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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第113話

 学院の森では、楽しげに、リュートとアニスが、談笑していたのである。

 二人だけの空間。

 めったに、生徒たちも、入り込まない場所だった。


 清々しい顔を、二人して、覗かせている。

 もう少し、奥まった場所で、密かに、稽古をしていたのだ。

 微塵も、激しい稽古をしたとは、窺えない。

 全然、疲労していなかった。

 内緒の二人だけの稽古を終え、互いに、近況を語り合っていたのだった。


「精霊呪文は、どうだった?」

「無事に、取得することができました」

 ニッコリと、微笑むアニスだ。


 A組とは、別な日程の日に、オラン湖へ赴き、必須となっている精霊呪文を取得してきたのである。

 A組の時とは違い、何の問題もなく、順調に、日程が消化していった。


「手間取ってしまいましたけど」

「そうなのか? 言ってくれたら、教えてあげるぞ」

 なんでもない顔を、リュートが滲ませていた。

「ありがとう」


 どうにか、最終日に、アニスは、精霊呪文を取得できたのだ。

 他のクラスメートは、半分ぐらいの人数しか、取得できず、帰ってきていたのだった。

 リュートや、アニスのクラス以外にも、多くの生徒たちが、精霊呪文の取得に、四苦八苦していたのである。

 精霊呪文が、必須と言うこともあり、オラン湖から帰ってきても、多くの生徒たちが、取得するために、日々鍛錬していたのだった。


 何かと、問題の多いA組。

 だが、全員、精霊呪文を取得し、学院に戻ってきた。

 A組だけ、全員精霊呪文を取得できたのは。


 カレンに教えていた際に、リュートの話に耳を傾け、必死に、取得できるように訓練していたのだ。

 リュートが戻ってからも、不十分な生徒たちは、クラインの手を借り、取得できるように汗を流していたのだった。

 優秀なリュートやバド、クラインがいるおかげで、彼らの実力や体力、精神面は、幼少の頃から、かなり底上げに、なっていたのである。

 A組は、悪い面ばかり目立っているが、その実力は、魔法科全体の中でも、上位だったのだ。


「カレンも、リュートに教えて貰って、上手く取得できたと、言っていました」

 オラン湖から、戻って来て早々に、カレンとアニスは会っていた。

 互いに、近況を、話していたのである。


「教えたが。後は、カーチスに付き合って貰い、やっていたみたいだぞ」

「そうみたいですね」

 クスッと、穏やかに、アニスが笑っている。

 リュートも、自然と、口角が上がっていた。


 ふと、気遣う眼差しを注ぐアニス。

「大丈夫でしたか? 随分と、練習したと、聞きましたが?」

「トリスが、薬草、渡したし、大丈夫だ。あれは、結構、タフだ」

 タフにした張本人であるリュートが、胸を張っている。

 リュートの言葉に、苦笑しているアニスだった。


 アニス自身も、一年生の時に、犠牲になったことがあったからだ。

 そのことで、リュートに対し、怯え、避けていたが、幽霊騒動の際に、偶然に再会してしまい、リュートの人となりに触れ、いつの間にか、親交を深め、仲良くなっていたのである。


「そうみたいですね。カレンも、言っていました。大丈夫だと、あれぐらいでは、へこたれないと」

「だろうな」

 自分ごとのように、頷いていた。

「カーチスは、成績で言えば、下の方だが、ちゃんとやれば、もう少し、上にいけるはずだからな」


 何とも言えない顔を、アニスが滲ませていた。

 成績が、下と言っていたが、実際は、A組だけの話だ。


 魔法科全体では、上位である五十位以内に、常に、食い込んでいた。

 だから、カーチスたちは、魔法科の中でも、実力が、備わっていたのである。

 それに、リュートたちと一緒になって、教師や、生徒たちを探りに来た諜報員たちと、何度も、戦闘を繰り返していたので、実践経験も、かなり豊かだった。

 本人たちに、自覚がないだけで、今すぐ、卒業しても、十分に、やっていけるだけの実力が、きちんと伴っていた。


 不意に、アニスが、自分の手を動かし、確かめている。

 溢れ出ている力。

 リュートと、稽古するたび、感じていたのだ。

 もう、これ以上の力は、ないと思っていた。


(また、強くなっている、この私が……)


