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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
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第105話

 薄暗い道を、歩いていくリュート。

 先ほどより、人通りが、さらに、少なくなっていった。

 不意に、慣れた気配が二つ。

「何だ?」


 段々と、近づいてくる。

 立ち止まって、待っていると、セナとカレンだった。

 二人は、ローブをしっかりと纏い、その下には、いつ、何が起こっても、対処できるように、武器などが、備えられていたのである。


「どうした?」

 何気なく、尋ねた顔に、二人が憤慨していた。

「「どうしたじゃないわよ」」


 わからないと、リュートが首を傾げている。

 捲くし立てるように、二人が喋り出した。

 きょとんとした顔に、なってしまう。

 二人の話を黙って、聞いていたのだ。

 けれど、同時に喋っているせいで、全て把握することができない。


(……怒っているのがわかるが、何に、怒っているんだ?)


 眼光鋭い二人。

 その中でも、カレンの方が険しかった。

 若干、目を細め、眇めて、問い質している。

「ところで、カーチスは?」


「たぶん、帰っている?」

 やや首を傾げ、自信がないリュートだった。

 酒に酔い、千鳥足だったことを、脳裏に掠めている。

 まっすぐ帰ったはずだが、気が変わり、酒場にいって、ナンパしている可能性もあった。


「帰っていない可能性も、あるってこと」

 とても、冷え冷えとした声音だ。

 カレンの周囲には、絶対零度の冷気が漂っている。

 隣にいるセナの表情が、僅かだが、引きつっていたのだった。


 その中でも、リュートの形相だけが変わらない。

 チラッと窺ったセナが、信じられないと言う顔を滲ませていた。


「……うーん、その可能性もあるな」

「……」

 今にも、武器を片手に、動き出しそうなカレン。


(……魔法科の生徒って……)


「……大丈夫? カレン」

 気遣うような双眸を、セナが巡らせている。

 そして、悪びれる様子もないリュートだ。


 キイッと、半眼している。

 いきなり、セナに睨まれても、何で、睨まれているのか、理解できていない。


(なぜ、睨む? 抜け出すのは、大して、いつもと変わらないぞ?)


 抜け出す、当初の計画では、魔法で、近辺にいる全員を、眠らせようと、画策していたが、セナやダンたちが爆睡していため、使用することがなかったのだ。

 そのまま、歩いて、抜け出してきたのだった。


 その後、セナが目を醒まし、リュートがいないことに気づき、捜し回っていたのである。そして、その途中で、カーチスたちを捜していたカレンと出くわし、合コンが行われている場所を、一緒に探していたのだ。


「何、勝手に抜け出しているのよ」

「別に、カーチスたちに、呼び出されたから」

「だからって、行くことはないでしょ」

 物凄い剣幕で、話が止まらないセナだ。


(何で、こんなにセナは、怒りん坊なんだ? ……同じだから、カレンとも合うのか。なるほど)


 合点がいき、小さく、口角が上がっている。

 そんな姿に気づかず、喋る勢いが止まらない。


「頭数が足りないって、言うから」

「頭数って」

「カーチス。凄く、合コン楽しみにしてからさ」

 カーチスと言う名に、ピクンと、カレンの身体が反応する。

 頬が、引きつりそうになるのを、セナが必死に堪えていた。


「……そんなに、楽しみにしてたの?」

 やや顔を伏せているカレン。

 怒りをぶつけられながらも、意に返さなかったリュートから、顔を窺うことができない。

 ただ、隣にいるセナだけが、能面のような顔を、見ることができたのだった。


「そうだ。物凄くな」

 のん気に、笑顔を覗かせていた。

 疲れた顔してセナが、バカと呟くが、気づかない。


 軽やかなリュートの口が、閉じることがなかった。

「カーチスのやつ。張り切って喋っていたぞ。向こうも、カーチスに、いい印象が持てたはずだ」

 このところ、ナンパが上手くいっていなかった、カーチスたちが沈んでいたので、久しぶりに上手くいった状況に、単純に喜んでいたのである。


「大成功だった?」

「そうだな」

「へぇー。それは、羨ましいね」

「そうだろう」

「進みそうなの? その女性と」

「カーチス次第じゃないのか?」

「そんなに、上手い具合に、ことが運んだのね」

「ああ」


 共感できて、リューと一人だけが、ニコニコとしている。

 軽い眩暈を、セナが起こしていた。

 まだ、知り合って間もないが、何となく、カレンがカーチスのことを、好きなことは感じていたのである。それなのに、カーチスのことを、バラす能天気な姿に、脱力感しかない。


