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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
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第109話

 時間を見つけ、リュートは魔法科がいるオラン湖へ、出向いていた。

 一人で行かせると、とんでもないことを、起こす恐れもあると、セナも付き合っていたのである。


 すでに、目的の一つでもある宝箱を、見つけていたのだった。

 一班には、余裕ができていたのだ。

 勿論、剣術科では、他の班たちは、体験学習を続行していた。




 森の中で、宝を探し回っているバッサとエリザ。

 バッサの全身に、色とりどりなペイントが掛かっている。

 木に、かけられている蔓を調べているところ、頭からペイントが、流れ落ちてきたのだ。


 以前、トリスが仕掛けた罠に、掛かっていたのである。

 とても、簡単な罠になっていた。

 無様な自分の姿に、バッサが顔を歪めている。

 ベトベトで、気持ち悪いのだ。


 罠が、仕掛けられていることにも驚きだが、それ以上に、容易に罠に引っ掛かっているバッサに、呆れているエリザだった。

「何、やっているのよ……」

「……面目ない」


 マヌケないでたちに、エリザが嘆息を吐く。

「このまま、行くわよ」

「えっ。この格好で?」


 エリザが、ジト目で睨んでいた。

 途轍もない圧を、ヒシヒシと感じている。

 時間が、なかったのである。


「負けられないのよ」

「……わかりました」

 反論を言える立場ではない。


「だったら、行くわよ」

「はい……」

 うな垂れながら、エリザの後を、着いていくバッサ。




 オラン湖では、傷だらけのカーチスを捉えた瞬間、リュートが駆け寄っていた。

 全身の至るところが、傷だらけだったからだ。

 無数に、治療を施した跡が、顔に残っていた。

 気遣うような眼差しを、注いでいるセナ。

 リュートの後に続き、近づいていったのである。


「どうした? 誰に、やられた?」

「……」

 問いかけられても、答えられない。


 徐に、諜報員たちとやりあったのかと、巡らせたのだ。

 そうした場合、報復しなければ、ならないと抱いたからだった。


「それとも、トリスの罠に、引っ掛かったのか?」

「……」

「カーチス?」

 親身に窺っているリュートだ。


「……いや。違う。大丈夫だ、気にするな」

 痛ましそうな双眸で、セナが、カーチスを、上から下まで注いでいる。

 ある程度、治療を施されているが、全身、傷だらけだったのだ。


(随分と、カレンにやられたようね……)


 引きずるように、連れて行かれた姿を、眉を寄せながら、思い返している。


(ご愁傷様)


 一生懸命に、何でもないと、笑おうとしていた。

 だが、傷に痛みがあるようで、歪んでいるようにしか見えない。

 無理にしている様子に、ますます困惑していった。

 カレンにやられたと、リュートは気づかない。


「本当にか?」

「本当に、気にするな。そして、考えるな。無視しろ」

「……わかった」

 とうとう面倒臭くなって、考えることを諦めた。


「よしっ」

「で、ブラークとキムは?」

 少し離れた場所で、とても暗い顔で、沈んでいたのである。

 その周辺では、魔法科の生徒たちが、各々で、動き回っていたのだった。


 暗い二人を、気にする素振りがない。

 完全に、放置していたのだ。

 目を細め、見つめているセナだった。

 ある意味、異様な光景でもあった。


「……あれも、気にするな」

 渋面しているカーチスだ。

「そうなのか?」

「そうだ」

「わかった」

 カーチスの言葉に、素直に応じていた。


(何で、素直に従うのよ……)


 未だに、魔法科でのリュートの立ち位置が、見えないセナである。

 セナの顔には、疲れも、滲ませていた。


「リュートと、セナじゃない? どうしたの?」

 三人の前に、忽然と、カレンが姿を現した。

 その形相は、とてもにこやかだった。

「遊びに来た」

「その付き添い」

「そう」


 突如、カーチスが、硬く口を閉ざしていた。

 セナは気づくが、二人は気にせず、喋っている。

「精霊呪文の方は、もう、大丈夫なのか?」

「勿論」

 満面な笑顔を覗かせている。

 突然、現れたリュートに、コツを教えて貰い、その後は、ひたすら練習をし、あれほど苦戦していた精霊呪文が、完璧に仕上がっていた。


「そうか」

「えぇ。カーチスも、付き合ってくれたのよ。それで、随分と、上達したみたい」

「そうなのか……。それで、傷だからだったのか」

「そうなの。身体を張ってくれて。そのおかげで、上手く、精霊呪文を、使いこなせるようになったの。ね、カーチス」


 微笑むカレン。

 どこか、有無を言わせない空気を、まとっている。

 けれど、そうした空気感に、気づかない。


「……ああ。そうなんだ」

 完全な棒読みにもかかわらず、不審に、思わないリュートだった。

「ブラークたちも、手伝ったのか?」

「いいえ。ブラークとキムは、自ら反省している最中なの」


 パチパチと、リュートが瞬きを繰り返す。

「自ら?」

「えぇ」

「ブラークとキムが?」

「勿論よ」


 ずっと、カレンが笑っている。

 だが、目が笑っていない。

 意外過ぎる二人の行動。

 リュートが、目を丸くしていた。


「そうなのか。随分と、大人になったな」

「そうなのよ」

 リュートとセナが訪れる前に、ラジュール以上の圧で、カレンが、説教を二人に施していたのである。

 長時間に渡ってだ。

 その間、魔法科の生徒たちは、慣れたように、それぞれに行動していた。


 ようやく、解放された二人。

 魂が抜けたように、ぐったりと、うな垂れていたのだ。


「トリスと、クラインは?」

「あそこよ」


 クラインから、簡単なレクチャーをして貰い、精霊呪文を使えるようになり、トリスは真面目に練習をしていたのである。

 次の、カレンの的に、ならないように。

 クラインは、まだ、不慣れさが残る仲間に、丁寧に指導を行っていた。

 勿論、理由は、トリスと同じだった。


「もう完璧に、なっているんだろう?」

「えぇ」

「教える方に、廻らなくっても、いいのか?」

 ふとした疑問を、投げかけた。

 いつも、クラインと同様に、指導する方に、回っていたからだ。


「ブラークとキムは、まだ、動ける状態じゃないから、カーチスを見てあげようと、思っていたところなの」

「そうなのか」

 カレンの言葉に、フリーズしている。


「何、カーチス?」

 微笑みを巡らされ、さらに、落ち着きがない。

「……え、あ、……大丈夫だよ、カレン。リュートが、来てくれたから、リュートに、見て貰うから」

 必死に、言い繕っている姿に、妙に、痛ましく映って、見えるセナだった。


(藪蛇よ、それじゃ)


「カーチス。私じゃ、不満なの?」

 これ以上ないぐらいに、笑顔を滲ませている。

「……いいえ。……ただ、カレンが、大変かなって」

 段々と、にこやかなカレンを、見ることが怖くなっていく。

 徐々に、視線をはずしていった。


「大丈夫よ。私は、元気だから。リュートも、そう見えるでしょ?」

 促され、素直に、胸を張っているカレンに、双眸を注ぐ。

「……そのようだな」

「でしょ。だから、カーチス。一緒にやりましょうね」

「……はい」

 有無を言わせないカレンに、連行されていくカーチスを窺い、セナが憐れんでしまう。


「忙しそうだな」

「そのようね」

「帰るか」

「そうしてくれると、助かるわ」

 二人は、剣術科が、滞在しているところへ、戻っていったのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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