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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第116話

 コンロイ村には、いくつもの鉱山があり、村としては、いろいろと、活気溢れていたのである。

 武器や防具を製作するため、取れる鉱物を素材とし、村に多くの職人が集まっていた。

 そして、数多くの店を出し、発展してきたのだった。


 周辺には、多様な薬草が生殖し、薬草の宝庫となっている。

 そのため、村に、多くの宿屋や、武器、薬草などの店も、立ち並んでいたのだった。

 そうした状況もあり、職人たちも、切磋琢磨し合い、技術が向上し、この一体では、いい武具が揃うと、有名な村でもあったのだ。




 村から、少し離れた森で、トリスの弟で、二つ下のソルジュが、手馴れた様子で薬草を採取している。

 警戒している様子もない。

 トリスとは違い、茶色の髪は、短く切ってあった。


 ある程度、薬草を残し、次々と、採取していたのである。

 ソルジュから、見える範囲で、彼の師匠である賢者のユルガが、珍しい薬草がないかと、好奇心に触れるたび、探していたのだった。

 動くたび、腰まで伸びた、艶やかな漆黒の髪が、揺れ遊んでいる。

 ユルガの気持ちを、表したようにだ。


 周囲に、結界が張ってあった。

 魔物などが、容易に、入り込むことができない。

 森に入る込む際、収集範囲を決めると、早々に、ユルガは、広範囲に結界の魔法をかけたのである。


 ソルジュ自身も、結界の魔法を張ることができた。

 だが、ユルガと比べると、範囲が狭かったのだ。

 今回は、多くの薬草を、採取したいため、ユルガが張ったのだった。


「師匠。探してないで、採取してください」

 咎めるような、琥珀色した眼差しを、注いでいた。


 以前、逗留していた街で、ソルジュの隙を狙い、ユルガがほしいままに、大量に本を購入してしまい、懐が寂しくなっていたため、資金を稼ぐために、薬草を採取したのである。

 それもかかわらず、薬草を採取しないで、好奇心の赴くまま、珍しい薬草を捜している姿に、怒りを滲ませていた。


 ユルガと旅をし、四年になろうとしている。

 実家を出たのは、ソルジュが八歳の時だ。


「ごめん、ソルジュ」

 笑っているユルガ。

 決して、ソルジュは、顔を緩めることをしない。

 甘やかすのは、ダメだと、これまでの経験で、把握済みだった。


 無言の圧力を、注いでいる。

 日に日に、逞しく、成長していくソルジュだ。

「……わかった」


 渋々、ユルガが、金になる薬草を、次々と、採取していった。

 手を動かすのを見定めてから、薬草を採取し始めている。


 実家を出て、ユルガと共に、世界各地を巡ってきた。

 まだ、行ったことがない場所もある。

 楽しいことも、危険なこともあった。そして、眉を潜めたくなる光景も、師匠ユルガと共に、目にしてきて、多くの経験を積んできていたのだ。


「そういえば、近くに、フォーレスト学院があるね」

 何気ない、ユルガの呟き。

 僅かに、採取していた手が、鈍くなった。

 顔は、渋面になっている。

「……」


「お兄さんに、会いに行ってきたら?」

「……大丈夫です」

 十分な間をあけ、断った。


 兄トリスの顔が、頭の中を掠めている。

 祖父ベックのように、器用で、何でも、こなす兄の姿。

 そして、自分よりも、先にいってしまう姿に、ますます、表情が、苦々しくなっていった。

 追いつこうと、ソルジュなりに、努力をしていた。

 だが、いつの間にか、その努力を、やめてしまっていたのである。


(……また、いち段と、じいちゃんに似て、器用になっているんだろうな)


 兄弟の中でも、トリスが、祖父の血を、より濃く受け継いでいたのだった。

 何でも、そつなくこなすトリスとは違い、ソルジュは少しだけ、父のエルドに似て、不器用なところがあったのだった。


「でも……、この前だって、アミュンテ村の近くに、寄ったのに、実家に帰らなかっただろう?」

 いつの間にか、手を止め、灰色の瞳で、ユルガがソルジュを窺っていた。

 同じように、手を止めているソルジュ。


 突き刺さる視線を感じつつも、背中を向けたままだ。

 師匠ユルガに対し、尊敬しつつも、自分の内側をすべて、曝け出すことをしない。

 頑なな一面を、持っていたのである。

 そうしたソルジュを、温かく、ユルガが見守っていたのだった。


「……もう、子供じゃないんで、平気です」

「ソルジュって、まだ、子供でしょ?」

 ムッとした顔を、ソルジュが覗かせている。


(子供のような師匠に、言われたくない)


 時に、ユルガは、子供のように、なる時があるのだ。

 それを大人の対応で、ソルジュが、窘めていたのである。


「平気です。師匠、手を動かしてください」

「動かしますよ」

 五十を過ぎている人とは、思えないほど、口を尖らせていたのだった。

「だったら、黙って、採取に専念してください」

「だって、つまらないよ」

 さらに、口を尖らせ、拗ねているユルガ。


(子供かっ)


「師匠。前の街で、浪費したのは、誰ですか?」

 冷めた眼差しだ。

 ウッと、ユルガが、フリーズしていた。


 コンロイ村に来る前の街で、面白い書物、数百年前の、珍しい骨董品などを大量に購入し、資金不足に、陥っていたのである。それを打開するため、薬草の宝庫となっている、コンロイ村に、訪れていたのだった。

 それと、面白い鉱物や、目新しい武器や、防具がないかと、見る目的もあったのだ。


「……いつまでも、言わないでよ」

 散々、前にいた街で、絞られていたのである。

 それを持ち出され、子供のように、不貞腐れていた。


「だったら、さっさと、手を動かす」

「わかったよ」

 子供のような、無邪気な人だ。

 とても、誰からも、慕われ、敬われる賢者とは思えない。

 けれど、本物の賢者で、ユルガの知識や、魔法で、人々は、救われていることも、事実だった。

 そうした一面に騙され、何度、辛酸を嘗められたことかと、顔を顰めていた。


 過去の苦い出来事が、走馬灯のように、流れ去っていく。

 そして、とても厄介なことは、ソルジュの隙を狙い、興味を抱いたものを、次々と購入し、興味が失せたら、どんなに高額のものでも、ポイっと、捨ててしまうことがあったのだ。


 だから、常に、監視の目を、光らせていたのである。

 それでも、ユルガの行動を、止めることができなかった。

 ソルジュよりも、そうした行動に関しては、素早かったのだ。


「あそこも、面白そうだから、コンロイ村の次に、寄っていこう」

「いいです」

「ダメ。決めた」

「師匠」


「ソルジュって、学校にいっていないでしょ」

 黙り込むソルジュ。

 実際、アミュンテ村にいた際は、学校に行かず、フラフラとしていたのだ。

 だから、学校と言うものを、きちんと理解していない。


「少しは、ソルジュの勉強に、なると思うよ」

「師匠から、知識は、施して貰いました。それに、各地の図書館にも、行かさせて貰いましたから、大丈夫です」

「ダメ。決めたから、行くよ」

 ユルガも、頑固な一面もあった。

「……」


 ニコッと、微笑んでいる。

 イラッとしているが、逆らえない。


「……承知しました。だったら、早く、手を動かしてください」

「わかった」

 楽しいことを見つけた、ユルガの手は、先ほどよりも、ピッチが上がっていた。

 ソルジュは、渋面しているのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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