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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第124話

 森の中を、六人の集団が歩いていく。

 潜っている諜報員たちは、見逃すはずもない。

 息を潜め、気配を消し、彼らから距離を置き、慎重に窺っている。


 先に、探っていた仲間たちが、失敗したことにより、他国で、諜報している彼らを、急遽、呼び戻され、学院に、潜入することを命じられていたのだった。

 フォーレスト学院に、十二人が、投入されていたのである。

 彼らの多くが、納得いかない顔を、覗かせていた。


 先に入り、失敗した、同僚のことを嘲笑しつつ、こんな仕事に、自分たちを回すなと、上の者たちに対し、鬱憤を溜め込んでいたのだった。

 かなり距離を保ちつつ、バドたち六人の気配を、先ほどから、片時も離さない。

「他には。いないな」

「そうだな」


 生徒たちを守る警備や、教師たちが気配を消し、自分たちを、探っている可能性も、捨てきれなかった。

 そのため、念を入れて、注意深く、六人の周囲を探っていたのだ。

 ここを離れている、他の仲間は、別に所属している、諜報員たちに、自分たちが、見つけたターゲットたちのことを、知られないように、工作を施していたのだった。


「さくっと、片づけて、帰りたいものだ」

「本当だ。何で、俺たちが、ガキたちを探らないと、いけないんだ。元はといえば、あいつらが、失敗するから……。なんで、あいつらの尻拭いを、俺たちがしないと、いけないんだ? 他にも、いるだろう、こんな簡単な仕事が、できるやつらが」

 愚痴が止まらない。

 自国の仲間の間では、彼らは、エリートと見做されていたのである。

 今回の仕事で、その矜持を、かなり傷つけられていたのだ。


 上の者たちからは、甘く考えるなと、促されていた、彼らだった。

 そのことも、エリートとしてのプライドを、深く抉られていたのである。


 彼らは、他国での諜報活動を、いいところまで成し遂げていた。

 後少しで、新たな情報が、手に入っていたのだった。

 そうした状況下で、中断させられたのだ。

 誰一人として、面白くない。


「他のところも、随分と、手馴れている、凄腕の者たちが、入り込んでいるようだから、上の者たちも、焦って、俺たちを、入れたのかもしれないな」

 注意しつつ、逡巡していた。

「ここの警備や教師たちに、やられるって、あいつら、どれだけ、今まで遊んでいたんだ?」

 平凡な顔つきをした男が、訝しげな顔を覗かせている。


「その辺にしておけ」

「けどよ」

 不満げな双眸を、注いでいた。

「俺たちは、上からの命令を、ただ、遂行すればいい。そして、帰ればいいだろう」

「……わかった」


「わかったなら、手はず通りにいくと、隊長や、みなに知らせろ」

「了解」

 事前の打ち合わせは、でき上がっていたのである。




 森の中では、バドたちが、和やかな雰囲気もない、微妙な顔で、歩いていたのだった。

 刺々しい彼らに、獣や動物たちも近寄らない。

 遠巻きに、窺っていたのである。


 先頭を歩いているのは、ローゼルとダンだ。

 その後ろを、ブラークとキム、パウロとバドがいる。

 バドだけが、傲岸不遜な足を進めていた。

 他は、どこか、重そうにしていたのだった。


「なかなか、襲ってこないな」

 ぼやきを漏らすブラーク。

「この前のことがあるから、慎重になっているんじゃないの?」

 冷静な言葉を、何気に、キムが零していた。


「だろうな。お前らや、先生たちが、随分と、片づけたようだからな」

「「「……」」」

 魔法科三人の話に、押し黙っている、剣術科の三人だ。


 少し前に、生徒たちの実力探るため、各国の諜報員が、学院に潜り込んでいることや、近頃は、〈法聖〉リーブの子供である、リュートやミントの実力を、探るために入り込んでいる話を、聞かされたばかりだった。

 知った事実に、衝撃が隠せない。


(((リュートって、凄いんだな)))


