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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第123話

 村にナンパをしにいかず、ブラークとキムが、珍しく、学院に残っていた。

 だからといって、真面目に、授業を受ける気がない。

 食堂で、ダランと、過ごしていたのだった。


「カレン。少しは、気分転換できると、いいけど」

 どこか、不安げな眼差しを、キムが滲ませていた。

 彼らの前に、パンケーキと、飲み物がある。

 ほぼ、手をつけられていない。


 食堂に、疎らな生徒しかいなかった。

「だな。カーチス、弱っていたからな」

 若干、カーチスに対し、ブラークは負い目があった。


(カレンも、あそこまで、怒らなくっても……)


 徐々に、眉を下げているブラークだ。

「そうだね……」

 しょんぼりと、キムが頷いていた。


 先日、合コンに誘い、そのせいで、カーチスは、彼女であるカレンに、叱られていたのである。

 誰も、二人が付き合っていることは、把握しているものの、二人が、何も言わないので、やっかみを込め、ノリがいいカーチスを、ナンパや合コンに誘っていたのだった。

 今回は、相当カレンも、お冠のようで、カーチスに、過激な訓練を強いていた。

 その影響で、日に日に、弱っていくのを、垣間見ていたのだ。


 キムの双眸が、ブラークを捉えている。

「やり過ぎたかな?」

「……そうかも、しれないな」

「二人のために、何かできないかな……」

 キムの提案に、顔を顰めている。


 何度か、ブラークたちも、動いていたのだった。

 カーチスの様子が、いつもよりも、酷くなっていたので、もう、許してやってほしいと、頼んでいたのだった。

 だが、カレンに気圧され、それ以後は、何も言うことが、できないでいた。


 久しぶりに見た、物凄い圧を、放出していたのだ。

 この状態に陥ったカレンを、誰も、止めることができない。

 辛うじて、リュートの圧倒的な力で、覚醒させることがあっても、リュート自身が、面倒臭いと言って、放置することが多く、カレンが落ち着くまで、いつも戦々恐々と、やり過ごしていたのだった。


