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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第118話

 宿屋に着くと、リュートたちは、ユルガたちと、一緒に食事を取っていたのである。

 お金を、無駄遣いしたくないソルジュだった。

 けれど、リュートからのお誘いを、断ろうとする。

 一緒の方が、楽しいでしょうと、ユルガが、リュートと二人して、勝手に決めてしまっていたのだ。

 そのため、普段の食事よりも、品数も多く、豪華な料理が、テーブルに並べられている。


 質素倹約に、ソルジュが、財布のひもを握っていたのだった。

 せめてもの救いは、支払いが、リュートたち側だったことだ。


 目の前の状況に、嘆息しか出てこない。

 せっかく、今日、稼いだ分が、飛ぶ可能性も、あったからだ。

 結局のところ、師匠であるユルガの意向に、逆らえなかった。

 勿論、ユルガは、ちゃっかりと、葡萄酒も、頼んでいたのだ。

 抜け目がない、ユルガの姿。


 僅かに、眉間にしわを寄せ、歯噛みしている。

 人がいる前で、注意できないと見越し、ユルガの方も、リュートたちを離さない。

 これ以上、叱られたくなかったのだ。

 着の身着のままのユルガに対し、ソルジュが、小言を漏らすことが多かった。


 食事をしながらも、リュートは、ソルジュに、いろいろと話しかけている。

 それに対し、律儀に、ソルジュが答えていたのだ。

 最近、読んだ本の内容から、行った先のことなど、様々だった。

 よどみなく、答えている姿勢。


 その間、トリスとソルジュが、話すことがない。

 まして、視線を合わすこともなかった。


 いつしか、専門的な知識も加わり、話が途切れないリュートだった。

 ここまで、饒舌なリュートの姿を、学院でも、見ることがない。

 ただ、ただ、ぽかんと、口を開けているカーチスたちだ。

 ソルジュに対しても、知識の多さに、驚愕させられていたのだった。


(((((頭がいい。リュートに、ついていけるなんて)))))


 ふと、カーチスたちは、トリスとソルジュが、まともな会話をしていないことが、気になっていた。

 先ほどから、ミントは、一言も喋っていない。

 黙々と、食事を取っていたのだ。

 どこか、不貞腐れているようでもあった。


 異質な光景だった。

 自然と、カーチスは口を閉ざし、彼らの様子を窺ってしまう。

 トリスが、主に話をしていたのは、ユルガで、旅先でのソルジュの話を、真摯に聞いていたのだった。

 二人が、何を話しているのかと、リュートと話をしながらも、ソルジュは、聞き耳をしっかりと立てていたのだ。


「ソルジュは、先生の、お役に立てていますか? 旅に出る前は、一度も、旅なんてしたことがなかったので」

 少なくなっている葡萄酒を、トリスが注ぎ淹れる。

 頬を、緩ませているユルガ。


 チラリと、ソルジュが目撃しているが、何も言えず、苦々しい顔を覗かせていた。

 ユルガの健康管理も、ソルジュが、行っていたのである。

 ソルジュがしないと、健康に無関心で、食事を取り忘れるほどだ。


「大丈夫。教えれば、すぐに憶え、今では、私以上に、手馴れている感じです」

「そうなのですか?」

 嬉しそうに、微笑むトリス。

 弟が、褒められたからだ。


「近頃は、叱られてばかりで」

「賢者様に、失礼なことを」

「いやいや。私が悪いので。でも、ついつい、やめられなくって。どうも、欲しいものがあると、今後の路費のことも忘れて、浪費してしまうですよ」

 困ったように、眉が下がっているユルガだ。


「そうなのですか?」

 目を丸くしているトリスだ。

 他人と、かかわろうとしないソルジュのことを、家族が気にするほど、村でのソルジュは、家族から離れ、村人からも、距離を置き、過ごしていたのである。

 そうしたソルジュが、ユルガの面倒を見ていることに、瞠目せずにいられない。

 そして、そうした変化に、口角が上がっていた。


「えぇ。探究心には、勝てません」

「でも、探究心は必要ですよ」

「ですよね」


 目を輝かせるユルガ。

 自分と、同じような人を見つけてだ。

 さらに、口が止まらなくなっていく。

 トリスが、付き合っていたのである。


(スイッチが、入ってしまった……)