「カレンがいなくって、よかった……」

「そうだね」

「カレンがいたら、また、怒っていただろうな」

 ついつい、ブラークが、遠い目をしている。

 諜報員と戦闘し、怒られたばかりだった。


 その光景を思い出し、身震いをしているブラークとキム。

「過敏過ぎる。卒業までは、続くんだからな」

 平然と、構えているバドだった。


「で、どうするんだ?」

 ブラークが、バドを窺っている。

 森の中では、風の音や、獣や動物たちが、動く音しか聞こえない。

 そうした中でも、しっかりと、バドたちは、諜報員の気配を感じ取っていた。

「何がだ?」

 言われた当人は、何のことだか、理解していない。


「俺たち、剣術科のこいつたちのことを、知らない。どう連携するだ」

「そんな粗末のことか。臨機応変に、やればいいだろう」

 容易いことだろうと言う顔を、滲ませているバド。

 それに対し、ブラークが、脱力感が否めない。

「……バド。今回は、かなりだぞ?」


「大丈夫だ。型通りにいけば、いい。後は、俺から、指示する」

 バドの言葉を、咀嚼できないであろう、剣術科の三人のため、ブラークが細かいことを口にしている。

「じゃ、剣術科三人が、前衛で、俺とキムが遊撃で、バドが後衛で、状況判断してくれ」

「いや。遊撃をやる」

 早速、ブラークの言葉を、ダメ出しを出すバド。

「おい」


「後衛がいなくっても、大丈夫だ。キム、お前が、遊撃と状況に応じて、後衛をやれ」

「……わかった」

 素直に、バドの指示に従う、キムである。


 逆らう体力と、精神力を、削りたくなかったのだ。

 苦虫を潰した顔を、覗かせているブラークも、同じだった。


「……と言うことだ、ローゼル、ダン、パウロ。わかったか」

 ローゼルたちに、この後のことを、ブラークが説明を行った。

 睥睨している、ダンの口が動く。

「俺とローゼルは、納得したが、パウロは、遊撃にしてくれ」


 このところ、能力が上がってきたとは言え、まだ、力を発揮するのに、ムラがあるパウロでは、荷が重過ぎると踏んで、変えて貰うため、ブラークに話したのだった。

 ダンの話を聞き、ブラークの双眸が、バドに注ぐ。

 何も、言う気配のないバド。


「……わかった。それでいい。だが、二人で、大丈夫なのか?」

「大丈夫だ」

 すでに、ダンとローゼルの顔が、引き締まっていたのである。

 この後に、起こる出来事に、しっかりと、腹を据えていたのだ。


 ただ、パウロだけが、落ち着きがない。

 そうした状況も考慮し、ダンが申し出たのだった。

 睨んでいたのは、僅かな反抗だ。

 そんなダンの仕草に、ブラークたちは、意に返さない。

 初見で、バドのことを、理解できるとは、思っていなかった。


「……集まってきたか?」

「そのようだ。随分と、やる気になっているな」

 口の端を上げている、バドだ。

 好戦的なバドの姿に、キムが、頭を抱えている。

 この後、ロクなことが、ないだろうと。


 諦めきっているブラーク。

 だが、瞬時に、待つか、奇襲をかけるかなど、様々なことを、巡らせていたのである。

 ここには、トリスやクラインが、いないからだ。

 いくらバドが強いからと言って、トリスとクラインが、いないのは痛手たった。

 自然と、面差しが、いつもより、真剣にならざるをえない。


「バド。正確な人数が、わかるか?」

 いくつもの気配を感じつつも、正確な人数が、特定できなかった。

「十二人だ。そのどれもが、相当なやり手だ」

 はっきりした口調のバドに、ローゼルたちが、目を丸くしている。


 ブラークやキムのように、いくつもの気配を感じているが、正確な人数や強さの把握まで、できていなかったのだ。

「わかった」

 そして、彼らの中での、揺るがない信頼感にも、驚きを滲ませている。


「珍しいね。警備や先生たちが、いないよ」

 複雑な面持ちで、キムが口にした。

 十二人と言う数に、少しだけ、ビビっており、援軍が必要だと、抱いていたのだ。

 近くに、警備の者や、教師たちが、見回りしているなら、すぐに、駆けつけて貰えるが、完全に、近くにいそうにもなかったのだった。


「だな。どうしたんだ?」

 僅かに、眉間にしわを寄せているブラーク。


 見回りをしている者たちは、別な場所で、交戦していた。

 そのため、この辺一体は、警備が、薄くなっていたのである。


「関係ない。行くぞ」

 隠れ潜んでいる、諜報員数人に向かって、いきなり、バドが魔法を繰り出していた。

 突然の挑発に、驚きつつも、誰もが、戦闘体勢をし始めている。

 文句を言っている暇など、なかったのだ。


 諜報員たちも、唐突な奇襲に驚愕するも、瞬時に対応し、誰一人として、離脱する者がいない。

 多少、ケガしているだけで、戦うことに、全然、支障がなかった。

 瞳をぎらつかせ、バドたちに向かっていく、諜報員たち。


 露わになった諜報員たちだ。

 次々に、そうした彼らを、視界に捉えていく。

 高揚していく中でも、ローゼルたちは、心が冷めていった。

「あいつ、何、考えているのよ」

 ローゼルが、不満の声を上げていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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