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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第126話

「誰だ?」

 諜報員の中から、声が出ていた。

 ニコニコと、場違いな微笑みを浮かべているカテリーナ。

 徐々に、諜報員たちが、怪訝な顔を滲ませていく。

 とても、戦闘要員に、見えないからだ。


 ユルく、一つにしてある三つ編みが、地面につきそうなほど長い。

 歩くたびに、揺れている。


 後方で、支援系の使い手にしか、見えないいでたちだった。

 そうした状況にも、微笑みを絶やさない。

「教師です」

 愛嬌たっぷりな声音だった。


 本当か?と言う、奇異な眼差し。

 カテリーナの姿を、上から下まで窺っている。

 教師と言うより、彼らの双眸には、か弱い女性にしか映っていない。


「これより、相手は、私がいたしますわ」

「「「「「……」」」」」

 戦うと言う姿勢に、さらに、眉を潜めている諜報員たち。

 徐に、生徒より、情報を手に得られるかと、幾人かの諜報員が、ほくそ笑むのだった。

 だが、隊長の男の顔だけが、どこか胡乱げだ。


「気を抜くな!」

 隊長の男の怒声が、辺りに響き渡った。

 瞬く間に、緊張が、張り詰めていく。

「ほぉー。先生の実力を、見抜いたか?」

 どこか、楽しげなバドだった。

 半眼で、隊長の男が、バドを捉えている。


 殺伐とする中を、颯爽と、カテリーナが歩いていった。

 戦闘の激しさが、物語っており、辺りは、木々が陥没していたり、なくなっていたりしていたのだ。

 優しげで、穏やかな笑顔が、傷だらけのローゼルとダンに、降り注いでいた。

 和やかな雰囲気を、醸し出しているカテリーナに飲み込まれ、周りにいる諜報員たちは、誰一人として動かない。

 ただ、静観していたのである。


「下がっていて」

「……でも……」

 狼狽えているローゼル。

 彼女自身、指を動かすのも億劫なほど、消耗していた。

 ほぼ、気力だけで、戦っていたのである。


「大丈夫」

「「……」」

 教師であるカテリーナが、現れたからと言って、状況が、好転するとは思えない。

 それは、ダンも同じだった。


「大丈夫。私に任せて」

 さらに、微笑むカテリーナだ。

「休んでいてね」

 ローゼルたちから、双眸を離し、ローゼルたちを傷つけた諜報員たちに、悲しい顔を傾けている。

「生徒が傷つけられ、とても、悲しいです」


 巡らせている眼光。

 いつしか、真剣なものに、変わっていたのだ。


「「「……」」」

「あなたたちも、下がって」

 諜報員たちに、視線を向けたままで、優しげな声で、ローゼルたちほど、傷ついていないが、ブラークたちにも、下がるように伝えたのだった。

 ローゼルたちとは違い、ブラークたちは、簡単に引き下がっていく。


 そうした状況に、ニッコリと、笑みを漏らしていた。

「あなたもと言っても、下がらないでしょうね」

「当たり前だ」

 下がる気がないバド。


 首を傾げている、カテリーナだった。

「しょうがないですね。せっかく、身体を動かしかったのに」

「私もだ。このところ、研究ばかりで、身体を動かしていなかったから、動かしたかったのだ」

「あら、私と同じね」

 微かに、カテリーナの目が、見張っていた。

 ふふふと、微笑みに変わっていく。


「そのようだな」

 二人だけの会話に、置いてけぼりの諜報員たちだ。

 舐められた発言。

 憤慨している者が、続出していたのである。


 隊長の男は隙を狙っていたが、バドからも、カテリーナからも、一切の隙が見当たらなかった。

「落ち着け! 俺たちは、何をしに来たのか、思い出せ!」

 隊長の男の声で、殺気だった気が、次第に収まっていく。

「いけ!」


 諜報員たちが、一斉に、カテリーナや、ブラークたちに、向かっていった。

 離脱したからとって、素直に、諜報員たちも、見逃さない。

 立ち尽くしているカテリーナに、動じる様子がなかった。

 困った人たちと言う顔を、覗かせていたのである。


 躊躇いもなく、鮮やかで、威力のある魔法で、カテリーナが、目の前にいる敵を蹴散らしていった。

 即座に、ブラークたちが、対峙している諜報員に、連続で魔法を繰り出し、一人一人、攻撃を仕掛けていくのだ。

 誰一人として、カテリーナに近づくことも、傷つけることもできない。

 そうした隙に、ブラークたちが離脱し、戦況を窺っていたのである。


 魔法攻撃を受けた、諜報員たち。

 瞬時に、ポーションなど、呪文を駆使し、回復していく。

 そして、敵であるカテリーナに、挑んでいったのだった。


 彼らに、先ほどまでの嘲笑がない。

 すっかり抜けきり、強敵として、カテリーナを捉えていたのである。




