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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第5章 ささやかな頼み事は大忙しに
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第111話

今日から、新しい章になります。

 一人暮らしをしている祖父ベックに家に、トリスのすぐ下の妹、カメリアが訪ねてきていたのである。

 定期的に、一人暮らしをしている、ベックのところに様子を窺うためと、一人暮らしで、何かと大変だろうと、世話しに来ていたのだ。


 淡々と、やや背中を丸めながら、狩用の罠の補修をしているベック。

 時間の経過と共に、罠も、劣化していたのだ。

 常に、点検を怠らない。

 そうした性格は、ベックからトリスへ、受け継がれていたのである。


 簡素なキッチンでは、カメリアが、ベック用の料理をしていた。

 ある程度、自宅で作ってきたが、最後の仕上げをしていたのだ。


 祖父ベックと、母マリーヌは、仲があまりよくない。

 そのため、トリスを始めとする子供たちは、何かと理由をつけては、こっそりと、祖父ベックの元へ、会いに来ていたのだった。

 そして、何となく、マリーヌも気づいていたが、素知らぬふりをしていたのである。

 嫌っている父親でも、気にかけていたのだ。


 料理している、カメリアの後ろ姿に、視線を巡らせていた。

 娘のマリーヌに、徐々に、似てきていたのである。

 孫の成長に、目を細めていた。


 マリーヌに対し、いい父親ではなかったと掠めている。

 けれど、家に帰る頻度は、少なかったが、気づかれないように、家族のことは、密かに見守っていたのだった。


「お爺ちゃん、身体の方は、大丈夫なの? 持ってきた薬草は、足りそう? 足りないものがあったら、言ってね。今度、来る時に、持ってくるから」

 手を止めることなく、カメリアが、器用に料理を作っていく。

 料理上手な母親譲りの腕前で、次々と、料理の仕上げをしていった。

「いつも、すまん」


「いいよ。食事は、どう?」

「いつも、美味しいよ」

「よかった」

 ホッと、胸を撫で下ろすカメリア。


 トリスとは違い、学院に通わず、カメリアは、近くの学校を出て、すでに両親の薬草店を手伝っていたのである。

 トリス同様に、少ないが法力を、持っていたのだ。

 学院に通う資格を所持し、リュートやミントの母親の口添えもできたので、何の問題もなかった。けれど、兄弟が多く、兄トリスに続いて、自分までも、学院にいってしまったら、何かと、両親が、大変なのではないかと巡らせ、学院にいかなかった経緯があった。


「お兄ちゃんは、来ているの?」

「来ているよ」

 せっせと、ベックが罠な補修をしている。

 動く手に、一切の躊躇いがない。

「だったら、伝えておいて。こちらにも、顔を出すようにって」


「トリスのやつ。帰ってこないのか?」

 僅かに、ベックは、目を見張っていた。

 帰っていると、以前、話していたからだ。

 自分とは違い、マリーヌとの関係も、良好のはずだと、抱いていたのである。


「たまに、顔を出しても、薬草を貰ったら、すぐに帰っちゃうの。少し、手伝ってほしいこともあるし」

 カメリアの話に、ひと安心するのだった。

「わかった。伝えておくよ」

「ありがとう。ソルジュもいないし、意外と、店も忙しく、大変なんだ」


 トリスたちの両親が、営んでいる薬草店は、品質もよく、良心的な価格で、薬草などを販売していることもあり、近隣から、足を伸ばして、買いに来る客が多かったのである。

 買取に関しても、危険なところにある物や、品質のいい物に対し、高額で買い取ったり、利用者に、大変、喜ばれていたのだった。


「そうか」

「ソルジュは、帰ってこないのか?」

「……一年以上、帰っていないわね」

 眉を潜めているカメリアだ。


 カメリアのすぐ下の弟であるソルジュも、学院に通っていない。

 ふらりと、村に訪れた、旅の賢者に、素質を見込まれ、共に旅立ってしまったのだった。

 それ以来、トリス以上に、ソルジュは、自宅に帰ってこなかった。


 働き手でもある、年長の男二人がいないことで、カメリアに、大きな負担が掛かっていたのだ。

 そうした経緯も、把握しているベックが、嘆息を吐く。

 勿論、自宅にも、なかなか帰ってこないソルジュが、ベックのところにも、来ることが少ない。


 賢者と、旅立ってからは、ここには、二度しか、訪ねてこなかった。

 ベック同様に、ソルジュも、マリーヌたちと、上手くいっていないようで、何かと、気にはなっていたが、自分自身も、マリーヌと上手くっていない以上、ソルジュに対し、何も言えなかったのだ。


「ソルジュにも、困ったものだ」

「最近は、手紙も、よこさないのよ。一体、どこにいるやら……」

 呆れつつも、ソルジュのことを、気にかけていたのだった。

「こっちに来たら、そっちに顔を出すように、伝えておこう」

「ありがとう。でも、来るかしら」


 不意に、近寄らない弟に対し、母が怒っている光景を、掠めていた。

 家にいても、薬草店を、あまり手伝うことをしなかった。

 ふらっと、家を出て、どこかへ、出かけていたのである。


 両親が営む薬草店を、嫌っているのかと、思っていた時期もあったが、薬草に対し、興味がなかった訳ではない。

 兄弟の中でも、一番、精通していたのかもしれなかった。

 目利きの能力にしても、家族の中で、随一だった。

 何度か、見た目がいい、粗悪品などを見つけたり、逆に、両親も、知らない物を鑑定したりし、家族を驚かせたことがあった。


 店にいることも少ないので、そうした能力が高いことに、家族一同、誰も、気づいていなかったのである。そして、旅の賢者が訪れるまで、ソルジュの知識が高いことを、理解していなかったのだ。

 旅の賢者に見初められ、ソルジュは、旅の賢者と共に、旅立ってしまった。


 兄弟の中でも、ソルジュは、どこか浮いていたのである。

 仲が、悪かった訳ではなかった。

 ただ、ソルジュ自身が、兄弟に対し、どこか距離を置いている節があったのだった。

 何となく、気づいていたが、下の妹や弟たちの面倒にかまけて、どこか疎かになっていた。

 いつの間にか、手を止めていたカメリア。


(私が、もっと……)


 気遣うような眼差しを、ベックが送っている。

 ソルジュに対し、姉として気づいてやることが、できなかったとして、負い目を感じていたことを把握していたのだ。

 気にするなと言っても、娘の性格も引きついている、カメリアは、頑固な一面もあった。

 気にしていないわよと、言うに決まっていたのだ。


 小さく、溜息を吐く。

「……ソルジュは、気にしておらんだろうな。自分に、そうした能力があることに、本人ですら、気づいていなかったんだからな」

「……でも」

「ソルジュが帰ってきたら、いつも通りに、迎えてあげることだ」

「うん……」


「ところで、残っている孫たちは、元気なんだろう?」

「元気過ぎるぐらいよ」

 眉を寄せ、困った顔を覗かせている。

 やんちゃな盛りの妹や、弟たちが多く、両親を始め、カメリアたちを、非常に困らせていたのだ。


 つい最近も、勝手に森に入り込み、夕方になっても、帰ってこないと、村中で、大騒ぎになったことがあったのである。

 法聖リーブにより、無事に、いなくなった弟を、見つけて貰い、ケガもすることなく、ことなき終えたのだ。


「困ったものだ」

「ホントよ」

 ほとんどの料理が、でき上がっていた。

「お爺ちゃん。もうできるから、そっち片づけちゃって」

「わかったよ」


 動かしていた手を止め、手早く、辺りを片付けていく。

 そして、久しぶりの、孫との食事を楽しむのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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