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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第127話

 コンロイ村の近くにある森を、一人で、ミントが散策していた。

 木漏れ日が差し、少しだけ、ひんやりとする風が、時々、吹いている。

 勢いよく、闊歩していたのだ。


 リュートたちと、いたくなかった。

 周囲に、無数の目があっても、誰も、注意をしない。

 ミントなら、撃退できると、確信していたからだ。

 それと、トリスたちも、それなりに、周囲に気を配り、警戒していたのである。


 ブスッとしたまま、足を動かしていた。

 行く先などない。

 気の向くままだ。


 ムカついているので、リュートから、離れていたのである。

 村の中で、兄妹ケンカをしちゃダメだよと、事前に、トリスから、言われていたからだ。

 だから、ムカつく相手と、距離をとっていた。

 何かと、トリスの言いつけは、守っていたのだった。


 すると、薬草を採取に、訪れていたソルジュと、出くわす。

 早朝から、単独で、薬草採取に来ていたのだ。

 勿論、トリスと、顔を合わさないためである。


 互いの顔に、眉間のしわが寄っていた。

 知らない間ではないが、ほぼ、喋ったことがない。


 生まれ育った、村で住んでいた頃、めったなことでは、屋敷から、出たことがなかったミントだった。

 対照的に、家にいず、外を歩き回っていたソルジュだ。


 ソルジュは、村の中を、一人で歩き回ったり、ミントの屋敷にも、幾度も通っていても、ソルジュ自身の目的は、書庫にある本で、書庫で読書をしていたのだった。

 読書を嗜むリュートとは違い、ミントと、顔を合わすことがなかったのである。

 そして、ミントが、読書するようになる頃には、ソルジュは、師匠のユルガと、旅立っていた後だった。


 気まずい空気だけが、流れていく。

 ようやく、ソルジュの口が、動いたのである。

「何をしている?」

「……散歩」

「「……」」


 徐に、ソルジュが、嘆息を吐いた。

 その先の言葉が、全然、出てこない。


 互いに、コミュニケーション能力が、低かったのだ。

 逡巡しているソルジュを、奇妙な目で、ミントが窺っていた。


 ただ、旅をするようになったソルジュは、少し大人になり、これではダメだと、少しずつ、コミュニケーションを、取るように心掛けていたのである。

「……学院は、楽しいのか?」

「少しだけ」

「友達は?」

「……たぶん、いる」

 か細く、自信なさげな声だ。


 学院のクラスメートとは喋っているが、それで、友達なのかと悩んでいたのだった。

 どういう基準になれば、友達になるのかと、巡らせていた。

 クラスメートの多くは、すでにミントは、友達と言う認識を、持っていたのである。


「何だ? それは」

「喋る人はいる」

「そうか。それは、よかったな」

「うん」


 また、沈黙が、訪れていた。

 じっと、この気まずい雰囲気の打開策を、模索しているソルジュ。

 ただ、そんなソルジュを、ミントが窺っている。


「……何だ?」

「そっちは?」

「……いる」

「そう。それは、よかった」

「そうだな」


 グルリと、ミントが、周囲を見渡した。

 もう一度、怪訝そうな顔を、覗かせているソルジュを捉えている。


「何で、避けるの?」

 唐突な問いかけ。

 フリーズしているソルジュだ。


 村にいる際は、気づいていなかった。

 それに、トリスとソルジュが、一緒にいるところを、ミント自身、見ていなかったのだった。

 だから、何で、兄であるトリスのことを、避けているのかと、ふと、疑問が浮かんだことを、口に出していたのである。


「……別に。そっちの方は、どうなんだよ」

 ちょっとだけ、ソルジュが、不貞腐れている。

「私は、避けていないもん。普通だよ」

 目を、大きく見開いていた。


(私が、お兄ちゃんを避けている? そんな憶えないんだけど?)


「普通じゃない?」

「どこが?」

 首を傾げているミントだった。

 ついつい、ソルジュが、ジト目になってしまっている。


 リュート以上に、ミントは、屋敷の中に、籠もっていることが多かった。

 リュート同様に、一般常識から、かけ離れていたのである。


「……」

 兄弟ゲンカの次元が、違うだろうと、心の中で、漏らしているが、口に出さない。

 後が、面倒だと、掠めていたのだった。

 村での、数々の爆音を、思い返していたのだ。

 村では、一種の名物に、なっていたのである。


「もういい」

「そう。で?」

「……別に、いいだろう」

「いいけど。気になる」

 しつこいミントに、顔を顰めていく。


「お前みたいな、小さいやつには、わからないよ」

 小さいと言われ、ムクムクと、口を尖らせていった。

 森の静けさが、段々と、失われていく。

 ミントの殺気に、ざわつき始めていたのだ。

 そうした異変に、ソルジュが気づかない。


「年上ぶっているくせに、器が、小さいんじゃないの?」

「何?」

 すっかり、自分よりも、格上であることを忘れている。

「何よ」


 互いに、眼光が、ぶつかり合う。

 徐々に、余裕な笑みを、ミントが、漏らしていった。

 ミントの形相に、不快感が滲んでいく。


(何だ? ……いきなり、魔法なんて、繰り出さないよな?)