 相手の様子を窺いながら、ブラークたちが、ローゼルたちの元へ、辿り着いていた。

 疲弊しながらも、ローゼルとダンは、緊張の糸を切らしていない。

 常に、周りに、気を配っていたのだ。

 勿論、ブラークたちが、近づいてくるのも、把握していたのだった。


「大丈夫か?」

 気軽に、話しかけるブラークに、目を細めている。

 元を質せば、ブラークたちに、巻き込まれたからだ。

 けれど、睨まれても、飄々としていた。


「それだけの元気があれば、大丈夫そうだな」

 鬼気迫る戦闘のせいで、ローゼルたちは、喋る気力がない。

 ただ、無言の睨みを利かせていた。

「これ」


 持っている薬草を、キムが、ローゼルたちに渡したのだ。

 それを使い、ローゼルたちは、回復に当たる。

 全回復とはならない。

 けれど、随分と、身体が、ラクになっていった。

 いつ、自分たちに、目が向けられるか、わからないからだ。


「一応、言っておくが、気は抜くなよ」

「「わかっている」」

 バドやカテリーナに、双眸を巡らせているが、決して、諜報員たちの存在も、意識からはずさない。

「こいつらの仲間じゃないやつらが、急に、出てくることもあるからな」

「「……」」


 気遣うような眼差しを、パウロが、ローゼルたちに注いでいた。

 ローゼルたちほど、肉体的に、疲労がなかったのだ。

 それに、こちらに来る前で、ブラークの回復の魔法を、掛けて貰っていたのだった。


「……久しぶりに、本気になっている……」

 キムの呟きに、誰もが、戦闘に興じているバドに、眼光を巡らせている。

 バド自身、一人の敵と対峙していた。

 他の諜報員と、格が違っていたのだ。


「別格の強さだな」

 感心している声を、ブラークが、漏らしていた。

 余裕で、戦闘を眺められるブラークとキム。

 訝しげるしかない三人だ。

 大丈夫なのかと、不安しかない。


 どう見ても、バドと対戦している男が、強かったからだ。

 そんな三人を放置し、二人の会話が続けられる。

「一時は、どうするかって、思ったけど。先生が来てくれて、よかった」

 安堵の表情を、キムが、覗かせていたのだ。


「だな。それにしても、随分と、駆けつけるのが、遅かったな。他の先生や警備は、どうしているんだ? たるんでいるんじゃないのか?」

「さぁ、どうかな」

 疲れと、気が抜けない状況の中で、ローゼルとダンは、文句が言えなかった。

 ただ、ジト目で睨むしか、できない。




 容赦ないカテリーナの魔法攻撃により、次々と、諜報員たちが、伸されていく。

 無駄のない、好戦的な攻撃。

 諜報員たちに、なすすべがない。


 自分たちの攻撃が、通じない上に、相手は、威力のある魔法攻撃をし続けていたのである。

 全然、余禄のある姿に、瞠目せずにいられない。


(((((何だ、このバケモノは)))))


(((((こんなのが、教師なのか)))))


 だが、引く訳にはいかない。

 ただ、カテリーナの隙を作り出すため、止めどなく、攻撃を仕掛けていった。


 激しい戦闘をしているはずなのに、誰一人として、学院側の応援が、来ることがなかったのだ。

 バドとカテリーナの蹂躙により、諜報員たちが、倒されていった。


 ほぼ、同時に、片づけた二人が、顔を見合わせている。

「まだ、まだ、スッキリしませんわね」

 困った顔を、カテリーナがしていた。


(((ゲッ)))


 顔が、引きつっている、ローゼルたち。

「確かに。物足りない」

「では、一緒にいきますか?」

「そうしよう」

 ブラークたちのことを、視界に捉えることもなく、物足りない二人が、森の奥へと消えていった。


「何なんだ……あれは」

 目を見張っているダン。

「先生って、あんなに、強かったんだ……」

 憧れを含む双眸を、ローゼルが滲ませている。

「どれ、拘束していくか」

「そうだね」


 ブラークとキムが、動こうとした途端、勢いよく、カイルが姿を現した。

 いきなりの登場に、ローゼルたちが絶句している。

 教え子がいるにもかかわらず、カイルは、目も傾けない。


「どうした? 諜報員たちは?」

「カテリーナ先生と、バドがしました」

 大きく、目を見開くカイルだ。

「カテリーナは?」


「バドと二人で、物足りないって言って、あっちに」

 二人が消えた方向を、ブラークが指差した。

 他の教師や、警備に知らせるため、花火を打ち上げ、脱兎のごとく、カテリーナたちが消えていった方向へ、カイルが駆け出していった。


「来る前に、さっさと、片づけておくか」

「うん」

 慣れたように、動き出す二人。


 けれど、ローゼルたちは、状況を飲み込めない。

 ただ、呆然と、目をパチパチさせていたのだった。



読んでいただき、ありがとうございます。

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