閑話 7
第107話目の後の話です。
学院指定のローブを、しっかり目深にかぶっている三人が、人通りが少ない村の中を歩いていた。
異様な光景に、村の住人たちも眉を潜んでいる状態だ。
「「「……」」」
気まずい雰囲気の三人。
誰も、顔をみせようとしない。
むしろ、隠していたのだ。
「いつまで、続ける気だ」
ボソッと、隣を歩くカイルに、グリフィンが呟いた。
「そうだ。こんな格好をさせて」
不満げなスカーレットだ。
ローブの隙間から、僅かだが、赤毛が覗いでいた。
グリフィンやスカーレットは、カイルたちの同期であり、同じ学院の剣術科の教師を務めていたのである。そして、学院に在学中は、一緒に行動を共にしていた、仲間でもあった。
「……たぶん、気が済むまだかな」
胡乱げな眼差しを向ける二人だ。
「すまん」
カイルの謝罪に、大きく嘆息を漏らしている。
どのみち、引っ張り出されていたことが、想像できたからだ。
学生の頃から、続いていることだった。
「ラジュールのやつ、今回は、どんな魔法を開発したんだ?」
諦めモードになったスカーレットが、今回の元凶である、ラジュールの話題を持ち出した。
少しでも、別な思考としていないと、このいでたちに、耐えられなかったのである。
「開発ではなく、改良したみたいだ」
「早く、終わらせたい……」
遠い目をするグリフィン。
彼らは、諜報員たちを誘き出すため、生徒の格好にさせられ、囮にさせられていたのだった。そして、生徒の格好をさせられているところを、それぞれ、生徒たちには、見られたくないと、羞恥心に駆られていたのだ。
徐に、カイルの双眸が揺らいでいる。
「……デュランも、加わった」
衝撃的な吐露に、グリフィンもスカーレットも目を剥いていた。
早く話さないと抱きつつも、なかなか、打ち明けられなかったのだった。
「「!」」
「ホント、すまん」
囮の件を、どこからか聞きつけ、ラジュール同様に、研究熱心なデュランも、今回の件に参加することになった。
「ただじゃ、すまないぞ」
「どうするんだ?」
二人の追及に、いつも巻き込み、居た堪れないカイル。
一人でも厄介なのに、二人がかかわると、とんでもないと、頭を抱え込んでいる二人だ。
奇怪な動きをし始めた三人。
さらに、周りにいる者たちが、怪訝そうな眼差しを傾けている。
周りの視線も、気づかないほど、三人が妙な動きをしていた。
「……なるようにしか、ならない。リーブやカテリーナがいない分だけ、いいのかもしれないぞ」
明るく場を和ませようと、浮かんだことを、カイルが口に出していた。
あたふたとしていたのだ。
過去の苦い記憶に、苛まれている二人を、必死に宥めようとしていたのである。
ついつい、ジト目になる二人だった。
不意に、カイルの視線が、宙に彷徨う。
「……すまん」
先程よりも、二人が、盛大に溜息も吐いた。
「校長から、説教を喰らうぞ」
「喰らうだけなら、いい。減俸もあり得る」
スカーレットの言葉に、グリフィンが破顔している。
過去に、何度か、あったからだ。
「……祈ろう。できるだけ、穏便に済むように」
何とも言えないカイル。
懸命に、落ち込んでいる二人を、励ましていたのである。
カイルたちは、すでに村の中を三十分近く歩いているが、いっこうに諜報員たちの気配を感じることができない。
「さっさと、片づけよう……」
スカーレットの提案に、カイルも、同意していた。
「そうだな。早く終わらそう。こんなことは」
「授業の準備も、あるしな」
重い足取りで、歩いていく三人。
その三人の背中が、丸まっていたのだった。
諜報員たちの気配を感じ、ラジュールやデュランが、待ち構えているところまで誘き出し、釣った諜報員たちを、二人の実験体の餌食に、捧げ続けていたのである。
それを、五回も繰り返したところで、スカーレットが怒り出し、デュランに向かっていこうとするのを、グリフィンとカイルが止めに入り、また、大きな騒動となって、五人が校長から、説教を受ける羽目になってしまうのだった。
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