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とらぶる❤  作者: 彩月莉音
第4章 ドッキドッキな野宿体験学習
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第103話

「……俺は、貴様のせいで、いつも、二番手扱いだ。お前がいれば、あーだった、こーだったと、いつも、言われ続けたんだぞ」

 相当、溜め込んでいたせいで、身体も、震わせていた。

 そんな中、ラジュールだけが、溜息を漏らしている。


 くだらないと、無言で示していたのだ。

 ますます、ザックを苛立てさせた。


「……俺が、どんなに、歯を食いしばって、頑張っても、お前がいれば、もっと、スマートにできたとか……。いつも、言われ続けていたんだぞ。……その時の俺が、どれほど、悔しかったか……。挙句、お前がいれば、もっと功績があったと言われ、俺が、どんなに惨めだったのか……」

 悔しげに、歯を噛み締めている。


(((ただの妬みじゃん)))


 リュートたちや、諜報員の何人かも、ザックの吐露に、フリーズしていた。

 彼ら全員が、正式な諜報員ではない。


 国の騎士団に所属し、どうしても、リュートの情報を手にしたいと言う上層部が、優秀なザックたち、騎士団のメンバーを、学院に送り込んできたのである。

 名指しされたザックの方も、長年、鬱屈とした思いを馳せていた、ラジュールの顔を見てみたいと抱き、この件を引き受けたのだった。

 だが、ラジュールと対面した瞬間、今までの思いが、一気に爆発してしまったのだ。


「バカか」

 呆れた顔で、ラジュールがはっきりと言い切った。

 ばっさりと、切り捨てられ、絶句している。

「……バカだと……」

 血を吐くようなザックの声だ。


 それでも、ラジュールの表情が崩れない。

 嫉妬に、顔を歪めているザック。

 憐れむような顔を、リュートが注ぐ。


「愚だ愚だ言ってないで、勝負だ」

 乱暴に、吐き捨てた。

「愚だ愚だ言った、憶えがない」

 冷静に、返答したラジュールだ。

 ますます、怒りに火をつけていった。

「……」


 張りつめていた糸が切れた瞬間、ザックの身体が動いていた。

 咄嗟に、殺気のこもったザックの攻撃を、マントを翻しながら、するりと交わす。

 軌道をそれた呪文。

 ラジュールの背後にあった、木に当たり、爆発と共に、衝撃があった場所が消滅していた。

 まともに当たっていたならば、ラジュール自身、ただではすまない威力である。

 けれど、その表情は、ケロッとしていた。


 交わされても、ラジュールに対する攻撃の手をやめない。

 魔法攻撃と、剣技を駆使し、巧みな攻撃を仕掛けている。

 勿論、ラジュールも、応戦していた。




 徐々に、周りの木々や、地形が変わっていった。

 部下の諜報員や、リュートたちは、置いてけぼりだ。

 ザックは、目の前のラジュールしか、視界に入っていない。

「リーダーが、我を忘れるなんて……」


 今まで、見たこともない姿に、放心状態の部下たちだ。

「……ザック様のことは、置いておき、私たちは、生徒を捕獲します」

 いち早く復帰した者が、的確に指示を出していった。

 その声に、促されるように、止まっていた動きが、再開されるのだった。


 リュートたちは、すでに、いつでも臨戦態勢に入れる状態を、保っていたのである。

 襲い掛かってくる諜報員たちに、まごつくことがない。

 ザックの下にいた男が、的確に、部下たちを、分けていった。




「何、よそ見をしている!」

 目の前の決闘に、集中していないラジュールに対し、怒り狂っている。


(面倒なやつだ)


