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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第112話

 賑わう人、人、人だ。

 村の人口よりも、訪れる者が、たくさんいたのである。 

 アミュンテ村は、法聖リーブのお膝元と言うこともあり、人の活気が、溢れている村でもあった。

 話題の法聖リーブが、住んでいる村と言うこともあり、王族や貴族、一般の人の出入りが激しかったのである。


 ひと目、法聖リーブの姿を見たさに、訪れる人が多かった。

 けれど、めったに、村に、下りてくることがないので、多くの人たちは、見ることが叶わなかったのだ。

 そして、簡単に、法聖リーブの屋敷に、入ることができなかった。

 周囲には、幾重にも、厳重に結界が、巡らされていたのである。

 限られた人物しか、入れないのだ。


 トリスたちの両親は、村で、数少ない薬草店を営んでいたのである。

 村に、薬草店を他に作っても、トリスたちの両親が、営む薬草店が人気で、閑古鳥になってしまい、仕舞いには、店を畳む店が続出し、村で、唯一の薬草店になっていた。

 ただ、闇でやっている薬草店が、数件あるのみだ。


 都など、もっと、拓けた場所で、店をやらないかと言う誘いが、いくつも、舞い込んできたが、それらの誘いを、すべて断り、村で、繁盛店の薬草店をやっている。

 村の近くには、豊富な薬草があり、トリスたちの両親が村に対し、愛着を持っていたのも要因だった。


 自分たちの誘いを断ったマリーヌたちに、嫌がらせや、恫喝する者が現れ、馴染みの冒険者たちが片づけたり、解決してくれたりしたことも、しばしばあったほどだ。

 ただ、そうした者でも、解決できない時は、幼馴染でもある法聖リーブに頼み、片づけて貰っていたことが、数回あったのである。


 王族や貴族でも、法聖リーブに対し、手出しできない。

 それほど、偉大で、大きな力を、持っていたのだ。


 先ほどまで、客が大勢来て、溢れていた店内。

 賑わっていた客が引くと、店の中は、ごちゃごちゃと、乱れていた。

 それを、マリーヌ一人で、片づけを行っていたのである。

 夫のエルドは、依頼を受けていた薬草を、依頼主に配達しにいって、不在だった。


 ソルジュの下の双子の姉妹イルとノアが、ひょっこり、店に顔を出す。

「「お母さん。手伝う」」

 忙しい母親を気遣い、手伝いに来たのである。

 兄弟でも、やんちゃな二人。

 姉カメリアがいないと、手伝いをしてくれたのだ。


「カメリアは、出かけたのかい」

「「……ちょっと、お友達のところに、いってくるって」」

 声を揃え、母親と視線を、合わせようとはしない。

 双子の態度で、カメリアが、どこにいるのか、瞬時に、見当がついてしまっていた。


(やれやれ。もう少し、上手く、演じされないものかね……)


 演技の下手な二人に、心の中で、呆れている。

 そして、トリスだったら、上手く演じられるのにと、騙すことに長けている、息子の姿を思い浮かべていたのだった。

 眉間にしわが、少しだけ寄っていた。


(……ホント、父さんに、一番、似てきちゃって……。その点、イルとノアは、エルド似だね、あの人、演技が下手だから)