 体力面でも強化でき、法力も、以前を比べ、上昇していたのである。

 アニス自身も、リュートとの稽古により、少しずつだが、体術や魔法の能力が、上がっていることを、実感していたのだった。

 勿論、ピアノの練習も、忘れていない。

 授業や、ピアノの練習、リュートとの稽古。

 充実な日々を、アニス自身、送っていたのだ。


「どうした?」

 きょとんと首を傾げ、見つめてくるリュート。

 可愛らしい仕草に、アニスの顔が緩む。

「いえ。リュートとの稽古で、以前より、強くなったなと」


「そうか。俺も、強くなった」

 自慢げなリュートの表情。

 さらに、笑みが緩んでしまう。


 当初、稽古を始めた時よりも、リュートの動きが機敏になり、反応も、さらに、アップしていたのだ。

 そして、無意識に、魔法を使う回数も、徐々に、減っていたのだった。

 力のコントロールの精度も、確実に、上がっていた。

 二人の力は、メキメキと、アップしていたのだ。


 互いに、見つめ合い、笑っている。

「今度、グリンシュに付き合って貰い、とことん、やってみるか?」

「大丈夫でしょうか?」

 唐突な提案に、思案するアニスだ。

 力の上昇を感じつつも、二の足を踏んでいる。


「大丈夫だ」

 揺るがない、リュートの眼光。

「それなら……」

「じゃ、後で、頼むとしよう」

 嬉しそうなリュートに、穏やかな眼差しを注いでいた。


「随分と、熱心に、話しているな」

 森の奥から、二人の前へ、トリスが歩いてくる。

 僅かに、目を丸くしてだ。


(何だ? いつの間に、あの二人は……)


 リュートの様子を窺うため、捜していた。

 いつの間にか、自分の知らないところで、打ち解け合っている二人の姿に、驚かずに入られない。

 少し、険がある視線を、アニスに傾けてしまう。

 微かに、アニスに対し、嫉妬心を、芽生えさせていたのだ。


「そんなことは……」

 ピリッとする視線に、当惑を隠せない。

 そんな二人に、気づく様子もないリュートだった。

「そうか。アニスとは、仲良しだ。そうだ、今度、合コンにいかないか?」

「「……」」

 トリスも、アニスも、微妙な表情だ。


(バカ)


「仲が、いい友達と、合コンをするものらしい。だから、一緒に行こう」

 さらに、戸惑っているアニスを、合コンに誘おうとするリュートだ。

「「……」」

「俺としては、面白くないが、友達ができるらしい。それに、アニスが一緒だと、話が弾みし、俺としては、物凄く嬉しい」


 時々、合コンに、参加するものの、一度も、楽しいと思ったこともないし、合コンに現れる女たちに、友達になりたいと、抱くことも、なかったのである。

 だから、友達のアニスも参加すれば、楽しいし、もっと、仲良くなれると、単純に巡らせたことだった。


「「……」」

 黙り込んでいる二人。

 首を傾げているリュート。

「どうした?」


「……お前らしいなと思って……」

 瞬時に、リュートの意図を、飲み込んでいたものの、すぐに、言葉にしなかったのは、脱力していたからだ。

「合コンは……ちょっと……」

 見つめてくる視線。

 思わず、アニスが視線をはずした。


(わかっているのかな? 私が、女の子ってことは……)


