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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第120話

 女子の部屋では、トリス兄弟のことで、話が盛り上がっている。

 先ほどの異様な食事風景を、顔を顰めつつ、セナが、思い返していた。

 セナたちは、すでに身軽な服装に変え、いつでも、寝られる状態になっていたのである。

 勿論、何が、あってもいいように、動けるような格好だ。


 お菓子や飲み物を、部屋に持ち込み、まだまだ、起きていようとしていた。

 不意に、食事の際から、ずっと、不貞腐れているミントに、視線を注ぐ。

 三人の会話に、一人だけ、入っていない。

 注がれている視線。


 ミントは、完全無視を決め込んでいる。

 一人で、用意されている、お菓子を食べていた。

 自分自身の感情を、持て余していたからだった。

 カレンも、アニスも、気遣うような眼差しを向けていたのだ。


「あんなに、喋っているリュートの姿を見たのは、初めてかもしれない」

 髪を下ろし、リラックスしているセナ。

「意気揚々としているところは、何度も、見ているけど。あんなに、饒舌に話しているところは、見たことはないかも」

 セナの話に、耳を傾けている二人だった。


 一年生の頃から、リュートの姿を、振り返っているカレン。

 記憶の中にも、あれほど、饒舌の喋る姿がない。

 いつも、つまらなそうな表情だった。


「そうですか? よく、見ますけど?」

 一人だけ、アニスが首を傾げている。


 セナとカレンの、大きく見開いている双眸が、アニスを捉えていた。

 突如、見られ、狼狽えるしかない。

「えっ、何か、変なこと、言いましたか?」


「「だって、アニスは、あんなリュートの姿、見たことあるの?」」

 半端ない、二人の眼光。

 ただ、ただ、気圧されるだけだった。

「……はい」

 か細い返事しか、できない。


「「どこで!」」

 さらに、距離を詰められ、食い入るように、見つめられている。

 たじろぎ、逃げ場を、ついつい、求めてしまう。

 けれど、どこにもない。

 揺れ動く、ラベンダーの瞳だ。


「……本のことで、話したりすると、ああ、なりますよ」

 本だけではなかったが、仲のいいカレンにも、二人だけの訓練のことは、秘密だったので話せなかった。

 アニスの背筋には、汗が流れている。

 二つの眼光に捉えられ、視線を、剥がすことが許されない。


「「本だけで!」」

 信じられないと言う顔を、二人が覗かせている。

 アニスの言葉を、完全に、鵜呑みにしていたのだ。

 疑っていない二人。


 そんな二人を、訝しげに、アニスが見つめている。

 嘘を言っていない。

 だが、すべてを話していないことに、僅かに、罪悪感が芽生えていた。


 もう、アニスのことを、見ていない二人だった。

「そんなに、読むのが好きなの?」

 剣術科では、剣を振って、稽古しているイメージしかなかったのだ。

 後は、遊んでいるところしか、見ていなかった。


「確かに。好きかも」

 それに対し、カレンは、何度も、読書をしているリュートの光景を、目にしてきたのだった。

「マジで」

 目を見開くセナ。

 コクリと、頷くカレンだった。


「いたずらをしないで、おとなしくしている時は、大抵、本を読んでいるから」

「へぇー」

 驚きを隠せない。

「剣術科では、読んでいないの?」

「剣を振って、稽古している感じ」

「あのリュートが? 真面目に、修行しているの?」

 セナの言葉に、カレンが、瞠目していた。


「物凄い、集中力で」

「マジで!」

 カレンの中のリュートは、一切、修行をしなかったからだ。

 真面目に、授業を受けているとは、聞いていたが、どこか、半信半疑なところがあったのだった。


「魔法科では、しなかったの?」

 愕然とした顔を、セナが滲ませている。

「リュートが、真面目に修行しているところ、一度も、見たことがない」

「一度も?」


「そう、一度も」

「……」

「それで、学年で、一位を、誰にも、譲ったことないんだから、凄いでしょう」

 首を縦に頷く。


 剣術科では、稽古や、真面目に授業を受けている、リュートだったが、セナ自身としては、まだまだ、不真面目なところがあると、眉を潜めていたのだ。

 けれど、以前から、トリスから、天才的なリュートの話を聞いていたものの、どこか、トリスの言葉だから、眉唾ものだと、すべてを信じていた訳ではなかった。


 だが、徐々に、そうした噂話を、受け入れ始めている最中だった。

 友達となった、カレンの言葉を耳にし、ようやく、破天荒でありながらも、リュートが、天才だと言うことを、骨身に染みた気がしていたのである。


(リュートって……)


