第104話
戦闘の観戦を終え、仁王立ちしているラジュールの前で、三人が立たされている。
その顔は、やや、うな垂れていた。
そして、致命傷はないものの、身体中、傷だらけで、ボロボロだ。
リーダーのザック以外を、相手にしていた三人。
時間をそれなりに消費したが、部下たち全員を、倒していたのである。
意識が失っている者や、意識がある者の、しっかりと拘束され、身動きが取れない状態になっていたのだった。
納得できていないラジュールが、冷ややかな視線を注いでいた。
「何だ、あの動きは」
「「「……」」」
口答えできない三人。
ひたすら、黙り込んでいた。
ただ、ただ、ラジュールの剣幕に、気圧されている。
まず、顔を伏せているトリスに、眼光を巡らした。
「仕掛けてある罠に、頼り過ぎだ。相手だって、バカじゃない、お前の陽動を、見込んだ動きで、罠が、どこら辺に、仕掛けられているのか、見破られる。仕掛けた罠に頼らず、自分の腕で、相手を仕留めるようにしろ。何度、言わせればいい」
仕掛けてある罠に、頼り過ぎの戦い方を、以前から、指摘していたが、改善される様子がなかった。
最初は、仕掛けてある罠に動揺し、あたふたするやからがいるだろうが、罠が仕掛けられていると、冷静さを取り戻せば、トリスの動きを分析され、逆に、仕留められる可能性だってあると、ラジュールは危機感を憶えていたのだった。
そして、案の定、何度か、トリスがやられそうになっていた。
リュートや、クラインの瞬時の判断のおかげに、致命的なケガを、することがなかったのだ。
「……はい」
悔しげに、唇を噛み締めているトリスだった。
次に、身体を強張らせているリュートを捉える。
「剣を、使うのはいい。魔法も、使えるんだ。それを活かした戦いをしろ」
「俺は……」
素直になれず、半眼しようとするが、怯んでしまう。
それ以上の眼光を、傾けていたのだ。
「剣に拘り過ぎて、そんなに、ボロボロになったのは、誰だ?」
「……」
「魔法も、組み込んでいたら、もっと、スマートに戦えたし、もっと、早く片付いていたはずだ。もし仮に、彼らの後に、もう一団、構えていたら、どうなっていたと思う?」
凍えるような双眸を、フリーズしているリュートに注いでいる。
さらに、緊張していくリュートだった。
「お前の拘りのせいで、仲間を失っている可能性だって、あるんだ。その点を、よく考えろ。窮地に立たされた、お前は、以前、何をした?」
「……」
「また、繰り返すのか?」
「……」
何も、言い返せない。
トリスと同じように、キツく、唇を結んでいる。
最後に、クラインに視線を傾けた。
真摯に、説教と言う名の評価を、待っていたのである。
潔い態度に、少しだけ、ラジュールの溜飲が下がっていった。
「……目立ちたくない、お前の考えは、尊重したいが、実力も、あるんだ。もっと、前に出て、攻撃が、できたはずだ。前に出られる、お前が出ないで、どうする? 仲間を、みすみす見殺しにするのか? お前の悪い癖だ。もっと、前に出る、スタイルを考えろ」
「……すいませんでした」
真面目に、生徒を叱責しているラジュールの言葉を、意識している諜報員たちが、目を丸くしながら耳にしていた。
(((((どれだけのクオリティーを、求めているんだ!)))))
彼らの目からしても、リュートたちの実力は、すでに実戦並みに、優れていたのである。
即戦力のなると。
けれど、納得していない姿に、ただ、ただ、目を見張っていたのだ。
(((((フォーレスト学院の生徒って、レベルが高い。リュート・クレスターって、どれだけ凄いんだ)))))
まさか、目の前で叱責されている生徒の中に、情報を得ようとしていたリュートが混じっているとは、気づいていない。
そのため、遊んでいた生徒で、ここまで強いならば、自分たちが求めていたリュート・クレスターは、どれだけ凄いのかと、勝手に過大評価していたのである。
こうした彼らの思いが、上層部に伝えられ、フォーレスト学院の評価が、上がっていくのだった。
「とりあえず、お前たちは、帰れ」
三人の目は、いいのか?と、訴えていた。
「こんな大きな騒ぎに、気がつかないのは、ただのバカだ」
冷たく切り捨てたラジュール。
他の教師たちを、素直に哀れむリュートたちだった。
「「「……」」」
よく見ると、続々と、警備の者たちや、教師たちが駆けつけ、拘束してある諜報員たちを、慣れた手つきで、片づけていたのである。
ラジュールとザックの派手な戦闘で、何かあっとことを推測し、ある程度の人数を集めてから、この場に駆けつけたのだ。
威力の激しい戦闘に、誰が相手をしているのか、瞬時に見定め、行動していた。
「カーチスたちも含め、後で、課題を与える」
「「「……」」」
「……返事は」
有無を言わせない形相。
リュートたちが、素直に慄いていた。
「「「はい!」」」
元気よく、返事を返したのだった。
この手のラジュールの形相に、立ち向かう生徒なんて、一人もいない。
「では、解散」
三人を振り返ることなく、その場から、離れていく。
その背中を、黙って、見送っている三人だ。
手際よく、拘束されている者を運んでいる、教師たちのところへ、ラジュールが向かっていたのである。
今後の打ち合わせに。
「……帰るか」
何気ない口調で、トリスが二人に声をかけた。
僅かに、トリスの表情が硬い。
けれど、二人は、指摘しなかった。
トリス自身、以前から、戦いの仕方を模索していたが、自信がある罠に拘り過ぎて、意固地に陥って、変えることをしなかったのである。
「そうだね」
苦笑しているクライン。
黙ったまま、ムスッとしているリュートだった。
「どうする?」
「カーチスたちが、心配だから、追いかけるよ。他にも、いる可能性があるからね」
「そうだな」
千鳥足で、帰っていったカーチスたち。
その光景を、トリスが思い返している。
「で、リュートは、どうする?」
「帰る」
ぶっきらぼうに、口にした。
「俺は、念のため、罠の補強しにいく」
「怒られたばかりなのに?」
しょうがないなと、クラインが首を竦めていた。
「……罠は、悪くない。俺の戦うスタイルを、指摘されただけだ」
「そうだけど……」
やや不貞腐れ気味なトリスを、クラインが窺う。
「とにかく、補強しにいってくる」
スタスタと、トリスが二人の前から、離れていった。
背中が、話しかけるなと、言っていたのである。
「随分と、トリス、落ち込んでいたね」
隣にいるリュートに、双眸を巡らす。
トリスに、眼光を向けたままだ。
「そうだな。珍しく、ラジュールも、トリスに怒っていたからな」
「そうだね。ついてあげなくても、いいの?」
消えていった方を、気遣うような眼差しで、リュートが窺っている。
けれど、動こうとはしない。
その場に、立ち尽くしていただけだ。
「大丈夫だ」
「そう。じゃ、カーチスたちの様子を見ながら、帰るよ」
「そうか」
二人も、それぞれに帰っていった。
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