第121話
新年、おめでとうございます。
今年、最初の投稿となります。
穏やかで、静かな時間が、保健室に流れている。
グリンシュと、カテリーナしかいない。
保健室を、利用する生徒も、いなかったのだ。
このところ、保健室にリュートたちが、頻繁に訪れていたので、利用する生徒が、減少していたのだった。
そして、騒がしいメンバーが、いないと言うこともあり、学院全体が問題もなく、安寧の休息を味わっていたのである。
自分で、焼いたケーキを咀嚼し、目の前にいるカテリーナに、視線を巡らす。
晴れやかな笑顔がない。
どこか、気鬱そうな姿だ。
彼女が、何を思い悩んでいるのか、長年の付き合いがあるグリンシュは、理解していたのである。
食べてくれるリュートや、ミントがいないため、若干少なく、テーブルにお菓子などが並べられていた。
「今は、ここを離れたく、ありませんか?」
唐突な、グリンシュの問いかけだ。
ハーブティーを、飲もうとしたカテリーナ。
飲まず、カップを戻し、佇まいを直した。
「……はい。カイルが、とても心配です」
ストレートに、返した。
とても、綺麗なカテリーナの瞳。
カイルのことを案じ、お出かけ好きなカテリーナが、学院から、離れることがなくなっていたのだった。
だからといって、学院に残っていても、雑務をしようとはしない。
グリンシュとの、お茶会をしていたのだ。
「……そうですか。だから、リュートたちに、お使いを頼んだのですね」
「はい。グリフィンや、スカーレットでも、よかったのですが」
「確かに」
自身が、いけない際は、いつも、友達であるグリフィンたちに、頼んでいたのだった。
グリフィンや、スカーレットも、いろいろと、仕事があることを気にしない。
頼み事をするのは、当たり前なのである。
「思い出した時に、たまたま、リュート君たちがいたので」
ニッコリと、微笑む。
カテリーナのお願いを、聞く者は、他にも、たくさん存在していた。
この場で、誰かと声をかければ、すぐに、誰かが、姿を見せるぐらいには。
「リュートたちも、身体を休めることが、できれば、いいのですが」
グリンシュの双眸が、遠くに馳せている。
「そうですね。でも、リュート君たちなので、絶対に、何かに、巻き込まれるのでないかしら?」
コテンと、首を傾げている。
巻き込まれるのが、当たり前と言う認識が、彼女の中で存在していた。
「昔の、あなたたちのように?」
意味ありげな眼差しを、グリンシュが注いでいる。
どこまでも、無邪気なカテリーナだ。
「はい」
「大変そうですね」
「楽しいですよ」
「久しぶりに、皆と、遊びたそうですね」
「そうですね。いきたいですけど、無理ですからね」
哀しげに、溜息を零す。
カテリーナなりに、忙しいのだった。
それに、仲間たちも多忙で、遊ぶ暇などない。
学生時代は、よく遊んでいた。
とても充実する学生時代を、送っていたのである。
「ですね。デュランやラジュールは、思うような実験が、できないと、何やら、検証しているようですが? リーブに関しては、なかなか、難しいでしょうね」
同期であるデュランや、ラジュールも、彼らなりに、何かと、慌ただしい日常を、送っていたのである。
勿論、カイルも、グリフィンやスカーレットと共に、見回りの仕事をしない、デュランたちに成り代わり、仕事をこなしていたのだった。
苦労している三人ではあるが、その中でも、真面目なカイルは、いろいろなことを背負い込んでいることもあり、誰よりも、揉まれていたのである。
「そうなんです」
「致し方ないですね」
「はい」
しゅんと、落ち込んでいる。
そうした姿に、眦を下げているグリンシュだった。
「少し、ストレス発散でも、してみますか?」
やや首を傾げている。
その姿は、とても愛らしかった。
手を口元に置き、思案してみせる。
「……そうですね。少し、動いてみましょうか」
「えぇ。私も、この前、動きましたが、少しだけ、スッキリしましたよ」
「そうですか」
頬を上げ、笑顔を滲ませている。
多くの人が、この笑顔に、魅了されていくのだ。
スッと、カテリーナが、立ち上がった。
「では、少し、遊んできますね」
「えぇ。楽しんで、来てください」
ゆっくりとした動作で、カテリーナが、森の中へと消えていく。
その足取りは、いつもより、軽やかだった。
グリンシュが、優雅な仕草で、紅茶を口にしていた。