 同じ人なのに、こうも違うのかと、セナが抱いていた。

「レポートだって、何も調べたり、文献を読んだりしないで、その場で、スラスラと書けるのよ。腹立たしいのを通り越して、呆れるしかなかった」


 ラジュールからの、課題を告げに言った際、その場で書き、渡すように、頼まれたことがあったからだ。

 渡された課題のレポートを、読んだことがあり、書かれている内容に、自分では書けないぐらい、詳細に、的確に、書かれていることに、絶句したことを、カレンが掠めていたのだった。

「……」


「今、思えば、時間潰しに読んでいた本が、リュートにとって、勉強だったのかもしれないわね」

 遠い目をするカレンだった。

 二人の話を黙って、耳にしていたアニス。


(凄いな、リュートは)


「アニス。リュートって、普段、どんな本を、読んでいるの?」

 興味のある眼差しで、セナが、アニスに顔を巡らせていた。

「様々な本ですね。後は、ビブロス先生の、お勧めの本なんかを、読んでいますよ」

「ビブロス先生って、〈第五図書館〉の司書よね」

 知っていることを、カレンが、口に出していた。


 二人の興味が、得体が知れない、ビブロスに変わっていく。

「そうなんだ。私、〈第五図書館〉って、一度も、いったことがないかも」

「私も、いったことがないの。あそこって、辺鄙な場所に、立っている上に、どうしても、雰囲気が馴染めないし……、それに、大抵は、近くの図書館で、間に合うから」


(わからなければ、リュートやクラインに聞けば、よかったしね)


「そうなんだ……」

 カレン以上に、セナは、図書館を利用していないので、図書館のことを、よく知らなかったのだ。

「随分と、そのビブロス先生って言う人と、リュートのやつ、仲良くしているみたいだけど?」

「私も、それを聞いて、びっくりしちゃった。あの先生って、何か、怖いような気がして。人を近寄せないって言うか……」


「そんなことないよ、カレン。ビブロス先生は、優しいよ」

 アニスの言葉に、信じがたいと言う顔を、カレンが覗かせている。


 カレン自身、何度か、ビブロスを、見かけたことがあった。

 挨拶をしても、こちらを窺うだけで、話が続かなかったのだ。

 そうしたことが続き、見かけても、声をかけなくなっていった。


「鋭い眼光で、睨まれないの?」

「確かに、そういうところが、あるかもしれないけど。困ったことがあったら、本の相談ものって貰えるし、いろいろな話をしてくれるよ」

 食い入るように、二人が、アニスを捉えている。

「……えっ、何?」


「「……図書館で、仲良くなったんだ」」

「……うん」

 見つめられているだけなのに、物凄く、気圧されていく。

 追い詰められていることに、まだ、気づかない。

「「で、リュートのこと、どうなの?」」


 同時に、二人が、口の端を上げている。

「……どうって?」

「どういう、印象なの? リュートのこと、昔は、あんなに怯えていたのに」

「それ、トリスから聞いた」


 カレンとセナが、顔を見合わせ、どれほど、アニスが怯えていたのか、カレンが教えていたのだった。

 そうした隙に、逃げ出そうと目論む。

 そっと、二人から、離れようとした途端、アニスの両脇に、カレントセナが立ちはだかったのだ。


「「逃げは、許さないわよ」」

「……」

「「きっちりと、吐きなさい」」

「……怖いよ、二人とも」


 ふふふと、不敵に笑うカレンとセナだ。

 一人、蚊帳の外にいたミント。

 未だに、ソルジュに対し、モヤモヤとする気持ちに、眉を潜めていたのだった。



読んでいただき、ありがとうございます。

今年、最後の投稿となります。

来年も、読んでいただければと願っています。

よいお年を。

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