第110話
魔法科も、剣術科も、無事に、学院に戻ってきていた。
ラジュールとカイルにより、リュート、トリス、カーチス、クライン、ブラーク、キムが呼び出しされ、長時間に渡る説教が、行われたのである。それと同時に、多くのレポートが出され、罰掃除もすることになったのだ。
解放され、廊下を歩いている六人。
数人の生徒たちと、すれ違っている。
何も、変わらない日常だった。
リュートとトリス、クラインは、いつものことと、表情を崩すこともない。
だが、カーチス、ブラーク、キムの三人は、山のようなレポートの多さに、がっくりと肩を落としていた。
カーチスの傷は、まだ、完全に言えていないようで、どこか動きが、ぎこちない。
それを、クラインやブラーク、キムが、支えていたのだった。
「大丈夫か?」
神妙な顔で、ブラークが窺っている。
「……大丈夫だ」
か細い声だ。
「カレンの指導、いつも以上に、厳しかった?」
気遣うような眼差しのキムだ。
カレンの名に、僅かにカーチスが、身体を強張らせていた。
リュートとセナと別れた後も、容赦ないカレンの指導の下、カーチスは精霊呪文を、完璧に使えるようになっていたのである。
けれど、身体は、ボロボロだった。
容赦ないほど、酷使していた。
「……地獄だった」
遠い目をするカーチスだ。
その時の映像が、走馬灯のように流れていった。
「「「「……」」」」
「でも、精霊呪文、完璧になったんだろう」
どこでも、マイペースなリュートである。
何とも言えぬ顔の、ブラークたちだ。
「……」
「よかったじゃないか」
((((リュートだな))))
「で、ブラークとキムは?」
「……大丈夫だ。俺たちは、クラインとトリスに、教わったから」
ブラークとキムは、カレンではなく、クラインとトリスに教わり、カレンの地獄を味わうことがなかった。
ジト目で、カーチスが、二人を睨んでいる。
気まずい二人が、視線をはずしていた。
「じゃ、みんなを呼び、遊ぶか」
先ほどまで、説教を受けていたことを、すっかり忘れていたリュートだった。
「まず、罰掃除でしょ?」
呆れながら、クラインが、今後の予定を口に出した。
この後、校内の掃除が、待ち受けていたのである。
「後でも、大丈夫だろう」
のん気な姿に、トリスが、やれやれと嘆息を吐いていた。
「リュート。さすがに、それは不味いから、今、やろうね」
窘めるクラインに、不満げに、口を尖らせている。
クラインも、簡単に、引き下がらない。
「ラジュール直々に、目を光らされても、いいの?」
「……それは、ヤダ」
思わず、顰めっ面になっていた。
「だったら、掃除をやろうね」
「……わかった」
「リュートも、やる気になったようだし、どこからやる?」
他のメンバーに、クラインが顔を巡らせていたのだ。
「みんなにも、手伝って貰うか?」
ある一つの提案を、ブラークが持ち出した。
「みんなって?」
「A組で、総出でやれば、早く終わるだろう」
ニッコリ笑い、胸を張っているブラークだった。
「手伝ってくれるのか」
訝しげているトリス。
「ま、今回は手伝って、頭下げておいた」
ブラークが、すでに、根回しをしていたのである。
「……カレンもか」
少し、疑わしげな双眸に、なってしまうカーチスだ。
今、置かれているカレンの現状を鑑みると、どうしても、引き受けたとは思えない。
「勿論だ」
「バドもか」
リュートが、口を挟んだ。
すんなりと、バドが手伝うとは、考えられなかった。
「ああ。実験に付き合うのが、条件だがな」
「……大変そうだな」
「今回ばかりは、俺が、餌食になる」
喪失感がない。
むしろ、堂々としていたのである。
自分が頼んだ以上、自分が引き受けるべきだと抱いたのだ。
「じゃ、頑張って、罰掃除でもやるか」
「だな」
掃除をするため、歩いていく六人だった。
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次回は、閑話になる予定です。