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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第122話

 安穏とした保健室とは違い、広いグランドでは、曇よりとした表情で、カイルは、授業で生徒が使用する武器の点検を行っている。

 生徒たちは、次の授業をいった者や、空き時間となり、どこかへ行ってしまい、生徒たちは、誰一人として、残っていない。


 手伝っているのは、カイル同様に、剣術科で、教師をしている、グリフィンとスカーレットだ。

 カイル一人では、大変だろうと、二人は時間もあったので、手伝っていた。


 三人の顔に、曇よりと、疲れが滲んでいる。

 グランドの脇に座り込み、黙々と、汚れている武器を磨いていたのだ。


 自分たちで、直せるものは直し、直せないものに関しては、専門の職人に渡すため、選別を行っていたのだった。

 教師によっては、生徒たちにさせることも多い。

 だが、安全のため、カイルは、自分自身の目で、しっかりと、確かめていたのだ。


「リュートたち、出かけたんだろう?」

 修復していた手を止め、グリフィンが、選別作業を行っているカイルに、双眸を巡らせている。

 気心が、知れていることもあり、三人でいることが多い。

「ああ」


「久しぶりに、静かね」

 しみじみとした声音を、スカーレットが漏らしていた。

 真っ赤な、トレードマークの髪が、とても目立っていたのだ。

 いつもより、艶やかさが、失われている。


 教師としての仕事以外にも、見回りの仕事や、デュラン、ラジュールの実験に、つき合わされ、過重労働を、何かと強いられていたのだった。

 そのため、一切、覇気がない。

 どこか、瞳も虚ろだ。


「確かに。でも、うろちょろしている連中が、減らないのは、なぜだ……」

 遠い目をしている、グリフィン。

 このところ、諜報員の数が、激増していたのだ。

 いったん、有望な生徒たちを、発掘しようとする諜報員の数は、減っていたのだが、近頃、一段と、その数が、増えてきていたのである。


 苦々しい顔を、カイルが覗かせていた。

「落ち着くだろうと、思っていたのに……」


 スカーレットも、グリフィン同様に、頑張れば、落ち着くと、楽観視していたのだった。

 だから、頑張れたと言うこともあった。

 デュランの実験に、つき合わされてもだ。

 それが、どういう訳か、また、諜報員の数が、増えていたのである。


「仕事が、増えるな……」

 うな垂れ気味に、グリフィンが、愚痴を吐露していた。

 同時に三人が、がっくりと、首を落としている。


 何の情報も、得られない機関が、意地になっていたのだ。

 そのため、多くの人材を、フォーレスト学院に、終結させていたのである。

 何が何でも、情報を得ようと、躍起になり、必死になっていた。


 リュートたち生徒に、してやられたのも大きいが、デュランやラジュールの実験の餌食になったのも、相当、大きかったのだった。

 そうとは知らない、カイルたち学院側だ。


「話によると、かなりに、腕利きが、来ているみたいだぞ」

 スカーレットの話に、カイルが、盛大な溜息を零している。

「大丈夫か? カイル」

 少し、哀れみの眼差しを注ぐグリフィン。


「……教師なんて、なるもんじゃないな」

 ぼやきしか、出てこない。

「だな。教師なんて、もっと、ラクなもんだと、思っていた」

「私も」

 三人同時に、嘆息を吐く。


(((腐れ縁も、長いな……)))


 学院に、リーブがいないだけで、いつも、釣るんでいたメンバーが、教師として、勢揃えしていたのだ。

 ここに、リーブさえいれば、当時、遊んでいた仲間たちが揃っていた。

 常に、彼らだけで遊び、騒動が置き、カイルたちが、巻き込まれる形となっていたのだった。


 年は違っていたが、同級生で、孤立していた魔法科の面々や剣術科のカイルに、お節介で面倒見のいい、グリフィンやスカーレットが、何時しか、一緒に行動するようになっていたのである。

 剣術科の三人は、卒業後、それぞれ、外の世界へ、飛び出していたが、各々、いつの間にか、学院に戻ってきていたのだ。


 魔法科のデュラン、ラジュール、カテリーナは、卒業後そのまま、教師として、残っていたのである。

 残った三人は、ことあるごとに、外に出て、好きなことをしていたので、卒業後に、外の世界へ、行かなくても、同じだろうと、安易に、教師としての仕事についたのだ。


 卒業したスカーレットや、グリフィンは、何度も、デュランやラジュールから、研究を手伝わされ、結局、仕事場に、迷惑をかけることも多く、仕事関係の人間関係に、嫌気がさし、教師として戻ってきていた。

