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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
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第108話

 剣術科では、一睡もしていないリュートが、誰よりも、朝から元気に、朝の鍛錬をこなしていたのだった。

 疲れている生徒たちが、続出している。

 鍛錬を欠かさない姿に、生徒の多くが、ジト目で窺っていたのだ。

 元気なリュートを、鋭い眼光で、セナが眇めている。


(体力バカ)


 戻ってからも、セナは眠ることが、できなかった。

 そのため、すこぶる機嫌が悪い。

 周りも、誰一人として近づかなかったのだ。




 剣術科は、非常に、ざわついた状態に、なっていたのである。

 原因の一つである、夜中の爆音。

 生徒のほとんどが目を醒まし、何事かと、騒然となっている状況を、剣術科の生徒の護衛に、当たっていた一部の教師たちが宥め、落ち着かせていたのだった。


 爆音騒動もあり、十分な睡眠がとれないことも、生徒たちの疲れの要因となっていた。

 そして、テロスたち六班が、未だに戻ってこないことに、一部の生徒たちの中で、訝しげていたのである。


 ダンとパウロだけは、爆睡していたこともあり、夜中の爆音騒動に気づいていなかった。

 朝、目覚めるまで、ぐっすり眠り込んでいたのだ。


「その図太い神経、信じられないわね」

 冷たい双眸を、ローゼルが注いでいる。

 眠れなかった一人だ。

「しょうがないだろう。だったら、起こせよ」

 まさか、寝ている者がいるとは、誰も思わなかったのだった。


「普通、あんな大きな音、起きるでしょ」

 さらに、目を細めていた。

「「……」」

 自分たちの失態なので、それ以上、何も言い返せない。

 ブスッとしたままだ。


 溜息を漏らし、ローゼルが澄み切った空を見上げる。

 気持ちとは裏腹で、清々しいほど、眩しい空だった。


「……これから、どうするのかしら?」

「何がだ?」

「体験学習の続きよ」

 ローゼルの返答にも、首を傾げている二人だ。


 原因不明の爆音に、カイルが大丈夫と説明していたが、どうしても、腑に落ちなかった。だから、このまま、体験学習が、中止になる可能性を、見出していたのである。

 もう一度、盛大な溜息を吐いた。


「……不測の事態が、起こったのよ。続けられる訳ないじゃない」

「大丈夫だろう。先生たちも、大丈夫だって、言っていたんだろう?」

 楽観的なダン。

 ただ、ただ、呆れるしかない。




 騒然としている現状を、カイルが見回していた。

 芳しくない状況だ。


(よくないな)


 鍛錬をしている者や、食事の用意をしている者、様々な生徒たちの顔を、窺っていたのだった。

 どの顔も、落ち着きがない。

 疲れを滲ませ、ざわついていた。

 アクシデントの連続に、辟易しているが、カイルの表情に、あまり浮かんでいない。

 経験の差である。


(とにかく、落ち着かせないとな。いつも通りに、行動をさせないと)


 生徒たちの間を、颯爽と、通り抜けていく。

「何をしている。体験学習は、終わっていないぞ!」

 声を高く張り上げ、動揺を隠せない、生徒たちの双眸を、見つめていった。

「少し、気が緩んでいるんじゃないのか!」


 カイルの声で、生徒たちが、一斉に、自分たちの仕事をしていく。

 そうした仕草に、カイルの口角が、上がっていったのだ。


「先生。テロスたちは、今後、参加しないんですか」

 疑念を抱いているローゼルが、投げかけてきた。

 カイルの言葉に、惑わされなかったのである。

「……そうだな」

 歯切れが悪い、返事しかできない。


(あちらにも、行きたいが、持ち場を離れる訳には……)


 揺れ動く心。

 至急、テロスたちの救出をしたかった。

 だが、周りの教師たちから、止められていた。

 心の中で、嘆息を吐いている。


「……ケガでも、したんですか?」

「……そうなるかな」


 どこか、曖昧な返事だ。

 視線を、宙に彷徨いさせながら、どうにか、言葉を紡ぎ出している。

 納得のいかないローゼルを、双眸に捉えていた。


(どうするかな……)


「何か、あったんですか? 詳しい説明は、してくれないんですか?」

 容赦ないローゼルの質問攻めに、たじろぐカイルだ。


(俺自身、どうなっているのか、知りたいんだが……)