 嬉々なユルガの姿を垣間見て、ソルジュが、小さく溜息を漏らしていた。

「どうした? ソルジュ」

「何でもない」

「そうか」

「へぇー、剣術科に、移ったんだ」

 微かに、ソルジュの目を見開いている。


 実家へ帰っていなかったので、知らなかったのだ。

 魔法科から、剣術科に、転科したことを、話の流れで、口にしていた。


「そうなんだ、ソルジュ」

 剣術科の話に、興味を持って貰えたので、楽しそうなリュート。

「何で、また?」

 村で、過ごしていた際も、リュートが、剣術に興味を憶えていたとは、思えなかったからだ。

「何となくだ」

 リュートが、微笑んでいる。

「……」


(何となくで、法聖リーブの次いで、実力があるのに、あっさりと、それを捨てるなんて……、リュートらしいと言えば、そうなるけど……。ホント、リュートのことは、読めないな)


「大変なんじゃないの」

 怪訝そうな、ソルジュの形相だ。

 剣を振っている、リュートの姿が想像できない。

「ああ、大変だ。けど、面白い」

「そう……。リュートのことだから、剣術科の方も、成績が、いいんじゃないの」

「勿論だ」

「……」


 ただ、話の流れで、口にしていたことだった。

 まさか、本当にいいとは、思ってもいなかった。

 遠い目を、浮かべてしまう。


(いいんだ……、成績が。……天才は、どこまでも、天才なんだな……)


 チラリと、視界の隅に、入り込んでいるトリスに、意識を傾けている。

 祖父譲りに、何でも、器用にこなす兄のトリス。

 小さい頃から、憧れている存在だった。

 兄のように、なりたいと。


 いつしか、不器用な自分には、無理だと、諦めてしまっていた。

 ソルジュは、父エルドに似て、手捌きが不器用で、トリスのように、罠作りなどが、上手くできなかったのである。

 罠作りの構造は、誰よりも、すぐに理解できてもだ。


(リュートほどじゃなくっても、兄さんも、天才だよな、あの器用さは)


 家族との接し方も、元々、不器用だったソルジュが、より一層、家族や村人とも、距離を開けるようになっていた。

 相手のことを、一切考えない、リーブやリュートだけが、ソルジュと、交流を図っていたのである。

 何度、無視しても、そっけない態度を取っても、気にすることがなかったからだ。

 いつしか、面倒臭くなり、付き合うように、なっていたのだった。


「……凄いな」

 本心からの吐露だ。

「ソルジュも、剣術をやるか?」

「いいや」


「そうか? ソルジュなら、いけるんじゃないのか?」

「それよりも、本を読んだりすることの方が、いいや」

「そうか。だったら、今度、ビブロスを紹介するぞ」

「ビブロス?」

「ああ。〈第五図書館〉の司書をやっていて、書籍の造詣が、深いんだ。それに、あそこには、面白い本もあるから、ソルジュは、絶対に気に入るぞ」


 漆黒の瞳を、リュートが輝かせている。

 面白い本と言う響きに、僅かに、ソルジュも、興味を憶えていた。

 けれど、すぐに、その気持ちが、萎んでいった。


「学院生でもないのに、無理じゃないの」

「大丈夫だ。俺に任せろ」

 自信ありげに、胸を張るリュートだった。

「……わかったよ」


(ま、無理だろうけどね)