 思わず、溜息を吐く二人だ。

 思考し、二人の仲を、どうにか、元に戻せないかと、また、思案している。

 彼らなりに、今回は、いつも以上に、反省をしていたのだ。

 けれど、どうすればいいのかと、ウダウダと、時間だけが、経過していった。


「珍しいな」

 学院に、残っている二人に、バドが、軽く瞠目している。

 丸一日ほど、きちんとした食事を、していなかったことに気づき、食事をするため、バドが食堂へ訪れていた。

 それと、研究に煮詰まっている状況だったので、気分を変えるためでもあったのだ。


 食堂に、バドが、姿を現したことで、数人の生徒たちが、怪訝な形相を覗かせている。

 そして、自分の気配を消すように、幾人かが、食堂から姿を消していく。

 そうした彼らの気配を察知していたものの、何も言わない。


 ブラークやキムは、あんぐりと口を開けたままで、気づいていなかったのだ。

 近くに来て、声をかけるまで、バドの存在に、二人が気づかなかった。


「「バド」」

 バド以上に、目を丸くしている二人。

 瞬く間に、身体を、強張らせている。

「「……」」


 逃げようか、どうかと、目を彷徨わせている二人に対し、瞬時に、二人の思考を読み、ほくそ笑んでいたのだ。

 さらに、二人の身体が震え、戦慄していく。


「「……」」

「何を考えてる?」

 少し、低めのバドの声音。

 ますます、恐怖が、増幅していった。

「「……何も」

 二人の顔が、引きつっている。


 バドのことを知らず、残っている生徒たちは、三人の様子に気づかない。

 各々、好き勝手していたのだった。


「そうか? 何か、よからぬことを、考えていたんじゃないのか?」

 不敵に笑っている、バドだ。

 さらに、圧を深めていく。

「「……はい。考えていました」」

 簡単に陥落し、従順な態度になっていた。


 肩を落とす二人を捉え、先ほどまでの圧が、霧散していった。

「ま、いい。ところで、何をしている?」

 二人の前にある、ほぼ、手がつけられていないものに、視線を注ぐ。

 バドに促され、ばつが悪そうな顔を、二人が滲ませていた。


 互いに、顔を見合わせる。

 そして、重い口を開いたのは、キムだった。

「カーチスと、カレンのことを、考えていたんだ」

「まだ、カレン、怒っているのか」

 意外な顔を、バドが覗かせている。


 研究で籠もるバドであるが、カレンと、カーチスの一件のことは、すでに、承知していたのである。もうすでに、時間が経っていたので、元の鞘に、収まっているものと、捨てていたのだった。

 バドの言葉に、苦虫を潰した顔を、ブラークが滲ませていた。

「まだだ。今回は、相当、怒っているみたいで、カーチスが、酷く疲弊している」

 僅かに、目を眇め、居た堪れない二人に傾けている。


「元はといえば、お前たちだろう」

「「……。すいません」」

 消沈している二人だ。

 反省している姿を、さらに、どん底まで、落とすこともないと抱き、軽く息を漏らした。

「……で、カレンとカーチスは?」


「リュートたちと、コンロイ村に行った」

 ブラークが、口にした。

 リュートたちに誘われ、二人が、コンロイ村に行くと聞いた際は、少しでも、カレンが気分転換できればと、願っていたのだ。それと、二人の仲が、元にも取ればと、安易に巡らせていたのである。


