたからだった。
小さく、笑っているアニス。
カーチスは、カレンの様子に、落ち着きがない。
呆れた顔を、セナが、覗かせている。
そして、リュートだけは、きょとんとした顔を、滲ませていた。
「何がだ?」
首を傾げ、本当に、わかっていない姿に、カレンが、溜息を漏らしている。
「リュートは、考えないで。きっと、理解できないから」
こと細かく、説明することが、鬱陶しくなり、放棄してしまったのだ。
「わかった」
素直に応じ、楽しげに、集まってくる様子に、手ぐすね引いていたのだった。
指で、合図を送るトリス。
手馴れている動作だ。
誰もが従い、その場には、リュートと一人を残し、散っていく。
鮮やかな、連係プレーである。
突然のリュートたちの行動に、一瞬の動揺を窺わせたが、すぐさま、落ち着きを取り戻し、散っていったトリスたちに、仲間を分散させ、向かわせたのだ。
リュートの元に、残っていたのは、五人だった。
「随分と、面白い行動をしたな」
目を眇めている男だ。
女と共に、ずっとリュートたちを、見張っていた男が、残っていたのである。
「そうか」
首を傾げ、その場に残った顔触れを、確かめていく。
「……これだけか」
つまらなそうな顔を、覗かせているリュートだ。
(もっと、残っていれば、楽しめたのに)
「舐めたガキだな」
嫌悪を隠さず、顔を歪ませているリュートよりは上だが、残ったメンバーの中では、若い男が呟いていた。
だが、リュートの表情が変わることがない。
「舐めたら、汚い。俺は、事実を言っただけだ」
平然とした顔をしていた。
そうしたリュートの姿に、さらに、残っているメンバーの顔が、変わっていく。
ただ、最初に、喋った男だけが、表情が崩れない。
毅然としているリュートを、見据えていたのである。
「だったら、証明してくれるか? 強いってことを?」
「いいだろう」
鷹揚に、そして、楽しげに、口の端が上がっていた。
携えていた剣を抜き、物凄いスピードで、彼らの元へ回り込む。
目を見張っているだけで、動かない二人を、先ず仕留めていった。
他の三人は、やられている仲間に、目もくれない。
減れば、増やせばいいと言う、集まりでもあったのだ。
冷ややかな眼差しと共に、リュートとの間に、間合いを空けていったのだった。
「やるな」
賞賛している声。
だが、僅かだが、警戒心を含まれていた。
自分を認めたことに、リュートが、満足げな顔を浮かべている。
「だったら、最初から、本気でこい」
「……そうした方が、賢明のようだな」
ニカッと笑いながら、三人の男たちが、向かってくる状況を、リュートは楽しんでいたのである。
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