 テへと笑って、誤魔化すエルドの顔を、頭の中に、滲ませていた。

 父親とは違い、嘘が下手なエルドに、好感を得て、結婚したのだった。


「そう」

 いつものことなので、それ以上、何も言わない。

 マリーヌから解放され、店の中を、片づけていく二人。

 一生懸命に、手伝いをしてくれる姿に、マリーヌの頬が緩む。


「……下の子たちは、どうしているんだい?」

「ローグたちが、下の子たちの、面倒見ているよ」

 ローグとは、双子のすぐ下の息子だ。

「そうかい」

 微笑ましい顔を覗かせていた。


 つい最近、ローグは、子供が一人で入ってはいけない森に、勝手に入り込んで、村の人たちに、迷惑掛けたばかりだった。

 そのローグを中心に、下の子たちの面倒を、見ていることに、安堵していたのだ。

 兄弟の中でも、好奇心が旺盛で、何度も、村の人たちに、迷惑を掛けたことがあったのだった。


 三人で、片づけをしていると、配達を終え、エルドが帰ってくる。

「ただいま」

 身体のガタイがよく、肌も、健康よく焼けていた。

「イルも、ノアも、手伝ってくれるのか」

 可愛い娘の双子が、片づけている姿に、笑顔が止まらない。


「「うん。おかえり、父さん」」

「後は、父さんがやるから、裏にいっていて、いいぞ」

「「うん」」

 二人は返事をし、瞬く間に、裏の自宅へ、戻っていった。




 店内に、夫婦だけになる。

「ホント、娘には、甘いんだから」

 ジト目で、マリーヌが、エルドを睨んでいる。


 居た堪れず、視線をそらした。

「……マリーヌも、裏で、休んでいても、いいぞ。後は、俺が、やっておくから」

「それじゃ、お客様が来る前に、終わりませんから」

 キツめの声音。

 ガタイが、いい身体を、震わせていた。


「……すまん」

 恐る恐るといった眼差しを、エルドが注いでいる。

 盛大な溜息を、マリーヌが零した。

「いいから。足りないものを、裏から持ってきて、補充してちょうだい」

「わかった」


 マリーヌからの命令に、即座に、動き出すエルド。

 その動きに、疲れを感じさせない。

 エルドも、マリーヌも、村の中でも、随一の働き者と、噂されるほど、何かと働いていたのだった。

 マリーヌとしては、配達から戻ったエルドに休んで貰い、双子たちと、片づけを済ませようとしていたのである。けれど、どこまでも、娘たちに甘いエルドは、すぐさまに双子を、裏に戻してしまったのだ。


「今日の配達は、終わったの?」

 補充するものを、エルドが持ってきた。

「いや。後、三件ある」

「……いいわ。後は、私がやるから」

「いや、大丈夫だ」


 間違わないように、一つ、一つ、確かめながら、少なくなったものを、補充していく。

 その手先は、どこか不器用だ。

 そんな姿に、マリーヌが、小さい笑みを漏らしていた。

 不器用な点も、好んだところだった。


「無理しないでね」

「わかった」

 互いに、仕事に戻っていく。

 しばらく、黙々と、片づけをしていった。


「……カメリア。あの人のところへ、行っているみたいね」

「そうだな」

 手を、止めることがない二人だ。

「トリスも、頻繁に、行っているみたいだし」

「そうだな」


「あの子、ここに来るよりも、あの人のところへ、しょっちゅう、行っているみたいね」

「……そうなのか」

「知っている癖に」

「……すまん」

 咎める口調に、弱いエルドだ。


「で、どうなの? あの人は?」

「だいぶ。身体が、弱っているようだ」

 マリーヌの動きが、鈍くなる。

 思考は、父ベックの顔を滲ませていた。

 昔に比べ、しわが増えた顔だ。


「……仕事をやめているの?」

「いや。少し、セーブして、まだ、続けている」

「じゃ、元気じゃない」

「マリーヌ」

 微妙な顔で、窘めるエルド。


 長年、マリーヌとベックの間を、取り持ってきたのである。

 どちらの立場も、理解しているので、軽々に、言えなかったのだった。


「仕事をしているってことは、元気でいるって、ことでしょ」

 突き放した言い方。

 エルドの眉が、下がっている。


「そんなに、あの人のことを、気にする必要なんて、ないわよ。トリスも、カメリアたちも。そして、内緒で、会っているエルドもね」

 ウッと、つまってしまう。

 瞳が、揺れ動く。

 しゅんと、エルドは肩を落としていた。


「……悪かった。トリスから、身体が弱っているって、聞いて、会いに行った。確かに、以前に比べて、弱くなっているようだ」

 素直に、会った経緯を吐露した。

「……」


「な、一緒に、住まないか」

 以前から、提案されていた。

 眉間にしわを寄せるマリーヌ。

 そして、そっぽを向いてしまう。

「……あの人は、来ないわ」


「マリーヌ……」

「そういう人よ」

 似たもの同士の頑固な二人に、エルドが首を竦めていた。

 エルドが、ベックのところに会いに行き、一緒に、住まないかと言ったら、マリーヌが嫌がるだろうし、まだまだ、仕事をしたいからと、断られてしまっていたのである。


「マリーヌだって、気にしているだろう」

 窺うような、エルドの双眸。

「していません」

「何度か、薬草を持って、出かけようと、していただろう」


 エルドの言う通り、父ベックのことが気になり、何度か、ベックのところへ、いっていた。

 けれど、結局、いっただけだった。

「……」


「知っているんだぞ」

「だったら、言わないで」

 ますます、意固地になっていくマリーヌだ。

「意地っ張り」

「悪かったわね」


「今度、一緒に、お義父さんのところへ、行こう」

 諦められないエルドが、優しい口調で、問いかけたのだった。

「……」


 いやよとは言わないことで、エルドが、肯定的に受け取った。

 二人して、残りの仕事を片づけていったのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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