「あれに、行ったのか」

 勿論、リュートから、遊びに行かないかと、バドも、誘われていた。

 けれど、研究していた、真っ最中だったので、そんな暇はないと、一刀両断していたのだった。

「クラインが、上手く、誘ったみたいだぞ」


「クラインなら、上手く、カレンを、落ち着かせることも、できるだろう」

 納得いく顔を、バドがしている。

 昔から、世話役を買って出ているクラインが、二人の間に入り、カレンを落ち着かせていたことを、把握していたのだった。


「だね。リュートだと、さらに、悪化しそうだし、トリスも、何だかんだ言っても、リュート以外のことは、面倒臭いとか言って、放置していそうだしね」

 キムの発言に、そうだなと、ブラークとバドが、同意している。

 リュート以外の面倒ごとに関しては、極力、トリスは、放置するスタンスだった。


 クライン自体も、程ほど、関知することはない。

 だが、度を越しそうな際は、クラインは率先して、沈静化させるように、動き回っていたのだ。

 クラスの中の、中和する役割を、クラインが担っていたのだった。

 バドも、リュートと同属の面があるので、自分に、降りかかろうとしない限り、決して動くことがなかった。


「クラインが、失敗することもない」

 絶対的な信頼を置く、バドだ。

 堂々とした姿に、ブラークとキムが、そうだなと、安堵を覗かせていた。


 突如、バドの瞳の奥が、きらりと、光っている。

 二人は、不穏な空気を嗅ぎ取っていた。


「少し、動きたい。付き合え」

 口の端が上がっている、バドの姿。

 徐に、二人の顔が歪んでいる。

「やだよ」

「最近、やったばかりで、静かに、過ごしたいだけど」


 彼らなりに、抵抗を試みていた。

 先の諜報員との戦闘に置いて、少し、疲弊していたのだった。


「ダメだ。付き合うことは、決定事項だ」

「「……」」

「しっかり食事をして、動き回るぞ」

 さらに、悦を深くしていた。

 これ以上は、無理だと、がっくりと、二人が首を落としている。


「何をしている、さっさと食べろ。後、私から、逃げそうとするなよ」

 バドの眼光。

 ただ、ただ、二人は、気圧されていた。

「「……わかっている」」


「なら、いい」

 軽やかな足取りで、カウンターに向かっていく、バドの背中。

 曇よりとした眼差しで、見つめている二人だった。




 しっかりと腹を満たし、三人が、学院を探っている、諜報員を相手にするため、森へと向かっている途中で、剣術科のローゼルと、ダン、パウロたち三人と出くわす。

 ローゼルたちは、自主練をするため、剣術科で、よく使用しているグランドへ、向かっていたのだ。


 何かと、諍いを起こすローゼルとダン。

 だが、更なる高みを目指すため、一緒に訓練をすることもあったのだった。


 最近、会ったばかりのバドの顔を見て、顔を曇らせ、戦闘する構えを見せるローゼルたち。

 クラスメートでもある、テロスたちを伸した、リュートの友達であり、ミシャール王国の公爵家の五男である魔法科のバドの存在に、興味を抱いていたのである。


 そして、なにやら、バドのことを知っているであろう、クラスメートのマールは、決して、バドのことを、口にしようとはしなかったのだ。

 そのことも、興味をそそる一因でもあった。

 それと、仲間であるクラスメートがやられ、そのままでいることも、剣術科の生徒としての矜持が、許せなかったのである。


「バド。剣術科にも、手を伸ばしているのか」

 呆れ気味な、ブラークの声音だ。

「リュートのクラスメートだ」

 バドの言葉に、ブラークとキムが目を丸くし、厳しい顔をしている、ローゼルたちを窺っていた。

「「へぇー」」


 好戦的な眼差しを、徐々に、ローゼルが巡らせてくる。

 最近、クラスメートになったリュートに、匹敵するような実力があるバドに、ついつい、畏怖を抱きつつも、自分の実力が、どれくらいあるのかと、試したい気持ちが、勝っていたのだ。

 ダンとパウロは、警戒心を露わにしている。


「テロスたちが、お世話になったようね」

「ま、そこそこな」

 二人の短いやり取り。

 何があったのか、容易に、把握するブラークとキムだ。


((やれやれ……))


「ローゼル!」

 険しい顔で、ダンが窘めた。

 ローゼルとは逆に、興味よりも、畏怖の方が上だった。

 二人に顔を巡らせると、ダンが、首を振っていた。

「……」


「やらないのか?」

 口角を上げ、悠然と、バドが構えている。

 傲慢と言う言葉が、とても似合う男だった。


「……やめとくわ」

 容易く、戦闘の構えを解く、ローゼルだ。

 小さく、ダンたちが、息を吐く。

 ブラークとキムは、戦闘になろうが、ならまいが、どちらでもよかったのだ。


「そうか。なら、付き合え」

 命令口調のバドだ。

 三人が、眉を潜めている。


「いいのか、バド。楽しみが、減るんじゃないのか?」

 意外そうな顔を、ブラークがしていた。

「大丈夫だ」

 バドの決定事項に、逆らう者など、多くはいない。

「……わかった」

 諦めモードのブラーク。


「付き合えって、何のこと? 私たちは、忙しいのよ」

「悪いが、俺たちは、これから訓練なんだ」

 ダンの横で、パウロが頷いている。

 三人の脳裏に、覇気のない、テロスたちの姿を、掠めていたのだ。


「訓練だったら、ちょうどいい。それに、安心しろ。実験ではないから」

 ますます、バドの言葉が理解できず、訝しげな三人だ。

「バドの言う通りだ。今回は、バドの実験じゃない。それに、バドが決めたことだ、諦めろ。それと、訓練するなら、これほど、いい訓練はないぞ。リュートがいないが、ここには、バドがいる。だから、そうやられることもない」

 三人の気持ちを、ブラークが解そうとしていた。


「そういうことだ」

 満面なバドの顔だ。

「それに、バドの機嫌を悪くすると、後で、大変だよ」

 困ったような顔を、キムが覗かせていた。


 ローゼルと、ダンたちは、顔を見合わせ、渋々、バドたちと、行動を共にすることを承諾する。

「行くぞ」

 説明もしないまま、意気揚々と、歩き出すバド。

 その後を、ブラークたち五人が、ついていった。



読んでいただき、ありがとうございます。

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