 一抹の不安が、膨れ上がっていった。

 いきなり、ソルジュの背後目掛け、呪文を放ったのだ。


 身体を、動かすこともできない。

 爆風で、ソルジュの髪が、大きく靡く。

 突然の出来事に、背筋を凍らせていた。

 旅に出てから、護身術などを学んでいるが、ミントと、やりあうだけの能力がないことだけは、身に沁みて、理解していたのだった。


(言い過ぎて、怒らせたか?)


 自分に向かって、駆け出すミントの姿。

 その手には、法力が集まり、煌々と、輝きが増していた。

 全然、身体が硬直し、足が動かない。

 黙って、やられるのを、待つしかなかった。

 僅かに残る矜持で、目を瞑ることはしない。


 ミントの魔法は、立ち竦んでいるソルジュを、通り過ぎていった。

 攻撃を仕掛けるどころか、怪訝な表情を、覗かせているソルジュを庇う態勢を、ミントがみせている。


(ど、どういうことだ?)


「……私の後ろに、隠れていなさい」

 ミントの言葉で、ようやく、置かれている状況を把握する。

 気を抜け過ぎて、周囲の気配に、気づくことが遅かったのだ。


 装備品が劣っているソルジュを、先ずターゲットとしたやからを倒すため、ミントが仕掛けた攻撃だった。

 一人倒されている者を含め、四人の男たちが、ソルジュとミントを、狙っていたのである。

 ぞろぞろと、二人の前に、立ちはだかる三人。


 小さいミントから奪うため、ずっと、宿屋からつけていたのだ。

 自分よりも、年下の者に守られている状況に、微妙な顔を滲ませている。


「いいもの、身につけているな」

 いやらしく、笑っている男三人だ。

 男たちの目的は、ソルジュやミントが、身につけている装備だった。

 簡素に見えても、見る人が見れば、高価な代物を、纏っていたのである。


 一切、動揺を見せない、ミントの姿。

 男たちが、微かに、感心していたのだ。


 ミントから、守られているソルジュに、視線を巡らす。

 その双眸は、侮蔑が、込められていた。

「逆じゃないのか?」

 答えることが、できないソルジュ。


(確かにな……、でも……)


「もしかして、私が、小さいからって、バカにしている?」

「いや。少しは、できると、賞賛しているよ、お嬢さん」

「その言い方が、バカにしているように、聞こえるけど?」

 鋭い双眸を、傾けたままのミント。


 侮られることが、何度あっても、慣れることはない。

 幾度も、その侮りを、訂正させていたのである。

 圧倒的な力でだ。


「俺たちの動きに気づき、一人、仕留めたんだ、警戒は、しっかりとしている」

「そう……。でも、私たちを狙っている時点で、あなたたちの目は、節穴よ」

「随分と、自信があるんだな。知っているか? それは、傲慢だと言うことを」

 男の言葉に、ミントが、鼻で笑っている。

 僅かに、男たちの沸点を上げている姿に、ソルジュが、頭を抱え込む。


(何やっているんだよ。挑発して、どうする?)


「下がって」

 邪魔だと、ミントが、ソルジュを下がらせる。

 ソルジュ自身も、理解していたので、素直に、ミントの言葉に従った。

 数歩、前に出たミント。


 襲い掛かる、男二人だ。

 残りの男が、その場で、呪文を詠唱していた。

 圧倒的な速度で、ソルジュの前に、魔法の壁を作り、仕掛けてきた男二人と、残っていた男の間に、ミントが入り込んだ。


 にやりと笑うミントが、戦慄している男を捉えている。

 先ず、詠唱している男を、《疾風の刃》で、あっさりと仕留めていた。


 倒されたのを見て、男たちのターゲットを、即座に、静観しているソルジュに変える。

 ソルジュの前にある、魔法の壁を、取り払おうとするが、強硬でできない。

 無駄な足掻きを見せている男二人。


 その男二人目掛け、脳天に、《雷神》を落としたのだった。

 その場に、崩れ落ちる男たち。

 瞬く間の出来事だった。


 意識がないことを確信してから、ソルジュが、ミントに対し、拍手を送っている。

「容赦ないな」

 高圧的な双眸を、ミントが注いでいた。


 黙り込むソルジュ。

 そして、別な言葉を探す。

「……さすが」

「大したことは、ないわよ」

「いや。凄いよ」

「……」


「俺には、できないから」

「当たり前でしょう」

 何を言っているの?と言う顔を、ミントが覗かせている。


(ミントも、リュートも凄いな。二人のことは、素直に言えるのに……。兄さんのことは……)


「……当たり前のことを、認めることが、難しいんだよ」

 ソルジュが、苦笑していた。

 コテンと、首を傾げ、見ていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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