 目が充血しているザックを相手にしながら、リュートたちの様子を、しっかりと窺っていたのだ。

 そうした行為も、ザックにとって、癇に障っていた。

 バカに、されたようでだ。


 その間も、周りの光景が、変わっていく。

 荒れていく森の様子に、嘆息しか出てこないラジュールだった。


「一応、教師だ。生徒の安全を見守るのも、役目だからな」

 淡々と、当たり前のことを口にした。

 もっともらしい意見に、ふんと鼻であしらった。


 ザックの頭の中では、自分の部下たちが、確実に、目の前にいる生徒たちを、捕獲している映像しか映っていない。

 だから、目の前にいる、最大の敵でもあるラジュールに、集中していたのだった。


「だったら、俺を倒してから、生徒たちを、守ればいいだろう」

「そうさせて貰う」

 激しい戦いを、繰り広げているラジュールとザックだ。




 二人の戦闘から、少し離れた場所で、リュートたちの戦いも、砂埃を巻き上げながら始まっていたのである。

 双方とも、仲間と連携しながら、隙を与えることもない。

 無駄のない、素晴らしい戦いをしていた。


 魔法を、使用しないと言う縛りをつけたまま、リュートは剣のみだけで、相手をしている。

 学び出したばかりで、荒削りだが、相手に、後れを取ることがない。

 落ち着いて、リュートが戦っている。


 その光景を、確かめたトリスとクラインも、自分の闘いに、意識を傾けていった。

 油断や、隙を与えて貰えない相手だと、瞬時に、読み取っていたのである。




 いい具合に、三人とも、目の前の戦いに、集中していた。

 そうした様子に、ラジュールの口元が緩む。


(あれたちの、成長を確かめるには、いいかもな)


「よそ見するなって、言っているだろう!」

「言っているだろう。私は、教師だ。生徒の採点を、しなくてはならない」

「くそっ」

 バカにされた物言いに、容赦なく、魔法と剣技を、混ぜ込んだ攻撃を仕掛けていく。


 見事な攻撃にも、ラジュールは物怖じしない。

 軽やかな動きで交わしたり、適切な魔法で、撃退していたのである。

 そうした動きに、血が昇っていくザック。

 自分以上の腕前が許せないし、認めたくなかったのだ。


「俺は、血が滲むような努力を、重ねてきたんだぞ」

「それが、どうした?」

 冷めたラジュールである。

「……」


 さらに、ギアが上がったザック。

 その動きにも、意図も簡単に、対応していった。

 涼しい顔をしながらも、さらに、攻撃力が上がった姿に、密かに賞賛していたのである。


(ほぉー。さすが、騎士団にいるだけのことは、あるな。怒りに、燃えながらも、決して無駄な力が入らない、スタイルになっている。だが、私は、お前以上に、強いやつを知っている、そして、そいつらを、相手にしているんだ。この私が、負ける訳がないだろう。実力を見せて貰ったし、そろそろ、ケリをつけるか。あいつらの採点も、あるんでな)


 ザックよりも、ギアを上げた。

 先ほどよりも、見事な動きで、ザックの攻撃を防御し、自ら攻撃を加えていった。

 今までとは違う動作。


 目で、追うことが、困難になっていた。

 口惜しいげに、奥歯を噛むザックだ。

 額に、汗を滲ませていた。

 喋る余力さえない。

「……」


 元々、無駄に喋らないラジュール。

 攻撃を受けず、徐々に、魔法の攻撃を増やしていた。

 段々と、交わしきれなくなり、ザックが攻撃を受けるようになっていく。


(くそっ。俺は、負けない……)


 痛みに、顔を歪めそうになる。

 そうした隙を突くラジュールだ。

 意識が、僅かに刈られている間に、決定的な魔法で、仕留めたのだった。

 その場に、ザックが倒れ込む。


 念のため、身動きできないように、拘束の呪文を忘れない。

 一つ、息をつき、リュートたちの闘いに、視線を注ぐ。

 誰も、ラジュールたちの姿に、気を取られている者がいなかった。

 自分たちの戦いに、集中していたのだった。


「……集中して、戦っているのはいいが、こちらに、気づかないとは、お粗末だ。まだまだ、修行が足りないな」

 徐に、ラジュールが嘆息を吐いていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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