 納得する実験のため、何度も、呼び出されていたのだ。


 世界を放浪していたカイル。

 カイル会いたさで、何度も、カテリーナが、会いに来ていて、彼女の願いもあり、教師として、戻ってきた口だった。

 三人とも、ほぼ、同じような理由で、学院に帰ってきていたのである。


 また、溜息を吐いていた。

 伏せていた顔を、上げるスカーレット。

 一つに、三つ編みしていた赤毛が、少ししょんぼりと、揺れている。


「何で、湧くんだ。あいつらは」

 唐突に、立ち上がって、スカーレットが吐き捨てた。

 その双眸は、ぎらついている。

「諦めろ。……リュートたちがいる間は」

 死んだ目をしたままのグリフィン。


「忘れているぞ。ミントがいる」

 カイルが、余計な一言を、突っ込んだ。

「「……」」

 空しくなり、スカーレットが腰を下ろした。


「それに、デュランやラジュールがいるんだ。真面目に、仕事をするとは思えない……。あの二人の頭にあるのは、新たな発見だからな」

「「……」」

 三人の脳裏。

 ほぼ、仕事を放棄している、二人の顔を掠めている。

 もう一度、三人が、盛大な、溜息を吐いた。


 《瞬間移動》で、三人の目の前に、デュランが姿を現したのだ。

 突如、話題の一人である、デュランの姿に、三人が、目を丸くしている。


「探したぞ。スカーレット」

「えっ、私?」

 マヌケ面を、滲ませているスカーレットに対し、カイルやグリフィンは、どこか、ホッとした顔を、覗かせていたのだった。

 自分ではないと。


「実験に、付き合って貰うぞ」

「何で、私なんだ。いつも、いつも」

 デュランの指名の多さでいくと、断トツで、スカーレットが、多かったのである。

 ことあるごとに、スカーレットを指名していたのだ。

 不足や、実験が足りないと思うと、グリフィンやカイルも、問答無用で、呼び出しを喰らっていたのだった。


「決まっているだろう。使い勝手が、いいからだ」

「私は、デュランの下僕じゃない」

 このところの鬱憤が溜まり、スカーレットがキレ、とうとう、吐き出していたのだ。


 目を細めているデュラン。

 憤慨しているスカーレットを捉えている。


 身体が強張っていたが、急速に回復し、デュランを半眼していた。

 今日は、負けないぞと、意気込んでいる。

 それに対し、段々と、デュランの双眸が、冷え込んでいった。

 次第に、耐えられなくなり、スカーレットの瞳が、宙を彷徨っている。


「……終わりか?」

 ゴクリと、つばを飲み込む、カイルとグリフィン。

 デュランの圧に、何も言えない。

「……私は……、いかない」

 徐々に、最初の勢いがなく、歯切れが悪かった。


「スカーレット。お前は、俺の下僕だ。俺の言うことを、聞いていればいい」

 デュランの発言に瞠目し、フリーズしている。

「いいから、来い」

「……いやだ」

 反抗し、スカーレットが暴れていた。


 僅かに、感心した眼差しを傾けていたのだった。

「来ないのか?」

「……」

「そうか」

 いつもの、有無を言わせない顔を、見せないデュラン。


 その姿に、覚束なくなっていく。

 けれど、絶対に、揺るがないぞと、踏ん張っているスカーレットだった。


 こんな、ブレブレの姿を、生徒たちの前では、決して見せられない。

 頼もしい教師の一人として、スカーレットは、生徒たちの中で、慕われていたのだった。

 途方に暮れたような顔を見せるのは、親しい彼らの前だけだ。


「そうか、来ないのか」

「……」

「そうか、そうか」

 不気味に、笑っているデュランである。


「……どうしてもって、言うなら……」

 頼りなく、さらに、瞳が揺れていた。


((負けたな))


 哀れみの眼光で、カイルとグリフィンが、捉えていたのだ。

 ニヤリと、口角が上がった途端、いきなり、スカーレットの首根っこ辺りの服を掴み、視線の矛先を、カイルとグリフィンに巡らす。


「後は、頼む。それと、カテリーナが、森で、遊ぶようだぞ」

 言いたいことだけ言って、瞬く間に、デュランとスカーレットが消えた。

「はぁ!」

 瞬時に、立ち上がるカイルだ。

 森の方へ、双眸を巡らせ、持っていたものをすべて、投げ捨てていた。

 あっという間に、カイル自身が、森の中へと、いってしまう。


 止める暇もなく、駆け出していったのだ。

 一人だけ、グリフィンが、残っている。


 元々は、グリフィンの仕事ではなかった。

 ただの、手伝いだった。


「……スカーレットの分まで、やるしかないのに……。カイル、お前まで、仕事を投げ捨てていくなよ」

 呆れた眼差しで、消えていった森に、瞳を傾けていたのだった。

「大体、カテリーナが、やられる訳がないだろうが……。あの親衛隊も、いるのに……。ホント、カテリーナのことになると……」


 ふと、無駄なことを、考えることをやめる。

 グリフィンは、カイルの仕事を、一人で、黙々としていたのだ。

「終わったら、飲みに行こう……」

 

読んでいただき、ありがとうございます。

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