 少し、寂しげな眼差しを、傾けていたのである。

 そうしたソルジュの姿に、気づかない。

 ただ、〈第五図書館〉のことや、ビブロスのことを、楽しげにリュートが、いろいろと語っていた。




「ねぇ。何も、知らないの?」

 ついつい小声で、セナが、トリスとソルジュのことを、目で促していた。

「知らない」

「名前だけは、聞いていたけど、会ったことは、ないよ」

 短い返答のカーチスとは違い、クラインが、説明も加えてあげた。


 客たちは、リュートたちに、視線を傾けることもない。

 料理を堪能しつつ、騒いでいたのだった。


 宿屋の一階が、食べるところとなっており、村人の姿も、ちらほらと、見かけていたのである。そして、村人に混じり、リュートたちを、窺っている双眸もあったのだ。

 席は、ほぼ埋まっており、十人の場所を作るにも、ひと苦労だった。

 ユルガの人当たりのいい顔で、いくつかの場所を譲って貰い、作ったものだ。


「仲が、悪いっては、聞いていないよ」

 飲み物に、口をつけているクライン。

 その双眸は、トリスやソルジュに、向けられている。

 二人が、話す雰囲気がない。

 ただ、トリスは、ユルガと。

 ソルジュは、リュートと、喋っていたのである。


「だったら、何これは?」

「さぁ」

 首を竦めている、クラインだった。


「……兄弟仲はいいって、聞いていたわよ」

 以前、トリスから聞いた話を、カレンも、持ち出していた。

 ことあるごとに、兄弟仲がいいと、トリスが、みんなに話していたのである。


 この状況に、誰もが、トリスとソルジュに、ついついと、双眸がいってしまう。

 興味津々な、みなの眼差しに、アニスが苦笑いだった。


 アニス自身も、興味がない訳ではない。

 ただ、あれやこれと、話さない方が、いいと抱いていたのだ。

 それぞれの家族の関係があると、巡らせていたのである。

 それと、トリスとは、あまり話したことがなかった。

 よく、わからないのが、本音だった。


「カレンたちも、知らない以上、私には、兄弟仲が、上手く、いっていないようにしか、思えないわよ」

 率直な気持ちを、セナが吐露していた。

「そうね……」

 ソルジュとの会話も切れ、食事に入ったところを見計らい、セナが、リュートに顔を近づけていく。

 気づいていたが、ソルジュは、気づかない振りを通した。

 心の中で、嘆息を漏らしていたのだった。


「……ねぇ、どうして、トリスとソルジュは、話さないの? それも、久しぶりなんでしょ?」

「そうなのか?」

 きょとんとした双眸。

 二人の様子に気づいていなかった。

 そして、ずっと、ソルジュを占領していたことに、気づいていない。

「……」


「さっきから、二人、話していないわよ」

 セナが、突っ込んだ。

 それでも、リュートの表情は変わらない。

「それは、気づかなかった」

「「「「「……」」」」」


「……リュート。少しは、周りにも、目を向けなさいよ」

 心外だと言う顔を、滲ませているリュートだ。

「向けているぞ。しっかりと、俺たちに、目を向けているやつらのことは、把握済みだ」

「そのことじゃないわよ」

「じゃ、何のことだ?」

 首を傾げ、眉間にしわを寄せているセナを、捉えていた。


「……もう、いい」

「そうか」

 食事に、意識をもっていくリュートだった。

「……聞いた、私が、バカだった」

 リュートとセナの会話を、耳にしながらも、素知らぬ顔で、ソルジュがやり過ごしていた。


(リュートたちに、目をつけているやつらがいるのか。相変わらずだな)


 ソルジュの口角が、僅かに上がっている。

 自分たちに、向けられている目に、ソルジュは、気づいていなかった。


 世界中を、旅をしているので、ある程度の護身術は、磨いているが、リュートたちのように、戦闘には不慣れだったのだ。

 何度か、襲われそうになったことがあった。

 その際は、魔法などで、隙を狙い、辛うじて、逃げていたのである。

 祖父譲りの素早さは、ソルジュに受け継がれていたのだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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