 もう一度、恐る恐る視線を傾ける。

「そうか……。残念だ」

 気落ちしているリュートだった。


 そうして仕草からも、一緒に、行きたかったことが、よくわかってしまっていた。

 次第に、アニスも、申し訳なさそうな顔を、巡らせている。

 そんな二人に、盛大な溜息を漏らしていた。


(カーチスたちが、友達の幅が、広がるぞと言って、何度も、リュートを、連れ出していたからな。未だに、合コンが、友達を作る場だと思っている。ある意味では、そうなのかもしれないが……)


「当分、合コンの話は、回ってこないから、安心しろ」

「そうなのか?」

 意外だと言う顔を、覗かせている。

 日々、カーチスたちは、合コンや、ナンパと騒いでいたからだ。


「ああ。カレンが、あの状態だし、当分はない」

「何で、カレンが、出てくるんだ?」

 きょとんとした眼差しを、注ぐリュート。


(どうして? 気づかないんだ。あの二人のこと)


 付き合っていることを、友達にも、秘密にしている二人を掠める。


(教えてもいいが、二人に、何か、言いそうだしな……)


 未だに、気づいていないリュート。

 教えることは、やぶさかではなかった。

 ただ、話すことによって、聞きに行くことを、危惧していたのである。


(話せば、いいものを。何で、隠す必要があるんだ?)


「……カーチスを、監視しているからだ」

「そうなのか?」

「そうだ」

 トリスと、リュートのやり取り。

 アニスが、目を丸くしている。


(リュート、気づいていないの? 二人のことを)


 カレンとカーチスが、密かに付き合っていることを、把握していたからだ。

 けれど、カレンたちが、内緒にしている以上、アニス自身も、それ以上のことを、追及しようとしていなかった。


(何で、リュートに、教えていないのかしら?)


 チラリと、トリスが、アニスに視線を巡らす。

「悪いな」

「いいえ」

 笑顔で、アニスが答えた。


「カレンの様子は、だいぶ、落ち着いたのか?」

「……まだ、溜まっているようです」

「そうか……」

「でも、大丈夫だと思いますよ。あの二人が、離れることは、ないと思います」


 トリスたちは、カレントカーチスたちが、別れてしまうのではないかと、危惧していたのである。

 ブラークたちが、唆したとは言え、トリスたちも、かかわっていたので、それなりに、二人の様子が気になっていた。

 未だに、二人は、仲直りした様子がない。

 カーチスの傷も、絶えなかったのだ。


「合コンのことも、ありますが、今回は、諜報員の人たちの件も、あると思うんです。かなり、心配していましたよ」

「いつものこと、なんだがな……」


 トリスとアニスの話に、リュートも加わる。

 一人、取り残された感が、いやだったのだ。

「何だ、探っているやつらと、勝手に、遊んだことが、許せないのか? だったら、今度は、カレンたちも誘って、遊ぶか? 勿論、アニスも一緒に」

 リュートの提案に、苦笑いのアニスだった。


(カレン。きっと、もっと怒る気がする……)


「バカ……」

 冷めた眼差しのトリスだ。

「何だよ」

 頬を膨らませ、不貞腐れているリュートの姿に、呆れるしかない。

 その仕草は、リュートの妹ミントと、一緒だったからだ。


「グリンシュのところでも言って、お茶にでもするか?」

 トリスの言葉に、先ほどまでの、不満げな表情がない。

 これ以上、話しても、埒が明かないと抱き、話の矛先を変えたのである。

 まんまと、トリスの術中に、嵌っているリュートだった。


 パッと、リュートが顔を綻ばせている。

「そうだな。腹も、減ったし」

 急に、表情が変わったリュートだ。

 突然の変貌振りに、アニスが、ついていけない。


「な、アニス」

「あっ……、は、はい」

「悪いな」

 申し訳なさそうにしているトリス。

「いえ」


 三人して、保健士のグリンシュのところへ、歩いていった。

 リュートの足取りだけが、一番、軽かったのだ。

 その後を、やれやれと首を竦めているトリスと、朗らかな笑顔を、滲ませているアニスがついていったのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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