 救出に向かうのを止めた、教師たちの顔を、忌々しげに掠めている。

 心の中で、苦虫を潰しているカイル。

 だが、テロスたちの状況が、把握できない状態で、どう言えばいいのかと、考えあぐねいでいた。


 チラリと、鍛錬しているリュートの姿を捉える。

 黙々と練習をし、汗を流していた。


(リュートに、聞くか? バドは、一体、どんな実験を、させるつもりかと)


 経験者でもあるリュートに聞く方が、早いと巡らせる。

 けれど、ローゼルの質問に、他の生徒たちも、興味があるようで、聞き耳を立てている状態だった。


(こんな状態では、無理か……)


 何度目か、わからない嘆息を、心の中でしていた。

「……これが、終わったらな」

 歯切れが悪いカイルの仕草に、胡乱げな形相になるローゼルだった。

 突如、生徒たちが、騒然と、ざわつき始める。


 口を開こうとした途端、カイルの視界に、テロスたちを浮遊させた状態で、何食わぬ顔でバドが姿を現したのだ。

 テロスたちは、意識がないようで、眠っているようだ。

 そして、六人を軽々と、浮遊させている状況に、多くの生徒たちが、大きく口を開け、眺めていたのである。


 異様な光景に、警備している教師たちも、息を飲んでいた。

 その中で、平常通りなのが、リュートだった。

「バド。実験が、終わったのか?」

 瞬時に、捕まったテロスたちを見て、テロスたちを、実験体にしたことを察していた。


「まぁまぁかな。十分に、納得できるデータが、取れなかった」

 不服そうな表情を、バドが滲ませている。

 そして、周囲を窺っていたのだった。

「何を、やっている?」

 矛先を、リュートに傾けている。

 あり得ない状況に、剣術科の生徒たちは、愕然と、様子を窺っていたのだ。


「何がだ?」

 きょとんと首を傾げ、獲物を狙う双眸のバドを凝視していた。

「鍛え方が、足りない」

 バドの言葉が理解できず、顰めっ面だ。


「何を、やっているんだ、リュートは。もっと、あいつらを鍛えろ。魔法の耐性が、弱過ぎるぞ。もう少し、粘れると踏んでいたのに……」

「俺は、剣術科だ」

 不愉快な姿にも、バドは動じることもない。

「いつも、魔法科では、使っていただろう?」

「あれは……」


 思わず、リュートが視線をそらした。

 何度も、魔法を使い、教室を破壊した過去が、通り過ぎていく。

 そのたび、友達は、ケガを負っていたのだ。

 してしまった後、一応、リューとなりに、後悔した時もあったのだった。


「足りない、足りない。もっと、爆発させろ」

 危険極まりがない言葉を、バドが連発していた。

 黙り込んだまま、口を尖らせている。


 カーチスたちが、頑丈になったのは、リュートがところ構わず、魔法を使ったせいもあるが、バドの実験体にさせられたことも、身体が頑丈になった一因だった。

 リュートとバドが、話している間も、バドの近くで、テロスたちが浮遊している。


 辛うじて、理性を失わないでいるカイル。

 頬を引きつりながら、様子を眺めている。


「バド。そろそろ、テロスたちを、下ろしてくれても、いいんだぞ」

 頬を上げているが、そのカイルの眼光が、笑っていない。

 言われ、ようやくカイルの姿に、バドが双眸を巡らす。

 つられる形で、リュートも傾けていた。


 慇懃であるが、冷めた眼差しだ。

「確か……。カイル先生でしたね」

「そうだ。バド・レスニー」

 レスニーと言う響きに、剣術科のマールが瞠目し、食い入るように、近くにいるバドのことを捉えていた。

 頭からつま先まで、見つめている。

 そうしたマールの動きを、見逃さないバド。


「……私のことを、知っていると言うことは、ミシャール王国の出か?」

 唐突に、ワナワナと、マールが震えている。

 二人の様子が理解できず、リュートが渋面していた。

 それは、他の生徒たちも、同じだった。


 ある程度、二人の会話を、把握できる教師たちは、顔色に変化がない。

 不敵に、バドが笑っている。

 身体を強張らせ、視線を剥がすこともできない。


「聞いている」

 鷹揚なバドに促され、どうにか口にする。

 声音だけで、気圧されていたのだ。

「……はい。ですが、私は、貴族ではなく、庶民です」

「そうか」

 興味が薄れていく。


「マール。バドのことを、知っているのか?」

 目を見張りつつも、リュートが尋ねたのだった。

 尋ねられた方は、どう応えていいものかと、両者の顔を見て、狼狽していた。

 カイルは、軽い眩暈を起こす。

 そして、憐れなマールの姿を窺い、代わりに口を開いた。