(知らないから。リュートの友達が、どうなっても……)


 チラリと、カレンの様子を窺う。

 メラメラとする炎が、彼女の背後で、燃え上がっていた。


(大丈夫かしら? ホントに)


 カレンの殺気を感じたようで、リュートも、瞬きさせている。

「何、怒っているんだ?」

「……別に……。いいえ。怒っているは、勝手に、抜け出したから」

「ま、いつものことなんだし、そんなに、目くじらを立てるなよな。せっかく、いい思いをしたんだから」

「いい思いね。わかったわ」


 ニコッと、カレンが微笑む。

 だが、その目が、笑っていない。

 物凄い殺気を、漂わせていた。


「とにかく、今回は……」

 言葉が、途中で、途切れてしまう。

 デカい爆音が、響いたせいだ。


「何?」

 突然の爆音に、訝しげるセナ。

 リュートとカレンは、物怖じしない。

 平然と、爆音がした方へ、視線を傾けていた。


「また?」

「今日は、やけに出てくる」

 うんざり顔を、リュートが滲ませていた。

 わかっている二人。

 わからないセナが、ムスッとしたままだ。


「捜している最中、何人か見かけた」

 リュートの話に、顔を顰めているカレン。

「捕獲して、渡しておいた」

「また、無茶をして」


「別に、無茶はしていない」

 ムッとした顔だ。

 改めて、リュートのいでたちを窺うと、服が、ボロボロになっていたのである。

「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?」


 慌ただしく、セナがリュートのことを心配している。

 それに対し、カレンは、大して心配した様子がない。

 ある意味、見慣れた光景でも、あったのだ。


「平気だ。大したことはない、治療だって、終えている」

 促され、よくよく見ると、傷は、塞がっていたのである。

 ようやく、安堵の息を吐いた。


「大丈夫よ、セナ。無茶をするだけで、諜報員に、やられることはないから」

 信頼しているカレンの眼差し。

「諜報員って……」

 セナの目が、大きく見開く。


「知らないの?」

 逆に、カレンも、驚愕していた。

 チラッと、リュートを睨み、何とも言えぬ顔を、愕然としているセナに、巡らせていたのだ。


 現在、学院が置かれていることを、掻い摘んで説明してあげる。

 耳を済ませ、カレンの説明に、真摯に聞いていた。

 頻繁に、村に遊びに行くリュートたちは、かなりの確率で、諜報員たちと出くわし、捕獲していたことを過去も、同時にバラしたのだった。


(だから、戦闘に、慣れていたのね……)


 ジト目で、リュートを睨んでいたのだ。

「何だ、その目は?」

 納得いっていないリュート。

「当たり前でしょ? 何で、説明してくれなかったのよ」


 憤慨している姿に、カレンが哀れむ眼差しを注いでいた。

 自己チューなところがあるリュートに、説明を求めても、性格上、無理だと抱いていたのである。


「気がつかない方が、悪い」

 気づかない、自分も悪いと言う気持ちもあるので、セナが、キツく唇を噛み締めていた。

「ところで、この爆音は、カーチスたちかしら?」

「違うだろう。方向が違う」


「そう。じゃ、どこかの諜報員が、トリスの罠に、引っ掛かったのかしら?」

「その可能性もあるし、気づかず、先生たちが、引っ掛かった可能性もある」

「……そうね」


「先生たちにも、教えていないの?」

 胡乱げな眼光を、巡らせているセナ。

「当たり前だろう。先生から、逃れる罠でも、あるんだからな」

「「……」」

 微妙な顔を、滲ませる二人だった。


「でも、あの方向は、トリスがいった方向だから、トリスのやつ、出くわしたのかもな」

 心配する様子もないリュート。

 徐々に、眉を潜めているカレンだった。

「少し気になるから、様子を見てくる」

「大丈夫なのか?」


「大丈夫よ。昔は、何度も、手伝わされたんだから。それに、深入りはしないつもりよ。一応、遠目から、見るつもりだから」

「そうか」

「えぇ」

 リュートと話し終えると、カレンが、セナの方へ顔を傾ける。


「じゃ、私は、ここでね」

「本当に、大丈夫なの?」

 心配の色が、消えない。


「平気よ。リュートたちと違って、無茶はしないから。それに、自分の力は、わかっているつもりよ」

 ニコッと、笑顔を覗かせ、瞬く間に、二人の前から、爆音がした方へ駆けていった。

 その姿を、違う形相で、二人が見送っている。



読んでいただき、ありがとうございます。

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