「リュート。聞いていないのか? バドから」


「何を?」

 溜息を漏らし、何も、話していないバドを、カイルが半眼していたのだ。

 された方は、涼しい顔を漂わせている。

「親しんだろう? なぜ、話さない?」


「私は、隠していたつもりはない。聞かれなかったことだ」

「……」

 優雅に笑っているバド。

 ついつい、ジト目になってしまう。

 軽く目頭を押さえ、他の生徒たちも、好奇な目を滲ませている状況に、舌打ちを打ちたくなっていった。


「……バドは、ミシャール王国の、レスニー公爵家の五男だ」

 多くの生徒が、瞠目している中で、リュートだけは変わらない。

「それで?」

「それでって……。一応、高貴な貴族ってことだ」


 あえて、王国中に広まっている、変人の巣窟になっていると言う部分だけは、省いていた。ミシャール王国の中で、代々、宰相まで勤めている家柄でありながら、家系に変人が集まっていると、国中に広まっていたのである。

 バドなりに、名誉も、あるだろうと言う優しさからだ。


「それが、どうしたんだ?」

「「「「「……」」」」」

「バドは、バドだろう?」

「リュートの言う通りだ。私は、私だ」

 バドの口角が、楽しげに上がっている。


「……そうだな。ま、気にするな。それよりも、早く、テロスたちを、下ろしてくれないか?」

「そうだった」

 運ぶため、浮遊しているテロスたちを、慣れた手つきで、地面に下ろした。

 下ろした瞬間、続々と、潜んでいた教師たちが出てきて、テロスたちの容態を確かめる。


「大丈夫だ。移動させるのに、騒がれると、面倒だったので、眠らせておいた」

 的確なバドの言葉。

 その言葉を、鵜呑みにしない。

 教師たちは、テロスたちの容態を、入念に見極めていた。

 手馴れている教師たちの作業に、他の生徒たちは、胡乱げだ。


「何の実験をさせた?」

 低い声音で、平然と構えているバドを、カイルが眇めている。

「それは、秘密だ。まだ、完成もしていないのに、喋る訳もないだろう」

 教師と、話しているにもかかわらず、態度が、鷹揚なままだった。

 それに対し、怒る素振りはない。

 ただ、カイルが怒っているのは、勝手に、自分の生徒を、実験体にさせられたことだった。


「力ずくでも、喋らすと言ったら?」

「……対抗するまでだ。私も、研究に対し、真摯でいたい」


 睨み合う二人。

 息を飲んでいる生徒たち。

 まさか、カイルに、歯向かう生徒がいるとは、考えてもいなかったのだ。

 徐々に、認識が変貌していく生徒たち。

 生徒たちも、テロスたちがバドによって、何かされたことを察し始め、仲間を傷つけられたと、横柄なバドに対し、戦闘体勢を取り始めていった。


 その陣営を見比べ、リュートは、どちらにつこうかと、ウキウキと逡巡していた。

「リュート。顔が、ニヤけている」

 呆れ顔のセナに窘められ、キリッとした表情に戻した。

 リュートたちのやり取りで、頭が冷えていったカイル。

 放っていた殺気を、瞬く間に霧散させる。


(何をやっているんだ。 生徒相手に……)


「お前たち。戦闘体勢を解け」

 カイルの指示に、次第に生徒たちが、納得できないもの、戦闘体勢を解いていった。

「いいのか?」

 至って、冷静なバドであった。

「生徒を、巻き込む訳にもいかない」


「そうか」

「それに……、バドは、ラジュールの生徒だろう? そう簡単に、ねじ伏せるのは、ひと苦労させられそうだしな」

 それなりに、バドの腕前を、把握していたのである。


「つまらないな。久しぶりに、リュートと、組めそうだったのに」

「そうだな」

 つまらなそうな顔を、バドも、リュートも、覗かせている。

 二人は、やる気満々だったのだ。

 魔法科では、何をやっているんだと、首を竦めているカイルだった。


「こいつらは、置いていく」

「な、バド。どうするんだ、この後は?」

「村で、うろちょろしている雑魚を、捕まえる」

 バドの話した内容に、カイルが眉を潜めている。


「手伝うか?」

「いや、大丈夫だ」

 ニコッと笑っているバドに、マールが戦慄していた。

「じゃな、リュート」

「おう」


 鮮やかに、まとっているローブを捌き、バドが森へ消えていった。

 その方向は、魔法科が滞在している場所ではなく、村へと続く方向だった。

 頭の痛い出来事に、カイルは、何とも言えぬ顔を、滲ませていたのである。


読んでいただき、ありがとうざいます。

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